Vol.350

FOOD

24 JUN 2022

ウィンブルドン選手権開幕!今年のテニス観戦はピムスを片手に

夏が間近に迫った6月下旬、輝く日差しの下で世界中のテニスファンを熱狂させるイベントがイギリスで開催される。テニス4大国際大会のひとつ、ウィンブルドン選手権だ。本戦のスタートは6月27日、それから2週間に渡り今年も数々の予期せぬドラマが繰り広げられるに違いない。今年のウィンブルドン観戦はイギリスの夏を代表するドリンク、ピムスのオリジナルレシピとともに楽しんでみてはどうだろうか。

ウィンブルドンの歴史

ウィンブルドン選手権(The Championships、日本では全英オープンとも呼ばれている)の歴史は古く、1877年7月9日、イギリスはロンドン・ウィンブルドンの「オール・イングランド・クリケット・アンド・ローンテニスクラブ」で最初の大会が開催された。

開催地であるウィンブルドンのオール・イングランド・クラブは1868年に設立。元々はクリケットをメインとしていたが、13世紀にフランスで「jeu de paume/手のひらのゲーム」として広まり、19世紀後半から人気が高まったテニス用の芝のコートも設置された。

センターコートが使用されるのはウィンブルドン選手権の期間のみ。1年間徹底管理された美しい芝の上で試合が行われる
最初の大会は、クリケット場の芝生を整えるローラー購入のための資金調達が目的であったという。大会の成功とテニス人気の高まりによりクリケット場はテニスコートへと変貌を遂げ、男子シングルスのみの試合からスタートした大会は1884年から男子ダブルス、女子シングルスも開催され、以来数々の名試合とドラマを生み出し続けている。

今年はどんな戦いが待っているのだろうか?試合を見守る観客は静まり返り、静寂の中でボールがラケットに、地面に叩きつけられる音が響く。選手たちの息遣いさえ聞こえそうな張り詰めた雰囲気が伝わって、見ているこちらも緊張感で喉もカラカラに。気持ちを静め、喉を潤すために観戦にはお気に入りのドリンクを用意して熱きゲームの行方を見守りたい。

ウィンブルドンで注目される食材、ドリンク

大会期間中、ウィンブルドンではテニスだけに留まらず、そこで振舞われる食べ物と飲み物も毎回話題を呼んでいる。アイコンと呼ばれる食材はイチゴで、多くの観客がカップで販売されている「ストロベリー&クリーム」を楽しみ、その消費量は16万6千杯以上にもなる。

イチゴとクリームを組み合わせた始まりは16世紀、ヘンリー八世の時代。政治家、聖職者であったトマス・ウルジーが豪奢なパーティーを開いた際にゲストに提供してからだと言われている。

いつでも手に入る現代と異なり、かつては旬の期間が2〜3週間しかなかったイチゴ。この期間がウィンブルドン選手権の時期と一致しており、開催当時から欠かせない食材として親しまれてきた
他にもシャンパンは2万本以上、スコーンは11万食以上、フィッシュアンドチップスは1万7千食以上消費されると言われているが、もうひとつウィンブルドン選手権に欠かせないドリンクが、ピムスである。

1971年にウィンブルドンに登場したピムス。大会期間中には約30万杯が消費されるという

イギリスの夏を代表するドリンク、ピムス

ピムスは1800年代、ロンドンのオイスターバーを経営していたジェームズ・ピムが作り出した、カクテルのための混合酒だ。ジンをベースにハーブやスパイスを調合し、カキの消化に役立つと宣伝されたピムスはバーで高い人気を博し、19世紀末までにイギリス全土に広がった。

最もクラシカルなレシピはグラスに氷を入れ、50mlのピムスに150mlのレモネードを足したもの。トッピングとしてイチゴ、キュウリ、オレンジとミントを加える。初めてピムスを飲んだ時は「キュウリが入ったドリンク!?」と衝撃を受けたものだが、フルーツの甘味にスッキリとした味わいがプラスされ、絶妙なテイストとなっている。

ピムスのクラシカルレシピはフルーティーで爽やかな味わい
ピムスは他のドリンクと混ぜることを前提に作られているため、実に数多くのレシピが存在している。料理はもちろんカクテルも既存のレシピに沿って作れば味は安定しているし、間違いもない。

だが時には自らオリジナルレシピを考案してみてはどうだろう。テニスの試合の勝敗がゲームの最後まで分からないように、ひとつのレシピが完成するまでには紆余曲折、もちろん失敗もあるだろう。だが完成した時には世界にひとつだけの特別なドリンクになるに違いない。

オリジナルレシピを目指して

オリジナルカクテルを生み出すにはどこからスタートすれば良いのだろうか。とにかく思いついたミックス用のドリンクを手当たり次第に用意してみる。トニックウォーターやソーダウォーター、クラフトコーラやジンジャーエール、味付きの炭酸水etc。

好みの味を見極め、想像力をフルに使ってオリジナルのレシピを生み出したい
飲み比べて初めて分かったのだが、ピムス自体には甘味が感じられないため、ノンシュガーのドリンクは合わないということだ。キュウリを入れる既存のレシピが存在するため、これは合うに違いないと用意した無糖の「キュウリ・ミント・ライム風味の炭酸水」を合わせた時は、思わず絶句するほど摩訶不思議な味のドリンクが完成してしまった。

あれこれと試してみた結果、おすすめできるレシピをご紹介したい。まずはウィンブルドンのアイコン、イチゴにちなんだカラーのものを。グラスに氷を入れて、ローズ・レモネードを150ml、ピムスを50ml。これにスライスしたイチゴをトッピング。お酒が苦手な方は少しピムスの量を減らしてもいいだろう。

カクテルを作る時に重視したいのが味、そしてカラー。グラスも色合いに似合うものを選んでみたい
白と紫はウィンブルドンの公式カラー。この色をイメージしたグラス2杯分のレシピは次の通り。ブルーベリーを1/2カップ、ブレンダーで撹拌しグラスの中へ。そこへクラッシュアイスを入れてトニックウォーターを注ぎ、最後にピムスをグラス1杯につき大匙1を加える。ブルーベリーのフレッシュさが味わえる爽やかな一杯だ。

他のドリンクと混ぜると常に同じような色になってしまうピムスだが、一番最後に上からそっと注ぐと美しい色合いが楽しめる
お酒が強い方におすすめしたいのが、林檎から作られる蒸留酒、シードル(英国ではサイダーとして知られている)をグラスに注ぎ、上に大匙1杯分のピムスを加えたもの。シードル独自の甘味が抑えられて大人向きのドリンクになる。

ストロングボウやアスポールのサイダー(シードル)に合わせて。果物やアルコールの『甘味』と相性の良いピムス、この特性をレシピに活かしたい
味覚の好みは人によって千差万別、納得できるレシピになるまでは時間もかかる。時には失敗することもあるだろうがそれを無駄と思わず、楽しい回り道と感じてみよう。自分の好みに従って味を追求していけば、何処のバーにも負けないカクテルが完成するに違いない。

熱き試合の観戦は自分だけのピムスとともに

年間を通してきめ細やかにケアされてきた芝の上を舞台に繰り広げられる、2週間のウィンブルドン選手権。そこで行われるゲームは常に感動と興奮で観る者の心をとらえて離さない。

定番のカクテルも味わい深いが、先行きの見えない試合を楽しむように時には自分だけのレシピを探してみたい
今年のウィンブルドン選手権はどのようなものになるのだろう?期待に胸を膨らませながら、選手たちの熱い勝負に注目したい。自分の好みを反映させた、とっておきのピムスを楽しみながら。