エコロジカルを意識し、サステナブルな生活が推奨されている今、製品を購入する際は時間をかけて熟考するようになった。暮らしに本当に必要なものなのか、時間を経ても使い続けていけるのだろうかと。それと同時に、プロダクトの用途を本来のものだけでなく、異なる可能性を探すようになった。決まった使い道しかないと思っていても、視点を変えれば他の使用法が見えてくる。頭を柔軟にし、想像力を働かせると新たな発見に気付く。それを教えてくれたのがコーヒーの抽出器具、フレンチプレスの存在だった。
プロダクトの新たな活用法を探して
環境に優しい暮らしを送るために取り入れたいのが、不用品に新たな使い道を見出すアップサイクル、廃棄物を再生し利用するリサイクル。ただ捨ててしまうだけでなく、異なる活用法でその輝きを取り戻すものも多い。
中でもアンティークやヴィンテージ品は以前と同じ利用法でなくても、今の暮らしに必要なもの、住まいを彩るものとして活用すれば、新たな魅力が増してくる。使い方に自身の個性が反映される方法で、既に実践されている方も多いだろう。
一方、今でも現役で使用しているプロダクトに他の使い道を探してみると新たな世界が見えてくる。こんな使用法が他にもあったのかと気付くのは、暮らしを豊かにしてくれる小さな発見だ。
きっかけは友人の些細なひと言だった。我が家にあるフレンチプレスを見て、これでミントティーを淹れると美味しいよと言われて試してみたのが始まりだ。フレンチプレスとはコーヒーを淹れるもの。その概念を崩してくれた瞬間だった。
フレンチプレスの歴史
フレンチプレスはご存知のようにコーヒーの抽出器具として知られている。耐熱性ガラスの容器にコーヒー粉を入れて、注いだお湯と馴染ませる。3~5分ほど置いたのち金網フィルターが付属した蓋をゆっくりと下げて濾せば、味わい深いコーヒーが完成だ。
フレンチプレスは1852年、フランス人のヘンリー・オットー・メイヤーとジャック・ヴィクター・デルフォージによって最初のデザインが発明された。しかしこの時の構造は金網フィルターをガラス容器に収めることができないものであったと言われている。
1928年、メイヤーとデルフォージのデザインを進化させたものがイタリアのアッティリオ・カリマーニとジュリオ・モネタによって特許が申請されている。後の1958年にファリエロ・ボンダニーニによって新たに改善されたデザインの特許が申請され、これはフランスで製造、シャンボールという名で人気を博すこととなる。
英国ではハウスホールド・アーティクルズ・リミテッドが、デンマークではボダムが製造したものがヨーロッパ中に普及され、現代に至るまでコーヒー抽出器具として高い人気を誇ることとなったのだ。
フレンチプレスの構造を理解する
フレンチプレスの構造は非常にシンプルで、お湯とコーヒー粉を入れる耐熱ガラスのポット、そしてこのポットにフィットした金網フィルターに棒(プランジャー)が付いた蓋がセットになっている。
お湯とコーヒー粉を馴染ませて、しばし時間を置いて蓋をゆっくりと下げる。金網フィルターで押すことにより粉がその下に閉じ込められ、注いだ際にカップに出てしまう事もなく、フレーバーをより深く味わえる仕組みとなっている。この構造を理解することが、他にどのような活用法があるのかを発見できる道標になるだろう。
より深く香りを楽しめる素材は何だろう?押すことでより味わいが増す飲み物とは?金網フィルターを上げ下げすることで出来るものとは?これらの点を明確にしていけば、フレンチプレスを更に活かす方法が見つかるに違いない。
フレンチプレスの楽しみ方
日本では紅茶の抽出器具として使用されることも多いフレンチプレス。この発想を利用して、モロッコで親しまれているミントティーをフレンチプレスで淹れてみよう。使用するのは中国緑茶とフレッシュミント。砂糖の量は好みによって調節しよう。さっぱりとして清涼感のある味わいで午後のブレイクタイムにぴったりな飲み物だ。
同様の方法でおすすめなのが、カルダモンティー。少量の生姜を絞り、紅茶の葉と数粒のカルダモンをガラスポットに入れ、暖かいミルクとお湯を注いで3分ほど待ったら抽出しよう。好みの分量の蜂蜜を加えれば、これから訪れる寒い季節に相応しいドリンクとなる。
果物を使ったカクテルにも挑戦してみたい。色合いの美しいドリンク、サングリアはどうだろうか。赤ワインとオレンジやレモン、苺等をカットして、少量のコアントローやブランデーをガラスポットに入れる。4時間~8時間ほど冷蔵庫で保管すれば果物の芳香を堪能できるサングリアに。異なるフルーツを入れてみたり、好みのハーブを入れても楽しめるだろう。
フレンチプレスの活用法は飲み物だけに留まらない。ハンドミキサーがないと作れないと思われがちなホイップクリームを作る事も可能なのだ。ホイップ用のクリームと砂糖をガラスポットに入れ、プランジャーを2分ほど上下に動かせばホイップクリームの完成だ。フレンチプレスの構造を活かした方法で、同様にミルクフォーマーを作る事も出来る。
フレンチプレスはこのように多くの用途が発見できるプロダクト。構造と仕組みを考慮して、他に何ができるのかと考える時間もまた楽しいひと時と言えるだろう。
想像力を働かせると、新たな世界の扉が開く
物事を理解する時に定位置からのみの視点では、常に変わらぬ思考しか持てない事がある。少し自分のいるポジションを変え、違う角度から眺めてみると、今までとは異なる風景が見えて来たと実感したことはないだろうか。それは思考や裁量と同様に対人関係にも当てはまり、更に購入した製品にも同じことが言えるのかもしれない。
時には自分で選び購入した愛着のある製品をとことん掘り下げて考えみてはどうだろう。他にどのような使い道があるのか、どんな活かし方があるのかを熟考してみる。これで何をしたいのか、どのように楽しみたいのかと考えれば、おのずとアイデアが湧いてくるに違いない。必要なものは自由な発想と想像力だ。
ひとつしかないと思っていた活用法に新たな道が見える時、自身の世界は新たな扉を開いてくれる。住まいの中には、そんな可能性を秘めたプロダクトが次の物語を語る瞬間を待ちわびているのかもしれない。
CURATION BY
1992年渡英、2011年よりスコットランドで田舎暮らし中。小さな「好き」に囲まれた生活を求めていたら、夏が短く冬が長い、寒い国にたどり着きました。