朝も夜も果てしなく続く夏の暑さはまだまだ健在。むっとする熱気の中では寝付きも悪く、睡眠不足のまま迎えた朝は頭も気持ちもぼんやりとしたままだ。様々な弊害が起こりがちな夏こそ、パワーの源となる食生活に気を配りたい。おすすめなのが喉越しが良く、栄養もたっぷり摂れる冷たいスープ。食欲を増進してくれる、暑い夏だからこそ美味しい冷製スープでテーブルに涼を、体に栄養を与えよう。
冷製スープで水分補給と栄養を
お腹が減ってはいるはずなのに、食欲が湧かない、あるいは食べるのが億劫に感じてしまう。一日の始まりからだるさや辛さを感じ、回復しないまま翌日へと続いていく…。夏バテの症状のひとつが食欲不振で、長く辛い夏の期間には誰もが経験したことがあるのではないだろうか。
夏の期間、高い気温で上昇した体温を下げるために汗をかく。そのため水分補給は欠かせないが、汗で失った体内の水分は水やお茶、炭酸飲料などでは補充しきれず、逆に水分の摂り過ぎで胃酸が薄まってしまうこともあるのをご存じだろうか。そうなると栄養素を吸収することがままならず、体内に必要な塩分も減少していく。結果、胃酸の分泌低下で食欲不振となってしまうのだ。
夏バテにならないために必要な水分補給と栄養摂取、ふたつを同時にまかなえるのが冷製スープだ。水分と高い栄養素を含む旬の野菜をふんだんに使い、液状のため食欲のない時でも無理なく食すことができる。体と心を同時に潤す冷たいスープをひと口飲めば、胃がゆるやかに動き出し、少しずつ食欲も湧いてくるはずだ。
冷製スープの代表、ガスパチョとヴィシソワーズ
冷たいスープと聞いて思い浮かべるのは、トマトを使ったガスパチョと、じゃがいもを使用したヴィシソワーズではないだろうか。ご存じの通りガスパチョとは、スペインを発祥とした夏にぴったりのスープだ。
ガスパチョの原型となったスープはニンニク、塩、固くなったパンに酢とオリーブオイルを足したシンプルなものであった。これは夏に葡萄畑やオリーブ畑など、炎天下で働く男たちのために妻が用意した冷たいスープで、やがてコロンブスがトマトとピーマンを持ち帰りスペインに広めたことで、現在のレシピになったという。
材料はパン、トマト、ニンニク、玉ねぎ、キュウリ、ピーマン、酢とオリーブオイルが基本だが、地域によって、あるいは家庭によってレシピは異なり、バリエーションは非常に豊富だ。
一方、ヴィシソワーズとはフランス人シェフ、ルイ・フェリックス・ディアが作り出した冷製スープだ。1885年、フランス中部アリエ県ヴィシーの近くモンマローで生まれたディアは母親から料理を習い、14歳で見習いとして料理の道へ入る。
18歳でパリのブリストル・ホテルに勤務し始めたのを皮切りに、パリやロンドンのリッツ・ホテルで経験を積み、25歳でNYへ移住。カールトン・ハウスのシェフを経て、ザ・リッツ・カールトンの料理長となった。
ディアがNYの蒸し暑い夏のために生み出したメニューがヴィシソワーズだ。これは彼の母が夏の日に前日の残り物であるジャガイモとポロネギのスープに冷たい牛乳を加えて濾し、クリームとチャイブを加えたものを原型としているという。
スープはひとつのレシピを基本として覚えておけば、食材や調味料を変えるだけで多くのバリエーションが誕生する。今回はこのふたつをベースとして、自分流の涼し気なオリジナルのスープを生み出してみよう。
ガスパチョの作り方
ガスパチョは地域や家庭、レストランごとに異なるレシピが存在すると言われているが、ここではごくシンプルなものをご紹介しよう。
二人分の材料として、完熟トマト2個、キュウリ150g、赤パプリカ1/2個、ニンニク1かけら、玉ねぎ小1/4個、パン(固めのもの)15g、オリーブオイル少々、シェリービネガー(酢で代用可)大さじ1、塩・胡椒を適量用意する。
カットした野菜とパン、オリーブオイル、シェリービネガーをフードプロセッサーでなめらかにして冷蔵庫で冷やし、塩、胡椒で味を整えて完成だ。最後に小さくカットした野菜を載せ、野菜の食感と彩りを楽しもう。
ヴィシソワーズの作り方
次にヴィシソワーズのレシピをご紹介しよう。二人分としてじゃがいも150g、ポロネギ50g、玉ねぎ(中くらい)1/2個、水180ml、コンソメ5g、牛乳180ml、生クリーム20ml、チャイブ適量、塩、バターを適量を用意する。
玉ねぎを薄くカットし、バターで柔らかく透明になるまで炒め、輪切りにしたポロネギをしんなりするまで炒める。薄くスライスしたじゃがいもを加えて炒めて水を足し、じゃがいもが柔らかくなるまで茹でてコンソメを足す。
冷蔵庫で充分に冷やしたら、そこへ牛乳とクリームを足して塩・胡椒で味を整え、カットしたチャイブを飾り完成だ。
食材を変えてバリエーションをもっと豊かに
ガスパチョ、そしてヴィシソワーズのレシピをマスターしたら、次はこれらの冷製スープをベースに、食材を変えて異なるレシピに挑戦したい。例えばビーツ。色鮮やかな色彩が特徴のビーツは栄養も抜群、またカラフルな色合いでテーブルに彩りをもたらしてくれる。
材料はガスパチョでご紹介したものから完熟トマトを1個、茹でたビーツを1個(60gほど)、シェリービネガーをバルサミコ酢に変え、残りの材料と作り方は同様となる。ビーツのほのかな甘味が味わえ、また一風異なるガスパチョを堪能できるはず。
また野菜ではなく果物を使ってガスパチョも試してみたい。メロンを1/4個、種の部分を除いたキュウリ150g、グリーンパプリカ1/2個、ライム1/2個、シェリービネガー小さじ2、オリーブオイル適量、塩適量を用意する。
メロン、キュウリ、パプリカをカットしフードプロセッサーでなめらかにし、シェリービネガーを加えてライムを絞る。メロンの甘さによって調味料を調節しながら塩で味を整え、冷蔵庫で冷やして完成。小さなグラスに盛って前菜としてもおすすめだ。
次はヴィシソワーズをベースとしたレシピをご紹介しよう。前述したヴィシソワーズのレシピから、じゃがいもを100gへ、ポロネギをブロッコリー100gへ変更し、残りの材料はそのままで。ブロッコリーの花先の部分を削り、茎の部分を粗くカットしておく。
玉ねぎを透明になるまでバターで炒め、スライスしたブロッコリーの茎の部分を加えて炒める。スライスしたじゃがいもを加え、水とコンソメを入れて野菜が柔らかくなるまで煮る。
野菜がすべて柔らかくなったら火を止めて粗熱を取り、ミキサーやハンドブレンダーでなめらかにする。冷蔵庫で冷やしたものに冷たい牛乳、生クリームを加え、塩で味を整えて完成だ。
涼を得られる味とヴィジュアルで、夏の食を楽しむ
暑くて湿度の高い夏は、食欲不振になるだけでなく料理をする気力さえも失っていく。作ること、食べることが億劫になると、もちろんテーブルコーディネートにも力が入らず、毎日似たようなシーンが食卓で繰り広げられることとなってしまう。
だが夏が旬の瑞々しい食材を使い、食が進むものを選んでみれば、おのずと料理をする気もテーブルを飾る元気も湧いてくるはず。温かい料理では使用することができないガラス製品を使い、冷たいスープをより涼し気に魅せるコーディネートも楽しめる。涼を得られる味、そして美しく演出する楽しみももたらしてくれる冷製スープで、これからも続く夏を乗り切り、夏バテ知らずの体を作っていきたい。
CURATION BY
1992年渡英、2011年よりスコットランドで田舎暮らし中。小さな「好き」に囲まれた生活を求めていたら、夏が短く冬が長い、寒い国にたどり着きました。