心と身なりを整える。靴を磨く必要性
光沢を持つ革が登場した18世紀後半から、靴の保湿を保つだけでなく「磨く」ことも重要性を帯びてきた。19世紀の終わりになると、手頃な価格で一般の人々も革の靴やブーツが手に入るようになり、靴磨きは習慣化され、街にはそれを商いとする靴磨きの少年があふれるようになった。
第二次世界大戦中、イギリス人の兵士がいるところには必ずKIWI(キィウイ)の靴クリームが見受けられたという。これはお洒落のためというよりは、戦時中非常に貴重品であった靴を少しでも長持ちさせるために手入れを怠らなかったと思われる。
戦後に連合軍が日本に集まった時、アメリカ人兵士はイギリス人兵士の靴を見て、大変驚くこととなる。それまで唾を吐きかけて靴を磨いていたアメリカ人兵士はイギリス人が履いている靴の美しさに感銘を受け、煙草1箱とKIWI1缶を交換し靴を磨くようになり、帰国後も靴磨きが習慣となったそうだ。
靴磨きは人々が革製品を所有するようになってから、まずは靴を長持ちさせるため、そして美しい状態を維持するために続けられてきた。身だしなみを整えるのは自分自身を律し高める事であり、洗練された佇まいはまず美しい靴が基本と言えるのではないだろうか。
手頃な価格で手入れの楽な合皮と、手間のかかる本革の違いとは
スポーツシューズなど用途や目的が違うものは別として、手入れも楽だし価格も安い、と合皮の靴を選ぶ人も多いのではないだろうか。合皮の靴は水や汚れに強く、手入れの時間に本革ほど煩わされることもない。
例えば合皮の靴は長持ちして3年が寿命だと言われるが、本革の靴は十数年保つことができる。経年劣化していく合皮に比べ、手間をかければかけるだけ風合いを増して行くのが本革だ。
大切な日のための一足として、自分の好みを反映した本革の靴を手に入れてみてはどうだろうか。素材と制作工程を吟味し、デザインや色にこだわり、愛情を注げるものを探してみたい。最初は割高に感じるかもしれないが、自分にとって必要であるものを知り、見る目を養う絶好の機会となるだろう。
そしてメンテナンスをすることは、選んだものの重要さを実感できる時間。自分自身で作り上げたこだわりを、さらに美しく磨き上げる時間でもあるはずだ。
靴磨きの方法を知り、日常に取り入れる
靴用ブラシ、古着のTシャツなどを利用した布、古いソックスなどを利用した化繊の布、靴クリームに靴ポリッシュ。そして下に敷く新聞紙、あればシューツリー。これらをそろえれば、靴を綺麗に磨くことができる。
そして靴磨きの方法だが、最初に靴の全体の汚れをブラシでざっと払う。ブラシは革靴を傷つけないように馬毛で作られたものがおすすめだ。磨き出す前に靴紐は取り、シューツリーを持っているならそれを入れておこう。そうすることで靴の皺が伸び、細かい部分にクリームやポリッシュが浸透しやすくなる。
革は皺が深くなったまま放っておくと、亀裂が入りやがて割けてしまう。靴クリームの役目は、保湿を与えることなのだ。
かかる時間は30分ほどではないだろうか。しかし1回この作業をしておけば、日常は汚れをさっと払うだけで良い。これを数週間に一度の習慣にすれば、常に美しい状態の靴を維持できるはずだろう。
靴とともに、自分のこだわりに磨きをかける。
靴はもちろん自身のこだわりや佇まい、そして精神ーすべてを整えてくれるエッセンスが、靴磨きには詰まっているのかもしれない。