日本から飛行機で約13時間、インド洋に浮かぶ島国スリランカ。もしかすると、「どのような国か」というイメージが瞬時に思い浮かぶ方は、多くはないかもしれない。しかし、現地を知ると何度も訪れたくなる魅力にあふれた国なのだ。今回は、その魅力と食文化に注目する。
訪れる人、それぞれの好奇心を刺激する文化が揃うスリランカ
この秋、現地で日本人向けにスリランカの観光・情報サイトとフリーペーパー「Spice Up」を発刊する知人を訪ね、スリランカに訪れた。もうひとつの目的は、日常から物理的に離れ、日々のストレスから解放された土地で今一度自分と向き合う時間を意識的に作るいわゆる“リトリート”のためだった。
面積にして65,610 km²、北海道よりも小さなこの国には8つの世界遺産や北インド発祥でスリランカでも発展した伝統医療アーユルヴェーダなど、独自の文化が豊富だ。なかでも「トロピカル建築の天才」と称される建築家ジェフリー・バワ(1919-2003)が残した数々の洗練された建築物に直接触れたいと訪れる日本人も多いという。
バワが手がけたのは、建築そのものだけではなく庭に植えられた木の形やインテリア、テキスタイルなど、空間にあるものすべてに力を込めたそうだ。
また、国内にいくつも点在するバワが手がけた人気リゾートホテル以外も注目してほしい。今回旅中に訪れた「アナンタラ・ピース・ヘブン・タンガラ・リゾート」は世界で指折りのホテルチェーン アマンリゾーツが展開するものだ。都会の喧騒から離れ、インド洋を臨みながら静かに過ごす上品な時間は、まさに日常からかけ離れた世界だった。
五感で感じるものすべてがユニークで刺激的だった旅は、心身ともに充足感に満ちたものとなった。この国が、2019年12月初めににアメリカを代表する一般大衆紙のUSA Todayにおいて「20 warm-weather destinations to visit this winter if you just can't take the cold anymore(寒さに耐えきれないあなたが冬に訪れるべき20の暖かい目的地)」として1番に取り上げられていたのも頷ける。
そして、旅に求めるものは人それぞれであっても、だれもが旅先で体験するのが「食」。筆者が見知らぬ土地で、ストレスを感じずに過ごすことができた理由のひとつに、スリランカの食があったのだ。
異国を感じる“アートの発信基地”で、スリランカ料理を体験する
帰国後も後を引くスリランカの味を求め訪れたのは、本格スリランカ料理とセイロンティーの店BANDARA LANKA(バンダラランカ)。新宿区大京町の住宅地に突如あらわれる、石造りのアート複合施設「The Artcomplex Center of Tokyo (ACT)」の1階。どこか日本離れした外観は、異国に訪れたような気分にさせてくれる。
BANDARA LANKAオーナー バンダラさんに学ぶ、スリランカの食文化
「日本の方はまだまだスリランカの料理や紅茶に親しむ機会は少ないと思いますが、スパイシーでヘルシーな食文化ははじめから絶対に合うと思っていたんです」
日本好きが高じて東京への語学留学を決意したバンダラさんは、卒業後、都内の外資系ホテルに勤務しながら日本の文化を学んだ。「スリランカの食文化は日本に馴染む」という直感は、イベントなどでスリランカ料理を提供する機会を重ねる度、確信へと変わったという。そして、“日本とスリランカの文化を交わらせるスペース”をコンセプトに掲げ、2018年10月、日本人の奥様と共にBANDARA LANKAをオープン。これまで、ランチをメインに提供してきた。
この日は、チキンカレーやレンズ豆のカレー、かぼちゃのココナッツミルク煮、ナスのモージュ、ビーツのココナッツ煮、パパダムなどメイン・サイド合わせ14種類のディッシュが中央のビュッフェテーブルに並べられていた。素材はできるだけ現地のものを使用し、味付けは日本人向けに寄せるのではなく本場スリランカの味そのままだという。
インドカレー店がひしめき合う東京の街においては、日本人にとってもスパイシーな料理は親しみやすくなってきた。インド料理とスリランカ料理とは、どのような違いがあるのだろうか。
「インドカレーとの違いは乳製品や油をほとんど使わないこと。代わりに、ココナッツオイルやココナッツミルクをベースに使い、野菜料理がメインのためヘルシーです。プレートの中央に主食のライス2種、サイドディッシュを少しずつ盛り付けます」
「主食はスリランカ産のレッドライスとタイ米を使用したターメリックライス。特にレッドライスは日本でいう玄米に近く栄養価が高い上にヘルシーですね。高級なものではありますが、ぜひみなさんに召し上がっていただきたいので必ずご提供しています」
開店と同時に店内は満席状態。それにも関わらずスタッフは一人ひとり、ていねいに料理や食べ方などの説明をする。そこには「紙にも書いてありますが、直接お話しするほうが伝わりますから」と話すバンダラさんの“もっとスリランカを知ってほしい”“日本にいるからこそ自分が祖国を応援するためにできることがあるのでは”という思いがあった。
調理方法は、食材をスパイスと混ぜ合わせ煮込むというシンプルなものも多いという。バンダラさんもいうように野菜がメインで油も少ないヘルシーなスリランカ料理は、健康や美容を考えマクロビオティックやヴィーガン、玄米食を取り入れる日本人にとっても、家庭料理として馴染むのではないだろうか。
BANDARA LANKAが勧めるセイロンティー
日本でもよく耳にする「セイロンティー」は、イギリス統治時代の1860年頃までスリランカがセイロン島と呼ばれていたことに由来している。「ヌワラエリヤ」や「ウバ」、「ディンブラ」、「キャンディ」、「ルフナ」といった茶葉の名前は生産地の名称であり、土地によってそれぞれ風味や渋みが変わる。
店内の棚にぎっしりと並ぶ種類豊富なセイロンティーは、すべてスリランカのもの、バンダラさんが厳選したセイロンティーの数々は購入可能で、気に入ったものが見つかるとリピーターとなる人も多いという。
「スリランカでは、コーヒーよりも紅茶を飲むのが一般的。日本の方にも親しんでいただければ嬉しいです。もしもスリランカに行くことがあれば、世界遺産のあるキャンディに行った後、ヌワラエリヤで紅茶を楽しむのもいいですね」
安心感を与えてくれる国民性が、それぞれの旅に充足感を与えてくれる
さらに2019年10月からはディナー営業を開始した。米粉のヌードル「イディ・アーッパ」や米粉のクレープ「ストリング・ホッパー」など、さらに本格的なスリランカ料理を楽しむことができる。
最後にスリランカで感じたもう一つの魅力、筆者がスリランカに訪れた時、街やホテルで出会う人々がみな笑顔で親切にしてくれたエピソードを伝えた。
「スリランカ人は、やさしい人が多く、好奇心も強いので新しいものや外国人と出会うのが大好きなんです。食文化以外にもいろんな魅力がある国でとても豊かだということを、このお店におこしいただく日本の方に伝えていきたいです」
国民の7割を占めるといわれるシンハラ人、そのほとんどが仏教を信仰しているという。日本で生まれ育った筆者がどこか彼らを身近に感じたのは、そのためなのだろうか。いずれにせよ、旅先で出会う人の優しさに触れたことで得た安心感が旅をより豊なものにしたのは間違いない。受け取った親切を含め、この国の美しさとして伝えていきたい。
まだまだ日本人にとって馴染み深いとはいえないかもしれないスリランカだが、その魅力は食文化をはじめ、歴史や国民性など知られざるものも多く、ぜひ旅のリストにいれてみてほしいところだ。とはいえ、遠い異国…まずは手はじめに、BANDARA LANKAに訪れてみるのはどうだろうか。
スリランカ料理とセイロンティーのお店 BANDARA LANKA
住所:東京都新宿区大京町12-9 アートコンプレックスセンター1階
営業時間:ランチビュッフェ / 11:00-14:30(L.O.14:00)、ディナータイム / 17:00-21:30(L.O.21:00)
定休日:月曜日
TEL:03-6883-9607
HP:
www.bandaralanka.jp
CURATION BY
札幌出身、東京在住。武蔵野美術大学卒業後、出版社に務める。現在は、フリーのエディター / ディレクターとして東京・群馬・長野を中心に活動中。関心があるのは、子どもから見た世界がどうなっているか。牛乳と鴨せいろが好き。