ハンガリーワインとは
歴史の深みを感じさせるエレガントさと、フレッシュな果実味の絶妙なバランス。日本国内での認知度はまだそれほど高くないが、その味わいは、特別な日のディナーにも、日常の食卓にも寄り添うものとして、近年注目が高まっている。
ハンガリーワイン=貴腐ワイン(デザートワイン)をどうしても想像してしまうが、貴腐ワインだけではないハンガリーワインの魅力を知るために、私はハンガリーワイン専門店「ピンツェ」を訪れた。
日本初のハンガリーワイン専門店「ピンツェ」
「ピンツェ」という店名は、ハンガリー語で「蔵」を意味するそうだ。「蔵」というと酒屋さんの名前などで日本人にも馴染みのある言葉だが、ハンガリー語になることで、不思議と愛らしさが感じられる。そこには、ハンガリーワインが日本人にとってもっと親しみやすいものになってほしいという、山口さんの願いが込められていた。
伝統と革新の絶妙なバランス感
「ワインの発祥はジョージアだと言われていて、そこからヨーロッパに広がっていったわけですが、東ヨーロッパに位置するハンガリーは、実はフランスよりもワインの歴史が古い国です。ですから伝統があるワイン産地なのですが、その一方で、最近では新しいワイナリーが沢山できているという特徴があります。そういう意味で、伝統派のワインとニューワールドのワインの中間的な魅力が、ハンガリーワインにはあるのかもしれません」
「コンクールでは味に特徴のあるワインの方が評価されやすいということもあり、特徴的なワイン=良いワインだと思われますが、実はそういうわけでもないんです。もちろんそういうワインも素晴らしいですが、近年ハンガリーではむしろ、日常的に美味しく飲めるワインを作ろうよ、という動きが活発になってきていると思います。ただ純粋に美味しいものを作ろうという、ワイン作りにおいてニュートラルな考えが、飲みやすいハンガリーワインを作っているのです」
そのニュートラルな美味しさは、ワインを飲み慣れていない人に新しい世界を提示してくれるだけでなく、ワイン好きな人をも虜にしているようだ。
「ピンツェ」店主にとっての特別な一本
100種類以上を扱ってきた山口さんだが、特に思い入れのある一本は何なのだろう。そう尋ねると、修行時代に出会った師匠が手掛けた「イパチ サボー ワイナリー(Ipacs Szabó)」のワインを教えてくれた。
「ヴィラーニ地方にあるワイナリーです。師匠のイパチ・サボーさんはワイン作りへのこだわりが強く、まさに職人気質の方。修行時代は、経験のない私に毎日一つひとつ丁寧に教えてくれて、最後には家族ぐるみで交流するようになりました」
伝統的な手法と革新的なアプローチを融合させているという点で、これまでに伺ったハンガリーワインの特徴を体現したようなワイナリーだと感じて、私はこのワイナリーのNászút Helyett 2019(ナースツ・ヘイエット 2019)というワインを持ち帰らせてもらうことにした。
何気ない食卓で楽しむハンガリーワイン
バランスの取れた味わいは、和食をはじめとする繊細な料理ともよく調和する。ワインというと、例えば赤なら肉料理に、白なら魚料理に、引いては食前食後にはこれ……と食事に合わせて選ぶイメージがあるが、ハンガリーワインはどのような料理にも比較的合わせやすいことが、その最大の魅力なのではないだろうか。
私が実際に「ピンツェ」で購入したのは、「イパチ サボー ワイナリー」の赤ワイン、Nászút Helyett 2019(ナースート ヘイエット 2019)と、山口さんが実際に修行したワイナリー「ヴィリアン ワイナリー(Vylyan)」の白ワインVylyan Herka Chardonnay 2022(ヴィリアン ヘルカ シャルドネ 2022)だ。Nászút Helyett 2019は3000円台、Vylyan Herka Chardonnay 2022はなんと1000円台と、ワイン初心者でも手を出しやすい価格帯も嬉しい。
ワインが酸化して味わいが変化することを「ワインが開く」というが、このワインも開くのがおすすめらしく、デキャンタージュや大きめのグラスで。私は大きめのグラスでいただいたが、一口ごとに味わいが変わっていくのを感じられた。濃厚な料理の合間に飲むと、舌の上で料理の記憶を引き立たせてくれる。その味わいのゆるやかな移ろいはまるで万華鏡のようで、いつもの食事を一層鮮やかにしてくれたのだった。
「ハンガリーの北から南まで、地域ごとに異なるワインを楽しんでみてもいいですし、同じ地域のワインを飲み比べるのも面白いです。いずれにしても、ぜひハンガリーを旅する感覚で選んでいただけたら」と山口さんは提案する。
奇をてらわず、ただ美味しいものを作りたいと願って作られたハンガリーワインは、文字通り、純粋な美味しさを私たちの何気ない食卓に届けてくれそうだ。
「ピンツェ」が目指す未来
「ハンガリーワインが、日本の食卓に自然と並ぶ日が来ればいいですね」。その言葉には、ワインを通じて人々の生活を豊かにしたいという強い思いが込められていた。
知られざるハンガリーワインの世界を開いてみよう。その一杯は、あなたの何気ない食卓を、ほんの少し特別にしてくれるはずだ。
ハンガリーワイン ピンツェ
営業時間 11:00-20:00
定休日 水曜日
https://www.instagram.com/hungary_wine_pince/
https://hungarianwine.jp/