Vol.187

KOTO

01 DEC 2020

身体と精神性をデザインする。『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』展

アートディレクターとして広告分野で活躍した後、ニューヨークに舞台を移し、エンターテイメント分野で映画や舞台の衣装デザインやプロダクションデザインを手掛けた石岡瑛子。2012年に73歳で逝去するまで、困難ななかでもサバイブする強い信念を持ち、時代を切り拓く人物であった。そんな石岡瑛子の初の回顧展が、2020年11月14日より、東京都現代美術館でスタートした。展覧会を周りながら、「感情をデザインできるか」という石岡の情熱とクリエイティブの手法に触れていこう。

『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』展

石岡瑛子 1983年 Photo by Robert Mapplethorpe ©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.
1938年、東京に生まれた石岡瑛子は、東京藝術大学を卒業後、資生堂に入社しグラフィックデザイナー/アートディレクターとしてのキャリアをスタートさせた。20年ほど日本の広告業界の第一線で活躍した石岡は、「全てをゼロに戻したい」と日本を離れ、1980年代からニューヨークに拠点を移す。そこからは、衣装やセットのデザインを手がけるようになり、映画、演劇、サーカス、ミュージックビデオ、オリンピックのプロジェクトと活動の領域を広げていった。今回世界初となる『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』展は、そんな彼女の仕事を総覧し、唯一無二の個性と、視覚表現に生涯をかけた情熱に触れられる展覧会である。

石岡の仕事は、その全てがコラボレーションワークである。様々な領域に挑戦するなかで、「Timeless, Original, Revolutionary(時代を超えるもの、自分にしかできないもの、革命的なもの)」という3つのテーマを自身の根幹に据え、世界の名だたる表現者たちと共に「今までにみたことのない視覚表現」を打ち出していった。そのため、グラフィックであれ、衣装であれ、どの作品も視覚に対して強烈に訴えかけてくる。

半世紀、多岐に渡って表現を続けた石岡瑛子の世間の印象は、アートディレクターの時代を知る人にとっては「PARCO」の仕事をした人、映画好きな人にとっては「ザ・フォール/落下の王国」の衣装をデザインした人と、さまざまに分かれる。今回の展示は3つの構成に分かれ、石岡のデザインの軌跡を辿る内容だ。自分が知る石岡の仕事が生涯の仕事においてどこに位置付けられているかを知ることができるだろう

1 Timeless:時代をデザインする

「1 Timeless:時代をデザインする」会場内
「1 Timeless:時代をデザインする」では、1960年代から80年代にかけて、石岡瑛子が日本でアートディレクターとして活躍していた時代の多様な作品を見ることができる。

PARCOの仕事
高度成長期の只中であった60年代は、社会におけるデザインへの意識が大きく変革した時代でもあった。石岡瑛子は資生堂時代も独立後も、グラフィック、エディトリアル、プロダクト等のデザインを通して、時代をデザインしつつ時代を超越しようと活動した。

PARCOポスターの色校正
会場内では石岡の作品だけでなく、その仕事の背景にあるプロセスが随所に散りばめられている。色校正に書きこまれた手書きの文字をじっくり読んでみると、石岡がポスターを通して何を伝えようとしていたのかが、ありありと伝わってくる。

「I AM VERY WOMAN」
資生堂の夏のキャンペーンでは前田美波里を起用し、人形のような美人像ではなく、強い意志を持った女性像を打ち出した。さらにPARCOのキャンペーンでは「個性的に自分の生き方を持って、生きるための自由に選べる道具」がファッションの立ち位置であるとし、主体的に生き方を探ることを社会に提案していく。

国境や民族、そしてジェンダーといった既存の枠組みを打ち壊す強烈なイメージ。それを形づくる石岡の手法の特徴のひとつが、存在感のあるモデル選びにあると展覧会では指摘する。実際に、女性ボディビルダーのリサ・ライオン、ジョン・レノンの生前最後の写真を撮った写真家のアニー・リーボヴィッツなどが採用されている。人々の意識を起こし、時代を変えるために「誰が伝えるか」という、意志の強さと大胆さに圧倒されるだろう。

2 Fearless:出会いをデザインする

マイルス・デイヴィス「TUTU」のアートワーク
「2 Fearless:出会いをデザインする」は、1980年にアメリカに拠点を移したあとの仕事を中心に見ることができる。そのテーマの通り、日本での仕事を総まとめした作品集『EIKO by EIKO』の出版を行い、新天地でも臆することなく出会いの機会を生み出していく。実際に1983年に依頼を受けたマイルス・デイヴィスのアルバムのアートワークの仕事も、『EIKO by EIKO』がきっかけだったという。

「TUTU」の提案書
複数の提案から自身が表現したい方向性へマイルスを導き、さらにそのイメージを実現するために写真家のアーヴィング・ペンを起用。才能の掛け合わせにより、グラミー賞最優秀レコーディングパッケージ賞を受賞するまでに至った。

「ミシマーア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ」金閣寺のセット
1980年代半ば以降の石岡瑛子は、新たに出会ったクリエイターたちとのコラボレーションによって、さらに世界へと活動の場を広げていく。同時に衣装デザインやプロダクションデザインなど、これまでのグラフィックデザインの領域を超えた表現をエンターテイメント界で手がけるようになっていった。

フランシス・フォード・コッポラ監督「ドラキュラ」の衣装。1992年アカデミー賞衣装デザイン賞受賞
女性であり、東洋人デザイナーであった石岡は、常に「マイノリティである」という自覚を持ちデザインをしてきた。そして異質な存在であるがゆえに、別の才能と掛け合わせることで予想を遥かに超える、誰もみたことのない表現を生み出せるという実感を得ていく。

3 Borderless:未知をデザインする

ターセム・シン監督「The Cell」
最後の「3 Borderless:未知をデザインする」は、円熟期を迎えてもなお、未知なるものの創造に情熱をかけた石岡の仕事が紹介されている。

「The Cell」制作の初期段階でターセムに送った、64枚のアイデアドローイング
石岡には常に、「身体の拡張」による未知の視覚領域をデザインしていくという姿勢がある。「The Cell」では脳内世界の王の姿を、衣装が生み出す空間性や動きを見事にコントロールしながら、独創的な表現に落とし込んでいった。

シルク・ドゥ・ソレイユ「ヴァレカイ」。今までのダークな表現とは違う方向性に挑戦した
さらに映画だけでなく、オペラやサーカスのコスチューム、オリンピックのユニフォーム、ミュージックビデオと、新たな領域へと挑戦し、最先端技術と掛け合わせながら表現の枠を広げつづけていく。視覚に訴えかける石岡の衣装デザインを見ていると、日常で着る服にも、過度ではないがある程度の視覚的効果があることに改めて気づかされる。「自分がこの服を着ることで、どう印象付けられるのか。空間はどう変わるのか」そんな想像をしながら、自分を表現する服を選ぶ時に、創造のタネがあるのかもしれない。

内側からあふれ出る情熱を形にする

展示の最後には、高校生活の終わりに制作した最初の作品「えこの一代記」が展示されている
あふれ出る情熱を、生涯をかけてイメージに落とし込み続けていった石岡瑛子。そのクリエイティブに一貫してあるダイナミズムに圧倒される。時を超えても、独創的で革新的。まさに石岡のテーマが体現された展覧会であった。ここ近年もそうだが、これからの未来、デザインのあり方はあらゆる形で変化していくだろう。ひとりで成長しようとするだけでは限界があるかもしれないが、他の才能と掛け合わせることで、自分自身を拡張させていくことにもつながるはずだ。

石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか

会期:2020年11月14日(土)〜2021年2月14日(日)
会場:東京都現代美術館(MOT)企画展示室 1F/地下2F
住所:東京都江東区三好4丁目1−1
施設開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(2021年1月11日は開館)、12月28日〜2021年1月1日、1月12日
観覧料:一般1,800 円
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/