歴史とともに発展し続けた食品の保存方法
缶詰や冷凍食品、レトルト食品などは数か月、あるいはもっと長期間保存できるものが豊富にあり、現代の食生活において保存食はもはや当たり前の存在だ。
これらの保存食品は、元々は人類が「食料を長く保存したい」という意識から始まった。人類が誕生してから人々は食糧飢饉や干ばつに備え、たくさんの方法を生み出しては食糧を保存してきた。保存食品は定住者のためだけではなく、旅をして回る商人や巡礼者、兵士などにとっても必需品であった。
例えば微生物を取り除き細菌の増殖を防止するため、食材を煙にさらす燻製。微生物が食材に含まれた成分を分解し、元の成分よりも腐敗を遅滞させ新たな食品となる発酵は、日本でも古くから、納豆、醤油、味噌などの発酵食品として親しまれている。
水分を吸収しバクテリアを殺す作用のある酢漬け、糖分や蜂蜜などで食材を煮たジャム、寒冷地で行っていた冷凍保存など、その地域特有のさまざまな食品保存法が生み出された。
その中でも、最も古い歴史を持つのが乾燥保存法だ。微生物を増殖させる力を持っている水分は、すべての生鮮食材に存在する。この水分を太陽の力で蒸発させる方法が乾燥保存だ。
古代エジプト人は砂漠の熱を利用し食材を乾燥させたそうで、その歴史は紀元前12,000年まで遡る。乾燥は特別な道具や複雑な機械に頼ることがなく、自然の力を借りて出来る最もシンプルな保存方法と言えるだろう。
必要なのは自然の恵み、日光と空気
おすすめはキノコ類。干し椎茸を想像すれば分かるように、旨味がぎゅっと凝縮されて奥深い味を堪能できる。また、トマトは乾かすまでに時間がかかるが、使い道が豊富にある野菜だ。
野菜を選んだら、次に同じ早さで乾燥するように同等の薄さにスライスする。薄ければ薄いほど早く乾燥するだろう。
野菜の乾燥にかかる日数は2日~5日ほど。快晴がある程度続く日を選び、直射日光の当たる場所に置く。カビの原因となるので、湿気のある期間は避けること。
野菜は周囲や上下に空気を循環させる必要があるため、木や竹でできたザルやバスケットを使用する。乾燥期間中、裏表どちらも乾くように時々野菜をひっくり返し、外で干す場合は埃や虫、風に注意を払うこと。夜は夜露を避けるために室内へ入れることを忘れずに。
乾燥した野菜は消毒し水気をしっかり切った密閉容器に入れて冷暗所で保管する。トマトや唐辛子などは、干した後にオリーブオイルに漬けるとさらに長い期間楽しむことができるだろう。
野菜の旨味が凝縮した味と、新たな食感を嗜む
旬の野菜を手に入れたり、産地直送の野菜を貰ったりしても、消費しきれなければ廃棄することにもなりかねない。食材を捨てる…それは切なく、辛いことだ。
さらに野菜の多くは味や食感について想像しやすいため、初めて見る珍しいものを衝動買いをしてみるという冒険も少なくなる。そのために肉や魚に主役を譲り、野菜は脇役へと追いやられてしまうのかもしれない。
しかし一度味わってみれば、今まで食べたことのない食感に驚くはずだ。全体が縮れ、こりこりとした味わいはフレッシュな野菜では決して味わえない食感。さらに野菜の旨味を凝縮させた味に、きっと驚くことだろう。
炒める調理法では水に浸した野菜をさっと絞って水気を切る。この調理法もドライベジタブルはもちろん美味しく味わえるが、惜しいのは野菜を戻す際に使った水分を捨ててしまうこと。干した野菜の味を堪能するためにも、ぜひ旨味成分が含まれている水分を利用するようにして欲しい。
例えばスープ。手作りでもインスタント食品でも構わないが、ドライベジタブルを入れて一緒に煮込むと、驚くほど味に深みが出る。
このカレーを鍋で温める際に、ドライベジタブルも一緒に入れてみよう。野菜の味がプラスされ、ぐっとランクアップされるはず。
トマトや唐辛子など、オリーブオイルに漬けたものはさらに楽しみ方が広がっていく。メイン料理のソースに加えたり、パンの具材に合わせたりと使い方は無限大。シンプルなパスタ料理の最後の仕上げとして加えると、味、そして彩りのアクセントになってくれるだろう。
スーパーやキッチン、食卓で。野菜料理の概念を変えてみよう
しかしドライベジタブルはまず干す段階からクリエイティビティを楽しめる。どんな野菜を干そうか、どんな料理に合うだろうかと考えるのも面白い。
乾燥させると嵩が減るので保存する場所も取らず、持ち運びにも便利なのでキャンプやBBQに持って行くのもおすすめだ。
今までの「野菜」に対する概念が変わり、一人暮らしの食生活が充実し、新たな楽しみ方が得られるだろう。