時代は変われば、身の回りにある素材も変わる。三井化学株式会社の有志が集うMOLp(モル、以下MOLp)では、「感性からカガクを考えるオープン・ラボラトリー」として、社会課題に向き合いながら素材の機能とともに、五感に訴えかける提案型のものづくりを行っている。2021年7月、3年ぶりとなる展示会「MOLpCafé 2021」が開催され、様々なアイテムが一般に公開された。急速に変化していく世の中で、悪とされがちなプラスチックだが、MOLpでは「脱プラスチックから改プラスチックへ」と、身近なプラスチックという素材の見直しを提案。消費者である私たち自身は、今後どのようにプラスチックと付き合っていくべきか、そのヒントを見つけにいこう。
始動から6年。三井化学の「MOLp®」とは
創業から100年以上にわたり、素材と技術を継承してきた三井化学グループ。そこに内在する「機能的な価値」や「感性的な魅力」を新たに見出し、これからの社会のためにアイデアを形にしながら可能性を提示する。そんなイノベーティブな活動を行うオープン・ラボラトリーが、「そざいの魅力ラボ -MOLp-」だ。普段は別々の研究をしている三井化学グループの研究者たちが、有志で集い活動している。
MOLpの活動がスタートしたのは、2015年。外部からデザインマネジメントの第一人者である田子學(たご まなぶ)氏をクリエイティブパートナーとして迎え、対話と実験を重ねながらものづくりに挑み続けている。以降、世界最大のデザインの展示会であるミラノサローネへの参加や、国内外のファッションブランド、プロダクトデザイナーなどとコラボレーション。素材メーカーという枠組みを超え、私たちの感性を刺激する表現は、大きな話題を呼んでいる。
テーマはNEO “PLASTIC” ISM。3年ぶりに開催された「MOLpCafé 2021」へ
世の中が不安定な状態が続く現在。気候変動から環境問題への意識が高まり、海洋ごみをはじめとする廃棄プラスチックにも注目が集まっている。サステナブルな未来のため、我々はプラスチックをどのように使い、プラスチックという素材自体もこれからどのように変化していくべきか。新たなプラスチックのあり方に、消費者側と生産者側の双方が向き合っていかなければいけない。
今回「MOLpCafé 2021」を開催するにあたり、MOLpが注目したのは、100年前にオランダの画家、モンドリアン(1872-1944)らによって提唱された芸術運動「ネオプラスティシズム(新造形主義)」だ。これは、従来の具象芸術に対して抽象芸術を理論化し、古い慣例や解釈の終わりを主張したもの。この運動は、暮らしのあり方にも大きな影響を与え、産業技術を用いた質の良い大量生産をもたらした。そして現在、大量生産・大量消費のあり方が問われる中で、新たな新造形主義に向き合うべく、「NEO “PLASTIC” ISM」を定義したのだという。
未来のために、使い捨てではないプラスチックを。「Beyond」をテーマにした素材の価値の追求
それでは、実際に展示されていたアイテムの一部を紹介していこう。
冒頭に展示されていたのは、32キログラムのケトルベル。この重さは、2018年UNEP(国連環境計画)が『シングルユースプラスチック』で報告した、日本で1人あたりが1年間で出すプラスチックゴミの重さだ。世界的に見ると、アメリカに次いで第2位となっている。これだけプラスチックの廃棄量が多い国だからこそ、1人ひとりが責任感を持ってプラスチックのゴミ問題に向き合い、ゴミではなく資源としてサステナブルに有効活用していく必要があるのだ。
そのためにMOLpでは、資源として「見立て」を変えることを提案している。
そこで、三井化学でかねてよりプラスチック原料を運搬する際に使用していた、フレコンと呼ばれるバッグに注目。これは使い捨てではなく、顧客のプラスチック製造業社が中身の原料を使い終わった後は回収・洗浄・修理され、リユースされている。そして15年間使用され続けた後、廃棄されるのだ。しかしこのフレコンは、元々耐久性の高い素材。驚くことに、15年経ったものでも80〜90%もの強度を残しているのだという。
そんな役目を終えたフレコンを素材として捉え直し、新しい命を与えることで、高い耐久性と強度を持ち、塩ビよりも軽量で修理可能なトートバッグが完成した。
実際に、「Flecon Tote Bag」の1個あたりの環境負荷は、レジ袋の約1/60、ポリエステル製エコバッグの1/9程度となり、大幅に環境負荷を低減させることができる(※)。さらに、ブロックチェーン技術を取り入れることで、どのような経緯でトートバッグになったのか履歴を追えるだけでなく、消費者参加型でプロダクトの未来を作っていくことができる、アップサイクルアイテムとなっている。
※生産から廃棄までのLCA(ライフサイクルアセスメント)による評価を行い、15年間使用し続けたと仮定した場合。「Flecon Tote Bag」(280g)、レジ袋(10g):150枚 / 年使用、エコバッグ(32g):1袋 / 年使用と仮定。(三井化学化学品安全センター算出)
一方で、RePLAYER™️シリーズの「Pass Case」の場合は、2020年に日本でも有料化がはじまったレジ袋に注目。海洋プラスチックゴミの観点からも問題視されているレジ袋だからこそ、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の仕組みに乗せるべく、高強度かつシールできるという素材の特性を活かし、色彩豊かでロングライフなパスケースとして生まれ変わらせた。
続いて、海水のミネラル成分から生まれた、陶器のような温かみのある質感と熱伝導性を併せ持つイノベーティブ・プラスチック、NAGORI®樹脂に注目してみよう。この素材は、2018年度グッドデザイン賞を受賞している。また、SDGsの6番(安全な水とトイレを世界中に)、12番(つくる責任、つかう責任)、14番(海の豊かさを守ろう)にも対応している。
今回新しく発表されたのは、「SEKITEI MOUSE」だ。まるで枯山水の庭に佇む石のような、静謐な雰囲気を漂わせている。これは、NAGORI®樹脂の特性に、抗菌効果があることが発見されたことで生まれた提案なのだという。このように、NAGORI®樹脂はその心地よい質感を生かして、毎日触れるものへの応用が期待されている。
NAGORI®樹脂に顔料を加えて成形すると、石のように不均一な柄が生まれる。その風合いを活かしたアクセサリーも登場した。この「ホワイトリボン ブートニエール」は、国際協力NGOジョイセフとのコラボレーション企画商品。世界中の女性がより健康に、自分らしく生きることを支援する運動のシンボル・ホワイトリボンを身につけると共に、ブートニエールとして花を胸元に飾って楽しむことができるアイテムだ。ジョイセフのオンラインチャリティショップでも購入することができる。
https://joicfp.shop/items/60e3b3b40850a006ac335269
私たちが今するべきことはなにか。「Survive」をテーマにした、モノマテリアルアイテム
高機能なプラスチック製品は、いまや私たちの暮らしに欠かせない。特に、アウトドア用のウェアやアイテムを使う時に、実感することが多いはずだ。しかし、この世の中にある高機能製品は、基本的に複合素材を用いて作られている場合がほとんど。リサイクルが難しいアイテムになってしまっている。そのため、サステナブルな世の中を考えていく際には、単一素材(モノマテリアル)であることが望ましいのだ。
そこでMOLpが提案したのが、耐熱性や極低吸水に優れ、汚れが付きにくく、最軽量なTPX®︎という素材だけを使った、アウトドア用高機能ラグ。糸や綿をTPX®︎の同一素材で統一することで、質の高さと同時にモノマテリアルを叶えている。
使い捨てではなく、愛着を持てる素材へ。プラスチックを知り、選ぶ視点を変えてみる
ほかにも「Slow Play」や「POLYISM」など、天然素材と同じように、プラスチックを長く、愛着を持って使い、廃棄を防ぐことを目的としたアイテムも多数展示されていた。そのどれもが情緒的で美しく、これまでの「プラスチック製品=使い捨て」というイメージを覆してくれた。サステナブルな世の中にしていくためにも、プラスチックという素材を知り、付き合い方を変え、確かなプロダクトを選び抜く。そんな姿勢が、今の私たちに求められている。
MOLp®︎
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/molp/※記事内に掲載されているプロダクトは、価格の記載があるもの以外は通常販売されていません。
CURATION BY
フリーライター・エディター。専門はコミュニケーションデザインとサウンドアート。ものづくりとその周辺で起こる出来事に興味あり。ピンときたらまずは体験。そのための旅が好き。