Vol.473

FOOD

29 AUG 2023

ペスト・ジェノベーゼから始めよう。新しいレシピは自由な発想とともに

パスタのソースに美味しいものは数多いが、世界中で愛され続けているもののひとつが、バジルのかぐわしい香りと松の実の香ばしさ、オリーブオイルとチーズがまろやかに味を引き立てるペスト・ジェノベーゼだ。主役のハーブ、バジルを他の食材に変えれば味と色彩に変化が生まれ、新たな味を楽しめる。シンプルな作り方をマスターしたら、次は自分流のオリジナル・ペストを作ってみよう。

発想を変えてみたら、新たな味との出会に繋がる

慌ただしい日のランチタイム、手早く調理をしたい時にぴったりなメニューがパスタ料理だ。麺を茹でてソースを和えるだけで出来上がる手軽さで、簡単でありながら満足感を味わえる。そして初夏から秋にかけて一際美味しく楽しめるのがバジルソース。フレッシュなバジルの芳香、コクのあるチーズと松の実、オリーブオイルの風味が絡み合い、色合いも鮮やかな一品だ。

バジルの爽やかさと瑞々しいグリーンカラーが食欲をそそってくれる
バジルソース、あるいはペスト・ジェノベーゼと呼ばれるこのソースを、以前は市販のものを買っていたのだが、自宅でバジルを育ててからは手作りするようになった。調理に難しい点は一切なく、材料を揃えてフードプロセッサーで撹拌するだけという手軽さであっという間に出来上がる。

だが今年、私が住んでいるスコットランドは例年に比べ冷夏で思うようにバジルは育たなかった。仕方なく試しにオレガノを使用してみたのだが、バジルに負けないほどのかぐわしい香りで、新たな風味を思いがけなく味わえた。ということは、材料を変えてみれば、更に新しいレシピを生み出せるに違いない。こうして私のペスト作りの探求の旅が始まった。

ペスト・ジェノベーゼとは

日本で親しまれているバジルソース、またジェノベーゼと呼ばれるソースは欧州では「PESTO ペスト」と呼ばれ、バジル、松の実、オリーブオイルとパルメザンチーズを材料とした、オイルベースのソースのことを指している。

「ペスト・ジェノベーゼ」は本来、このレシピ発祥の地、イタリア北西部のリグーリア州産のバジルとオリーブオイルを使うものを指しており、他の地域で生産された食材を使用しているものはシンプルに「ペスト」と呼ばれているのだ。

フレッシュなバジルとチーズとニンニク、オリーブオイルと松の実という数少ない材料で完成する
日本ではバジルを使用したソースが、1960年代にスパゲティバジリコという名で広く知られるようになった。やがてバジルソース、もしくはジェノベーゼと名を変えて浸透していったが、ここでは正式名称に倣い「ペスト」として紹介していこう。

ペストの起源は古代ローマ時代と言われ、チーズと松の実、オイルと塩、ハーブを使用したモレトゥムと呼ばれるペースト状のものである。その後中世の時代のリグーリア州で生まれた、ニンニクと胡桃を砕き、ビネガーや固くなったパンを加えるアリアータもペストの原型と言われている。

リグリア海に面した湾岸都市、ジェノヴァ。 古くから愛され続ける "ペスト・アッラ・ジェノヴェーゼ" はここから生まれた
ペストが現在のレシピとなったのはバジルがインドから伝わった後であり、1863年にジェノヴァ出身の料理人であり美食家であったジョヴァンニ・バッティスタ・ラットが、ジェノヴァ地方の料理のレシピとエッセイ『La Cuciniera Genovese』を出版した際に、初めてそのレシピが記録された。その後ペストは世界中に広まり、多くの人々に愛されるソースとなったのだ。

シンプルな食材と調理工程、それでいてなお人々の食欲を掻き立てるペストは食材を変えるだけで、バリエーションを豊富に生み出すことができる。自分なりのアレンジを効かせて、他では味わえないオリジナルを作り出してみたい。

食材を変えて楽しみたい、ペストのレシピ

それではまず、バジルをメインとしたペストのレシピをご紹介しよう。材料にバジルの葉40g、オリーブオイル80ml、松の実10g、パルメザンチーズ10g、ニンニクひとかけら、塩をひとつまみ用意する。バジルの葉とみじん切りにしたニンニクにオリーブオイルを加え、フードプロセッサーで撹拌する。なめらかになったらチーズと砕いた松の実を加え、塩で味を整えて完成。

このようにペストは材料さえ揃えればごくシンプルな作り方。そして更に香り高く、味を濃厚にするのが乳鉢と乳棒を使用する方法だ。

ペスト=pesto はイタリア語の動詞 pestare がその名の由来と言われ、これは粉砕、あるいはすり潰すことを意味している
乳鉢と乳棒はペストを作ったり、スパイスを調合したりと、とても便利なキッチンツール。食材の香りをより楽しむために、まろやかな風味を味わいたい時に使用してみたい。
バジルのペストをマスターしたら、次は異なる食材を使って新たな味を探してみよう。例えばオレガノは、上記のレシピのバジルをオレガノの葉に変え、撹拌する前に20秒ほどさっと茹で、材料に水を大さじ3加えれば、残りの作業は同様で完成する。

オレガノはバジルと同じく葉だけを使用する。さっと茹でた後、色鮮やかなグリーンにするため冷水で洗い流しておこう
次にトマトを干して旨味を凝縮させた、サンドライトマトを使ったペストにもトライしてみたい。サンドライトマトを25g、トマト10g、バジルの葉を5g、ニンニクをひとかけら、パルメザンチーズを10g、オリーブオイルを50mlを用意する。

サンドライトマトを粗くカットし、バジルの葉、みじん切りにしたニンニクとトマトに、少しずつオリーブオイルを加えてフードプロセッサーで撹拌する。滑らかになったらチーズを加え、塩で味を整え完成。

甘酸っぱいトマトの香りが堪能できるサンドライトマトのペスト
なお、サンドライトマトも自宅で出来るのをご存じだろうか。天候の良い日が数日続く時に、トマトの種を除き、塩を振って水分を拭き取ってザルに載せて干すだけというシンプルさ。美味しいトマトが手に入ったら、トライしてみてはいかがだろう。添加物の一切入っていない、手作りのサンドライトマト・ペストの味はまた格別に違いない。
続いて香ばしいマッシュルームのペストをご紹介しよう。材料にマッシュルーム150g、バター大さじ1、玉ねぎ1/2個、ニンニク1かけら、レモン1/4個、胡桃3g、ベジタブルオイル50ml、水20ml、パセリ適量、クミンパウダー、塩・胡椒を用意する。

マッシュルームの豊かな香りを味わえるペスト。レモンとクミンパウダーが丁度良いアクセントに
みじん切りにした玉ねぎとニンニク、スライスしたマッシュルームをバターで炒め、粗熱を取っておく。冷めたらベジタブルオイルと水を加え、フードプロセッサーで撹拌する。食感が楽しめるよう、少し粒が残るぐらいになったらレモンの絞り汁を加え、クミンパウダーを少量足す。刻んだパセリと軽く炒めて砕いた胡桃を加えて混ぜ、塩、胡椒で味を整えたら完成だ。

マッシュルームペストはパスタやメインディッシュに合わせても美味しく、トーストやクラッカーに載せるのもおすすめ
このようにペストは自分で食材を選び、それに合う調味料を加えていけば、どんどん新たなレシピが生まれてくる。常識に囚われずに自分の味覚を信じて、オリジナルな味を探していきたい。

ペストに合うレシピを見つけて

オリジナルの自家製ペストが完成したら、それにぴったり合うメニューを選んでみよう。ペストに合わせるものと言えば、真っ先に思い浮かぶのがパスタ。通常の乾麺を茹でたパスタに絡めるだけでも美味しいが、おすすめなのがパスタマシンを活用したフレッシュな手打ちパスタだ。

手作りのペストとの相性は抜群で、より満足度がアップするはず。ビーツやほうれん草のカラフルなパスタを手打ちすれば、カラーリングのコントラストも楽しめるだろう。

フレッシュな手打ちパスタと自家製ペストは味覚とヴィジュアル、ふたつを同時に楽しめる
また、ペストは肉や魚ともマッチする。例えば鶏のもも肉をこんがり焼いて、あとはソースとして和えるだけで豪華な一品の完成だ。疲れて調理に時間を割きたくない時でも、ペストがあるだけで見栄えのする美味しいディナーがすぐに出来上がる。

いつも同じソースで飽きが来ていたメインディッシュも、自家製ペストで新鮮な味わいに
または味が淡泊な白身魚に合わせてみれば、濃厚なペストの芳香がシンプルな食材を引き立ててくれる。他にもピッツァに加えてアクセントとして楽しんだり、パンに載せてブランチやアペリティフに。多種多様な楽しみ方が出来るのも、ペストの魅力のひとつと言えるだろう。

濃厚な風味のペストは、シンプルな食材が良く似合う。旬のものを美味しく食べる際に活用したい

新しい自分だけの味を生み出したい

日本で浸透しているジェノベーゼ、欧州ではペストと呼ばれるこのソースは、頭の中に「ペスト=バジル」という図式が成り立っていたため、これまでは他の食材で作ることを考えたことは皆無であった。だがオレガノを使用したことで、ペストはバジルだけでなく使う食材次第で色々な可能性を秘めていることに気が付いた。

既製品の好きな味を、まずは手作りしてみることから始めよう。オリジナルのレシピがきっとたくさん生まれてくるはず
自分で食材を吟味し、合わせるチーズやナッツを選び、一緒に食すメニューを決める。新しい味を自分流に作り出すことが、料理の楽しみや面白さをもっと教えてくれるに違いない。

時には既に決められた枠を取り払い、自分が好きな味覚の世界を広げてみよう。自由な発想と失敗を恐れない好奇心とともに、自分だけの新しい味を探してみたい。