Vol.141

FOOD

23 JUN 2020

美味しさをぎゅっと凝縮。野菜料理の概念を変える、ドライベジタブル

家で料理をする機会が増えると、今まで気にも留めなかった事に気付く。例えば、当たり前のように食している野菜。「野菜は体に良い」から、「出来るだけ多く摂ろう」。そう分かっていても、つい同じ野菜ばかりを購入してはいないだろうか。それらを炒める、煮る、蒸すなど変わらぬ調理法で食べ続ければ、自然と飽きが来てしまう。そんな野菜料理の概念を覆してくれるのが、自宅で作るドライベジタブルだ。

歴史とともに発展し続けた食品の保存方法

スーパーやコンビニ、オンラインショップ、デリなど、食料品を取り扱う店には長期保存できる製品が数多く並んでいる。

缶詰や冷凍食品、レトルト食品などは数か月、あるいはもっと長期間保存できるものが豊富にあり、現代の食生活において保存食はもはや当たり前の存在だ。

これらの保存食品は、元々は人類が「食料を長く保存したい」という意識から始まった。人類が誕生してから人々は食糧飢饉や干ばつに備え、たくさんの方法を生み出しては食糧を保存してきた。保存食品は定住者のためだけではなく、旅をして回る商人や巡礼者、兵士などにとっても必需品であった。

乾燥は、世界最古の食品保存法。
新鮮な食材はあっという間に傷んでしまう。それらが腐敗する原因は細菌やカビの増殖だ。これらを阻止、もしくは遅滞させるために人々は知恵を絞り、経験を活かして保存法を発展させたのだ。

例えば微生物を取り除き細菌の増殖を防止するため、食材を煙にさらす燻製。微生物が食材に含まれた成分を分解し、元の成分よりも腐敗を遅滞させ新たな食品となる発酵は、日本でも古くから、納豆、醤油、味噌などの発酵食品として親しまれている。

水分を吸収しバクテリアを殺す作用のある酢漬け、糖分や蜂蜜などで食材を煮たジャム、寒冷地で行っていた冷凍保存など、その地域特有のさまざまな食品保存法が生み出された。

その中でも、最も古い歴史を持つのが乾燥保存法だ。微生物を増殖させる力を持っている水分は、すべての生鮮食材に存在する。この水分を太陽の力で蒸発させる方法が乾燥保存だ。

古代エジプト人は砂漠の熱を利用し食材を乾燥させたそうで、その歴史は紀元前12,000年まで遡る。乾燥は特別な道具や複雑な機械に頼ることがなく、自然の力を借りて出来る最もシンプルな保存方法と言えるだろう。

必要なのは自然の恵み、日光と空気

干し始めるのは湿度が低く、からりと晴れた日が続く時に。
最も古くから伝わる食品保存法だけあって、ドライベジタブルの作り方は本当にシンプル。必要なものは乾燥させたい野菜、そして日光と空気、そしてザルやバスケット。まずは野菜を選んでみよう。変わったものを選ぶ必要はなく、普段から調理に使っている野菜で充分だ。

おすすめはキノコ類。干し椎茸を想像すれば分かるように、旨味がぎゅっと凝縮されて奥深い味を堪能できる。また、トマトは乾かすまでに時間がかかるが、使い道が豊富にある野菜だ。

野菜を選んだら、次に同じ早さで乾燥するように同等の薄さにスライスする。薄ければ薄いほど早く乾燥するだろう。

木や竹でできたザルやバスケットに、同じ薄さにスライスした野菜を載せる。
最も気を付けるべき点は、腐敗を防ぐため野菜の水分をできる限り拭き取ること。野菜をカットすると水分が出るので、キッチンペーパーなどで拭いておこう。トマトは種を取り除き、ぱらりと塩を振って10分ほど置いた後、出て来た水分を拭き取っておく。

野菜の乾燥にかかる日数は2日~5日ほど。快晴がある程度続く日を選び、直射日光の当たる場所に置く。カビの原因となるので、湿気のある期間は避けること。

野菜は周囲や上下に空気を循環させる必要があるため、木や竹でできたザルやバスケットを使用する。乾燥期間中、裏表どちらも乾くように時々野菜をひっくり返し、外で干す場合は埃や虫、風に注意を払うこと。夜は夜露を避けるために室内へ入れることを忘れずに。

2日干しただけで、こんなにカラカラに乾燥できる
野菜はセミドライ、ドライと好きな状態で使用して良いが、水分がまだ残っている状態のセミドライの野菜は出来るだけ早く食べ切ろう。

乾燥した野菜は消毒し水気をしっかり切った密閉容器に入れて冷暗所で保管する。トマトや唐辛子などは、干した後にオリーブオイルに漬けるとさらに長い期間楽しむことができるだろう。

乾燥を終えた野菜は、密閉容器で保存しておく

野菜の旨味が凝縮した味と、新たな食感を嗜む

新鮮さが特色である野菜は、その瑞々しさ故に、調理や購入の際に留意しなければならない点もあるだろう。一人暮らしをしていると、その大きさや量を見て食べ切れないと購入を諦めたり、冷蔵庫に入りきらないと思うと選ぶ種類は少なくなる。

旬の野菜を手に入れたり、産地直送の野菜を貰ったりしても、消費しきれなければ廃棄することにもなりかねない。食材を捨てる…それは切なく、辛いことだ。

さらに野菜の多くは味や食感について想像しやすいため、初めて見る珍しいものを衝動買いをしてみるという冒険も少なくなる。そのために肉や魚に主役を譲り、野菜は脇役へと追いやられてしまうのかもしれない。

新鮮なうちに食べる事がキーポイントとなる野菜。その意識を変えてみる
ドライベジタブルは、今までの野菜料理の概念を覆してくれると言っても過言ではないだろう。新鮮なうちに食する、という固定観念を取り払い、あえて時間をかけて、乾燥させてから食べる。

しかし一度味わってみれば、今まで食べたことのない食感に驚くはずだ。全体が縮れ、こりこりとした味わいはフレッシュな野菜では決して味わえない食感。さらに野菜の旨味を凝縮させた味に、きっと驚くことだろう。

乾燥したキノコ類を入れたスープは、味にぐっと深みが出る。
セミドライの場合は炒める際にそのままの状態でいつもの手順で料理をすればOKだが、完全に乾燥し、パリパリの状態になったドライベジタブルは一旦水に戻す必要がある。5分~10分ほど乾燥した野菜を水に浸すだけ、干し椎茸や切り干し大根の調理過程と同じと考えてくれれば良い。

炒める調理法では水に浸した野菜をさっと絞って水気を切る。この調理法もドライベジタブルはもちろん美味しく味わえるが、惜しいのは野菜を戻す際に使った水分を捨ててしまうこと。干した野菜の味を堪能するためにも、ぜひ旨味成分が含まれている水分を利用するようにして欲しい。

例えばスープ。手作りでもインスタント食品でも構わないが、ドライベジタブルを入れて一緒に煮込むと、驚くほど味に深みが出る。

レトルトのカレーにドライベジタブルを入れて煮込めば、より贅沢に。
あるいはカレー。忙しいときなど温めるだけで出来上がり、というレトルト食品を利用する方も多いのではないだろうか。

このカレーを鍋で温める際に、ドライベジタブルも一緒に入れてみよう。野菜の味がプラスされ、ぐっとランクアップされるはず。

トマトや唐辛子など、オリーブオイルに漬けたものはさらに楽しみ方が広がっていく。メイン料理のソースに加えたり、パンの具材に合わせたりと使い方は無限大。シンプルなパスタ料理の最後の仕上げとして加えると、味、そして彩りのアクセントになってくれるだろう。

簡単なパスタにオイル漬けしたドライトマトや唐辛子を。味も彩りも豊かになる。

スーパーやキッチン、食卓で。野菜料理の概念を変えてみよう

忙しい毎日を送っていると、つい手軽に満腹感を得られるものが注目され、野菜は後回しになりがちな食材。傷まぬうちに食さねばと考えると、購入段階で億劫になるのも仕方がないのかもしれない。

しかしドライベジタブルはまず干す段階からクリエイティビティを楽しめる。どんな野菜を干そうか、どんな料理に合うだろうかと考えるのも面白い。

乾燥させると嵩が減るので保存する場所も取らず、持ち運びにも便利なのでキャンプやBBQに持って行くのもおすすめだ。

今までの「野菜」に対する概念が変わり、一人暮らしの食生活が充実し、新たな楽しみ方が得られるだろう。