Vol.362

FOOD

05 AUG 2022

シビレと清涼感を同時に体感。四川料理のスパイス、花椒で夏を乗り越える

夏本番、照り付ける太陽の日差しは強く、容赦なく体を焼き尽くす。だが不思議なことに、暑い季節にこそ体の芯から熱くなる辛い食べ物が食べたくなってくる。意識が覚醒する心地良い辛さ、ピリッと口を刺す痺れ、そして辛い料理で発汗した後に訪れる一瞬の清涼感は、夏だからこそ味わえるもの。辛さで知られる中国四川料理のスパイス、花椒で辛さと痺れを体感し、そして新たな味のレシピに挑戦してみたい。

暑いからこそ食べたくなる、辛い料理

夏真っ盛りとなった今、この季節を楽しむどころか、暑い、つらい、という言葉だけが口に出る。だが身体を焦がすような気温だと言うのに、何故だがこの季節になると辛い料理を欲してしまう。ひと口味わえば脳天を突き刺すような強烈な辛さ、思わず目を見開くような痺れが効いた料理を食べると、刺激で顔は一気に火照り、滝のように汗が噴き出す。

暑さが不快なはずなのに、だくだくと流れる汗を拭きながら食べる辛い料理は格別で、体中が熱くなり、体中の水分が汗となって放出したかと思われる後に訪れる、あの一瞬の清涼感。厳しい暑さの中で食べる辛さは、ある種のマゾヒスティックな快感であり、夏にしか味わえない快楽と言えるのかもしれない。

暑い国で好まれる辛い料理。体力が消耗しやすい気候でも、刺激的なスパイスが食欲をそそってくれる
だが「辛い料理」とひと口で言っても、味も辛さも消し飛んで、痛みしか感じられないほどの激辛は避けたいというのが正直なところだ。どんな食材、スパイスを利用しているのかも判断できず、それどころか何を食べているのかさえ分からない。そこまでいくと、それはもう食べ物の範疇を超えてしまう。

美味しい食事を味わうのは、人間に与えられた楽しみのひとつ。それが何を食べているのかさえ分からないものになってしまうのは切な過ぎる。辛さの中にある旨味を味わうことこそ、辛い料理の醍醐味があるはずだ。

辛い料理に使う代表食材と言えば唐辛子。このお馴染みの食材にぴったり合う香辛料が、花椒だ。中国四川料理には欠かせないスパイスのひとつで、刺激的で心地良い痺れを体感できる花椒を、色々なレシピに合わせて楽しんでみよう。

料理をパワフルに引き立てるスパイス、花椒。使いこなして新たな味を堪能したい

ビリビリと舌を刺す刺激的なスパイス、花椒

日本語では「かしょう」、中国語では「ホアジャオ」と読む花椒は、中国原産のミカン科サンショウ属、落葉低木の果実の殻をしている。中国全土で料理に使われる混合香辛料、五香粉を構成するうちのひとつであり、辛さと痺れで有名な四川料理には欠かせない香辛料だ。

花椒の果実は夏の終わり、1年に1回だけ収穫される。煮込み料理などには丸ごと、あるいは殻をすりつぶして粉状にして使用する
混同されやすい山椒は日本原産の同属異種。果実を佃煮にしたり、乾燥した果実の殻や種を香辛料として使ったり、木の芽を飾りに使用する。花山椒はこの山椒の花の部分を用いたものだ。

花椒は既に粉状になったものも売られているが、ぜひ試して頂きたいのがホールの花椒の殻をすりつぶしたもの。風味が強くかぐわしい芳香で、新鮮な刺激は一度使うと癖になる。

花椒と聞くと「痺れ」だけを連想しがちだが、柑橘系の香りが爽やかな清涼感をもたらしてくれる。本格的な中華料理にはもちろんのこと、自分好みの新たなレシピに活躍してくれるに違いない。

花椒のすりつぶし方

花椒は丸ごとそのままを煮込み料理に使うのも美味しいが、炒め物や蒸し料理、調理の最後のアクセントとしてなど、使い方が豊富なのがパウダー状にしたものだ。ここで花椒のすりつぶし方をご紹介したい。花椒の他にすり鉢や乳鉢、そして茶こしを用意しよう。

まず花椒を皿の上に広げ、黒い種を選り分け捨てる。一見胡椒のようなかたちで美味しそうに見えるが風味も痺れもない部分なので、果実の殻のみを使用する。

殻の中に黒い種が入った状態のものもあるので、これも取り除く。根気のいる作業だが、このひと手間でえぐみや苦みが排除できる
黒い種を取り除いたら、花椒の殻をすり鉢や乳鉢に入れて、すりつぶしていく。潰していくとパチパチと殻が跳ねるので、ゆっくりと丁寧に作業を行おう。

粉状にした花椒は保存も可能だが、新鮮な香りを楽しむためにも、その都度使う分だけをすりつぶすのがおすすめ
花椒の殻にはすりつぶせない部分があるので、最後に茶こしでふるい分けておく。残った花椒の殻は直射日光の当たらない場所に、密閉出来る容器に保存しておこう。

すりつぶせない殻の内部にある皮は茶こしで取り除き、パウダー状になったものだけを使用する

痺れから清涼感まで。花椒を使ったレシピ

花椒を使った代表レシピはもちろん麻婆豆腐。こちらに粉状の花椒を入れるとビリビリとした痺れが加わり、ぐっと本格的な味になる。さらに担々麺やエビやチキンの炒め物など、唐辛子を使った辛い料理にプラスすると辛さと痺れの絶妙なハーモニーを味わえるだろう。

花椒は煮込み過ぎると苦みが出ることも。料理完成の手前で入れて心地良い痺れを味わいたい
花椒と聞くと辛いメニューばかりを連想しがちだが、ほんの少量使用することで爽やかな風味がプラスされ、新たな味が楽しめる。おすすめはライムやレモンなどの柑橘類を使ったレシピ。季節の野菜を合わせたオイルベースのパスタに、最後にくし切りのライムをぎゅっと絞ったものを加えて味を整え、最後に花椒をぱらりと振りかけると、刺激と清涼感のある夏のパスタの完成だ。

柑橘系の果実と相性の良い花椒。爽やかさと軽やかな刺激の組み合わせとなる
グレープフルーツを用いたサラダに、ニンニクとオイルで炒め、塩・胡椒、少量の醤油で味付けしたシンプルなホタテを合わせたものもおすすめしたい。皿にサラダとグレープフルーツを合わせ、ホタテを載せて最後に花椒を一振りしてみよう。涼やかな夏らしい一品に爽やかな刺激がプラスされた味わいになる。

魚料理にフレッシュな芳香を与えてくれるグレープフルーツ。花椒が快いアクセントになる
最後にアイスクリームに少量の花椒を加えると、意外な味のコントラストが楽しめる。アイスクリームの甘さを引き立てるピリッとした風味が加わり、大人の味のスイーツに。香辛料のひとつである花椒、色々な食材と合わせて新たな味覚を楽しんでみたい。

多くの使い方がある花椒が、新たな味覚の扉を開いてくれる

辛さと痺れのコンビネーションで、夏を乗り切る

夏が苦手な人にとって、8月はまだまだ厳しい季節。早く秋にならないかと祈るような気持ちの人も多いだろう。だが暑いからと冷房の効いた室内で長く過ごしたり、冷たい食べ物や飲み物ばかり摂取していると、汗はかかずに体が冷え、だるさを感じることもしばしばだ。

倦怠感や食欲不振など様々な不調を感じる夏は、スパイスを効かせた料理でパワーアップしてみよう
暑さと湿度で気力や体力、食欲までも減退するこの季節、身体の芯から熱くなって気持ちよく発汗してみよう。運動や気温によって生じるものと異なり、味覚の刺激によってかく汗はすぐに引き、スッキリとした爽快感が味わえる。辛さと相性抜群の痺れと刺激を与えてくれるスパイス、花椒を使った新たなレシピで残りの夏を乗り切ってみたい。