Vol.367

KOTO

23 AUG 2022

フードテックとは?メリット・デメリットや事例をもとに「食」のこれからを考える

「フードテック」という言葉が、近年注目され始めている。フードテックとは、さまざまな「食」についての問題を解決できる可能性を秘めた、重要な概念だ。とはいえ、「フードテックという言葉を聞いたことはあっても、詳しい内容までは知らない」という人もいるだろう。ここでは、そんな「フードテック」の概要やメリット・デメリット、具体的な活用事例などを紹介する。

そもそもフードテックとは?

食分野にテクノロジーを活用することでさまざまな課題の解消が期待できる
フードテック(FoodTech)とは、フード(Food)とテクノロジー(Technology)をあわせてできた造語である。単語の意味の通り、食についてテクノロジー(科学技術)を活かすことを意味する。特に、最先端のIT技術を活用によって食に関するさまざまな課題を解消し、食の可能性を広げることを目指している。

2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも、「飢餓をゼロに」「つくる責任 つかう責任」といった食と関連した目標があることから、今後市場が拡大すると見込まれている分野である。

フードテックがもたらすメリット

フードテックによって、フードロスが解消できるというメリットがある
フードテックが注目されているのは、取り組むことにさまざまなメリットがあるからだ。ここでは、6つのメリットを紹介する。

食料不足や飢餓問題の解消

フードテックに取り組むことのメリットに、食料生産を安定させられることが挙げられる。

地球上のさまざまな国、特に発展途上国では食料不足や飢餓が深刻な問題となっている。人口増加のペースに食料生産が追いついていないのだ。そのほか、異常気象による農作物の不作もあり、世界の食料供給は不安定になっている。

フードテックで食料の生産量を調整したり、天候に左右されない生産方法を確立したりできれば、食料不足や飢餓問題も解消されるだろう。

フードロスの解消

フードテックを活用することで、フードロス(まだ食べられる食料を捨ててしまうこと)を解消できる可能性がある。

SDGsの「つくる責任 つかう責任」でも話題になっているように、おもに先進国でフードロスが問題となっており、その原因は生産や流通に無駄が生じていることだ。フードテックの活用でその無駄をなくして効率化させられれば、食料の売れ残りや廃棄を減らせるだろう。

生産にかかわる人手不足の解消

農作業にフードテックをうまく取り入れることができれば、少ない人数でも食料生産を行えると期待されている。

日本だけをみても、一次産業(農業・林業・漁業)の就業者は年々減少しているのが現状だ。その人手不足・後継者不足を解消する手段として、フードテックが考えられる。例えば、ロボットに農作業をさせたり、生産管理をAIに任せたりすることで、人間の手間を大きく軽減できるだろう。

食の安全に対する意識の向上

フードテックの活用は、食中毒や異物混入、産地偽装などの食に関するトラブルを未然に防ぐことにも役立つ。

食のトラブルがたびたび報道されてきたことで、消費者の食の安全に対する意識が高まっている。そのため、食品を「誰が」「どこで」生産したり、加工したりしているかを明確にするよう求められているのだ。フードテックを活用すれば、そうした情報を効率的に管理でき、万一トラブルが起こってもすばやい原因追及が可能となる。

ベジタリアンへの対応がしやすくなる

宗教上の理由や個人的な嗜好として、肉や魚といった動物性タンパク質を摂らない人がいる。そうしたベジタリアン(菜食主義者)やヴィーガン(完全菜食主義者)への対応に、フードテックは大いに活用されている。

肉や魚を避けている人でも、植物性タンパク質を摂ることは問題ない場合が多い。そのため、植物性タンパク質を肉に似せて加工した「大豆ミート」のような代替食品が、フードテックによって開発されている。

モバイルオーダーの普及

インターネットやスマートフォンの普及により、近年は食品のモバイルオーダーがさかんに行われている。これもフードテックの1つだ。店舗や飲食店に来店する客以外の人にも食品が消費されるようになり、フードロスを減らすことに期待できる。

フードテックがもたらすデメリット

多くのメリットがあるフードテックだが、デメリットもある。その最たるものは、「取り組みに膨大なコストがかかること」だ。

例えば、システムを開発するための設備費や人件費、その運用に必要な光熱費などが挙げられる。

フードテックは注目を集めている分野ではあるが、本格的に取り組んでいるのは一部の大手企業がメインで、裾野は広がっているとはいえない。初期費用の面をクリアできる資金力がないとフードテックへの参入が難しいことは、解決すべき大きな課題である。

身近なフードテックの事例

フードデリバリーサービスはフードロスの減少に役立っている
フードテックはさまざまな企業が取り組みを始めているが、そのなかで特に身近な事例を2つ紹介する。

フードデリバリーサービス

日本でもおなじみとなった、フードデリバリーサービス。注文者・配達員・店舗の情報を集約してマッチングすることで、効率よく食品を注文者に届けられるシステムである。こうしたサービスでは、おもにモバイルオーダーの部分でフードテックが活用されている。

消費者は飲食店を訪れなくても店の料理を味わえ、店舗側はフードロスを減らすことができるのだ。

完全栄養食「ベースフード」

ベースフードとは、「忙しい毎日でも、おいしくて体にいいものを食べる」ことを目的に開発された、完全栄養食である。開発者は、フードテックを活用することで「健康」と「おいしさ」の両立を成功させた。

調理の手間なく食べられる「ベースブレッド」や、アレンジがしやすい「ベースパスタ」などが販売されている。

企業におけるフードテックの事例

大豆を使った肉の代替品「大豆ミート」はフードテックの1つ
フードテックの取り組みには、業界内で注目を集めているものもある。ここでは2つの事例を紹介する。

大塚食品「ゼロミート」

大塚食品の「ゼロミート」は、フードテックを活用して大豆を肉のように加工した大豆ミート食品である。その名の通り、肉や卵など動物性原材料は一切使っていないながらも、肉のような食感とおいしさを両立させている。さらに、肉よりもヘルシーで、ハンバーグ2品はレンジで温めるだけで食べられるという手軽さもメリットだ。

健康に気を使っている人やダイエット目的の人のほか、ベジタリアンにも対応できる利便性の高い食品といえる。

FRD Japan「千葉県産生サーモン おかそだち」

FRD Japanの「千葉県産生サーモン おかそだち」は、海面ではなく陸上での養殖で育てられたサーモンのブランドである。15℃以下の冷たい人工海水を循環させることで、一年中サーモンに適した環境を維持しているのだ。これによって、食料生産の安定化が期待できる。

また、独自のろ過システムで人工海水をほぼ100%循環させて養殖していることも特徴の1つ。そのため、海を汚さないサステナブルな方法で育てられているといえるのだ。

フードテックとは何かを知り、「食」のこれからを考えよう

「食」のこれからを考えるために、フードテックについて知っておきたい
フードテックとは、食についてテクノロジー(科学技術)を活かすこと。最先端のテクノロジーを活用することで、「食」に関するさまざまな問題に対応できると考えられている。多くのメリットがあるため注目を集めており、これから取り組みを始める企業は増えていくだろう。フードテックについて学び、「食」の今後について関心を持ってみてほしい。

フードデリバリーサービスや代替食品などは個人でも取り入れやすいため、まずは意識することからはじめてはいかがだろうか。