調理するのに手間がかかる。そんな理由からなのか、豆は自炊のメニューにあまり登場しない食材のひとつかもしれない。しかしタンパク質や葉酸、鉄分を多く含む豆は数多くの品種があり、旬の新鮮な豆から乾燥させたもの、缶詰や冷凍と選択肢が豊富。レシピも豆をメインにしたものから、スープやシチューと一緒に煮込んだり、ご飯と炊いたりサラダに入れたりと無限大の食材だ。長い歴史を持ち、各国で愛され続ける豆の魅力に触れて、食卓をより豊かにしてみてはどうだろうか。
農業の始まった時代から、世界中の食卓へ
人類の食生活の中で非常に長い歴史を持つ豆は、農業が始まった時代に最初に栽培された植物の一つである。紀元前9000年頃には豆を使用していた記録が残されており、古代エジプト王の墓で発見された豆は死後の世界の人々とその魂のためだったと言われている。
15世紀になりヨーロッパ人による大航海時代になると、豆は貿易品として国を超え、さまざまな地域を行き来するようになった。どの国にもその土地に合った豆が栽培され、独自の調理法が生み出された。今でも豆料理のレシピを探してみると、世界中で各国の特徴が表れているメニューを見つけることができる。
アメリカのチリコンカン、アメリカとイギリスのベイクドビーンズ、ブラジルのフェジョアーダ、スペインのファバーダ・アストゥリアーナ 、中東のフムスやファラフェル。日本では五目豆などの煮もの、豆ごはんや赤飯、小豆を使ったお菓子等がある。
その歴史が始まって以来、世界中で数えきれないほど多くの豆のレシピが誕生し、食文化を支えてきた。食べ応えがある豆は人々が不足しがちな栄養素を補ってくれる、世界最古のスーパーフードと言える食材なのだ。
豆の世界が広がる一歩。乾燥豆をもっと身近な存在に
最初に乾燥豆を水で軽くゆすいで汚れを落とし、ボウルに豆の分量の4~5倍ほどの水を入れて浸す。浮いてきた豆は取り除いておこう。水に浸す時間は6時間~だが、丸1日浸すと豆は驚くほどふっくらしてくる。
次に浸した豆を水ごと厚手の鍋に入れ、強火にかける。沸騰したら火を弱めて灰汁を取り、必要であればここで豆に味付けをする調味料を入れる。
茹で時間は黒豆や小豆などの小さめの豆は30分~、キドニービーンズ(赤エンドウ豆)やピントビーンズ(うずら豆)などの中くらいの豆は50分~。硬いひよこ豆は更に時間がかかるので圧力鍋を使うと効率的だ。なお、茹で時間は浸した時間によって異なるため、あくまで目安にしておこう。
灰汁を取った後に20分ほど弱火で茹でたら、豆を手に取って指で押して簡単に潰れるぐらいの柔らかさかどうか確かめ、まだであればその後は5~10分おきに確認する。慣れていくうちに、「この豆にはこれぐらいの茹で時間」というのが分かってくるはずだ。
乾燥豆は茹でるときに一度にまとめて茹でておき、100gずつぐらいに小分けにして冷凍しておくと便利だ。スープや煮込み料理に使う豆は茹で汁を少量一緒に入れて、サラダに使うものは水気を切って冷凍しておこう。
豆を使ったおすすめレシピ。前菜からメインまで
ここで豆を使ったおすすめのレシピを紹介しよう。まず日本人の主食である米と一緒に炊く豆ごはん。豆と穀物は互いのアミノ酸が補完し合って完全なタンパク質を形成してくれ、噛み応えもあるので白米の量を抑えたい人にもおすすめだ。
材料は米1合、前日から水に浸した乾燥のレンズ豆大さじ1、青エンドウ豆、ひよこ豆、小豆、黒豆をどれも10粒~15粒ほど。青エンドウ豆とひよこ豆、小豆と黒豆は米を炊く数時間前に熱湯に入れ、レンジで1分温めておく。
米を炊く直前に青エンドウ豆とひよこ豆の皮を剥き、他の豆と一緒に米に混ぜる。豆は既に水分を含んでいるので、水は1合分よりほんの少し多めで米と豆を一緒に炊けば完成だ。
乾燥豆を水に浸したり、茹でる時間がないという方は、まず最初は缶詰の豆からスタートしてみるのも良いだろう。豆をザルに開けて冷水で洗ってサラダやシチューに合わせてみる。
旬のフレッシュな豆はさまざまな使い道があるが、シーズンでないときは冷凍の豆をキープしておくと便利。さっと茹でて、パスタやスープへ入れてみよう。
ちょっと時間があるときにトライしてみたいのがフムスだ。一晩水に浸した乾燥のひよこ豆100gを柔らかくなるまで茹でて冷ましたら、オリーブオイルを30ml加えてフードプロセッサーで攪拌する。
絞ったレモン果汁、みじん切りにしたニンニク1かけ、塩小さじ1/3、タヒーニ(白ごまペーストで代用可)大さじ2~3杯を水(ある場合はひよこ豆の茹で汁)30mlで溶いたものを入れて、滑らかになるまで攪拌する。
茹で汁(もしくは水)とレモン果汁を少しずつ加えてちょうど良い固さにし、塩で味を整える。クミンや好みのスパイス、砕いて炒ったナッツ類やパセリなどをトッピングし、食べる直前にオリーブオイルをかけてピタパンやバゲットを合わせれば、前菜にも主食にもなるメニューが完成だ。
ネガティブなイメージを払拭。豆を暮らしに取り入れる
豆を使った料理と聞くと、どうも食のメインステージではなく、隅へ追いやられている存在のような気はしないだろうか。調理をするのに時間がかかる、レシピが凡庸なような気がするなど、どこか地味な印象があるのは拭えない。
しかし豆は時代も国も超えて人々の食生活を支え続けてきた食材。品種から調理法までバラエティに富んでおり、高い栄養素を持ち、味にくせがないため他の食材としっくり馴染む有難い存在だ。もし豆に対してネガティブな先入観があるならば、一度それを取り払ってみてはどうだろう。
多くの豆の種類の中からお気に入りを探し、それに似合うレシピを見つけてみる。気に入った器に盛って美しくコーディネートしてみれば、色鮮やかな豆が今までとは違う印象を持っていることに気づくだろう。豆は私たちの食生活を豊かにしてくれる、魅力的な食材なのだ。
CURATION BY
1992年渡英、2011年よりスコットランドで田舎暮らし中。小さな「好き」に囲まれた生活を求めていたら、夏が短く冬が長い、寒い国にたどり着きました。