北アフリカや中東で親しまれているミックススパイス「デュカ」。近年のスパイス人気もあって日本でも注目を集めていて、輸入食材店などで見かけたり、イノベーティブなレストランで使われていたりと、出会う機会が多くなった。スパイスは好きだけれど辛いものが少し苦手…そんな筆者にとっては、辛味がほとんどなく、ナッツの食感も楽しい「デュカ」は気になる存在に。もしかしていろいろな料理に使えるのではと、日本で販売している商品をいろいろ試し、自家製にもチャレンジ。その楽しみ方を追求してみた。
「デュカ」とは? 中東料理に欠かせないミックススパイス
デュカ(Dukkah※ダッカとも呼ばれる)はエジプトが発祥とされるミックススパイスソルト。スパイスとナッツを焙煎し、砕いて混ぜ合わせているシーズニングソルトだ。デュカとはアラビア語で突き砕くという意味を持つ。使われている材料は、コリアンダーやクミンなどのスパイスのほか、アーモンドやヘーゼルナッツ、ピスタチオなどのナッツとゴマ。それぞれを炒って砕き、塩と共にミックスしている。中東・北アフリカなどエリアにより使っているナッツやスパイスが異なるが、同じようなミックススパイスがあるという。
ブラックペッパーやチリを入れるレシピもあるが、辛味はアクセント程度で、基本的にはスパイスや素材の香りを活かしているのが特徴。中東エリアの料理全般に言えるのだが、素材を活かした味わいのものが多く、日本人にとってはとても食べやすい調味料だろう。
エジプトやトルコではゴマを古くから用いてきた文化があり、油もゴマ油を使っていた歴史がある。そしてトルコ周辺はヘーゼルナッツやピスタチオなどのナッツの原産地。豆やナッツを使ったお菓子や料理が古くから親しまれてきた。デュカの材料を見ると、このエリアならではのミックススパイスであることがよくわかる。
アラブ諸国やエジプトなどでは、パンをオリーブオイルに浸したあと、デュカをたっぷりつけて食べるのがポピュラーな楽しみ方だという。フムスにかけたり野菜や肉のローストにひと振りしたりと、いろいろな料理に使われている。
パンやサラダやデザートにかけるだけ。デュカのいろいろな使い方
日本でも中東のデュカをイメージした商品をスパイスコーナーなどで見つけることができる。まずはそれらを試して、いろいろな料理にかけて楽しんでみることに。一番爽やかで好みの味わいと感じたのが「朝岡スパイス」のデュカミックス。歴史あるスパイス専門メーカーのスパイスマスターと呼ばれるスタッフが、試行錯誤して作り上げたというデュカだ。
そして、さまざまな種類のナッツのほか大豆も入っていて食感が面白いと感じたのが「飛騨スパイスカレー研究所」の「焙煎デュカ」。代表の中川さんが土をイメージして焙煎したというナッツやスパイスは香ばしくて、ボリボリ、パリパリ、ザクザクとさまざまな食感で楽しませてくれるワイルドな味。すべてオーガニック食材を使って作り上げた「asacoromo」のデュカは、ナッツにカシューナッツのみを使用。カシューナッツの固すぎないサクッとした食感と甘味により、パンチがあるというよりは優しく寄り添うような味。全体としてとてもまとまった、上品な味わいのデュカだった。
どのデュカもそれぞれ個性があり、その違いをしっかりと感じられ面白かった。甘い物好きとしては、まずはバニラアイスやテリーヌショコラ、カスタードシュークリームなどにひと振りしてみたが、どれも好相性なのだ。
ポテトサラダやキャロットラペなどサラダにかければ、ナッツの食感が楽しく、オリーブオイルとこれをかけるだけでヘルシーなシーズニングとなる。クミンが入っているので、肉料理にはもちろん合わせやすいのだが、特に「朝岡スパイス」のデュカはミントやタイムなど爽やかな香りのハーブが入っているので、肉の味わいをさらに引き立てる。これをかけるだけでシンプルな料理が一気にエキゾチックになった。ひき肉に混ぜてハンバーグを作れば、ナツメグを入れなくても臭み消しができ、ナッツの香ばしさと食感がアクセントになった料理になる。中東にもコフタとよばれるひき肉料理があるが、そんな料理が簡単に出来てしまうだろう。
デュカは肉料理に合うのはもちろんだが、特に玉子料理に合うと感じた。目玉焼き(必ず黄身は半熟で)のオープンサンドにデュカをかけるだけで一気に料理が奥深くなる。「飛騨スパイスカレー研究所」の中川さんは、玉子かけご飯にデュカをかけるのもおすすめと案内しているが納得だ。焼き鳥やうなぎの白焼きなど和食に合わせてみても香りが刺激する一品になり、レモンやライムを効かせたハイボールとよく合う味に。和食にもいろいろチャレンジして使いたいと思った。
もちろん筆者の大好物であるチーズとの相性は抜群。茹で上げたパスタにオリーブオイルとパルミジャーノレッジャーノをあえて、仕上げにデュカをかけるだけのシンプルなパスタをぜひ試してみてほしい。チーズをのせてグリルしたパンにデュカをかけるのもいい。チーズはグリュイエールチーズなど熟成タイプのハードチーズ、パンはカンパーニュやライ麦パンで。とろりと溶けたチーズのコクや旨味をデュカの香りが引き立て、ナッツの風味はチーズの香りとも相似し、穀物の香ばしさと共に味わいを豊かにしてくれる。
好みのナッツ&スパイスで。デュカを自家製してみる
さまざまなデュカを試して、好みの味がわかったところで、その原材料を見比べながら、自分の好みのデュカを作ってみることにする。実際、エジプトや中東では家庭ごとに手作りするとか。それぞれの家庭や地域で配合や材料が異なり、郷土の味・家庭の味があるのだ。日本で購入できるデュカの原材料を見ると、材料はどれも日本でも手に入るものばかり。必ず入っているスパイスは、クミンとコリアンダー。原材料は分量の多い順に書かれているので、その書き方の順をみれば、どのスパイスの味わいを前に出したいのかがわかる。
アーモンドとゴマもほとんどのものに入っているが、メーカーによってはひまわりの種や松の実、大豆など、さまざまな食感のものが入っていて、食感のあるナッツを2種類以上を組み合わせている商品が多かった。そして、砂糖やガーリック、チリパウダーが入っているものも。それらの配合と味を比べて検討し、結局自家製するために筆者が用意したのは、クミン、コリアンダー、白ごま、塩と、ナッツはカシューナッツとヘーゼルナッツ。カシューナッツのくせのない甘い風味と優しい食感が好みだったのと、スイーツによく合うようにと、チョコレートと相性のよいヘーゼルナッツを加えることにした。配合としてはクミンよりもコリアンダーを多めに入れ、爽やかな香りを加えるため「朝岡スパイス」のデュカをヒントにミントを少し入れてみた。
まずは、ナッツとスパイスをそれぞれ香りが出るまで乾煎りする。それらを乳鉢などで好みの大きさになるまで砕き、混ぜ合わせれば完成。密閉できる瓶などの容器に入れ、乾燥剤を一緒にいれて保存して使用する。煎り過ぎると焦げたような香りがしてしまい、美味しさはもちろん香りも変わってしまうので煎り方が難しいと感じた。ナッツは粗めに砕くと食感のアクセントになるが、今回は少し細かめに砕いてスパイスとしっかり混ざりあうようにしてみた。好みや使い方に合わせて調整できるのが自家製の楽しいところだ。
自家製のデュカはまだまだ満足のいくものではなかったので、もっといろいろ試行錯誤して自分好みの味を追求していきたいと思った。市販のものが、焙煎具合やスパイスの配合など、とても追求されたものであることも自家製することで改めて感じた。国内でも探してみると本当にいろいろなデュカを見つけることができるので、比べながら楽しんでみると、スパイスの特徴も分かってくるだろう。
洋食から和食、スイーツまで。ひと振りするだけで、エキゾチックで奥行きの深い味わいの一品にできる、デュカ。しかもナッツは不飽和脂肪酸やビタミンEなどが豊富で、健康のために積極的に取りたい成分。クミンやコリアンダーはそれぞれ、古くから胃腸の負担を和らげたり、口臭予防になるということで食べられてきた歴史がある。それらの点からも、デュカを醤油や酢と同じように日常の調味料として常備しておきたいと感じた。ぜひ自分の好みにあったものを探して、手作りして。アラブの人々の知恵と歴史が詰まった調味料であるデュカを、日常に取り入れてみてほしい。
CURATION BY
古いものや熟成したものと愛娘に目がない、フリーライター。チーズ好きが高じて、「チーズプロフェッショナル」の資格も取得。カメラ片手に町や人、美味しいものを訪ね歩く日々を過ごす。