およそ1年半もの間、制約の多い暮らしが続き、その後人々は堰を切ったように社交の場へ向かい出した。世の中が「みんなで楽しく」というムードに戻りつつある中、「自分とじっくり向き合う時間も、やっぱり大切」と思う今日この頃。そんな中で出会ったのが、「感性に潤いを。」というコンセプトのもと誕生した、ノンアルコールブランド「SHINRA」だ。2021年5月にはクラウドファンディングが行われ、わずか3時間で目標金額を達成し、話題を呼んだ。その最大の魅力は、エッセイや音楽というコンテンツを盛り込みながら、“ドリンクを飲む”という体験を通して“内面と深く繋がる”ことを目指している点だ。SHINRAにかけた思いを開発メンバーに聞きながら、実際に楽しんでみた。
感性に潤いをもたらす。ノンアルコールドリンク「SHINRA」とは
SHINRAは、佐藤大智さん、三嘴(みつはし)光貴さん、知見絵里さんを中心に、福島県と東京都を拠点に2年ほど前にスタートしたブランドだ。メンバー達はもともと飲み仲間で、作り手というよりギークな飲み手。仲間たちとああだこうだ言いながら飲むうちに、「これだ」と思えるユニークなドリンクを自分たちの手でつくりたいと思い至ったのだという。そこから趣味を超え、商品開発にまでつなげた原動力は、佐藤さんと三嘴さんそれぞれにあった。
「僕はクラフトビールが好きで、以前から国内外の色々な醸造場を巡っていたんです。IPA(ホップの風味が強くて苦味がある、アルコール度数が高めのペールエール)をノンアルコールで作れないか試したりもしていました(笑)。そんな趣味が高じて、醸造場を立ち上げようという話になり、物件などを探していた矢先にコロナ禍が始まってしまった。そこで一度立ち止まり考えてみたところ、『ビールそのものより、その周辺にあるカルチャーを届けたいんだ』ということに気づいて。そこから、アルコールにこだわらず、これまで培ってきた知見をもとに、飲む体験をもっと豊かにするドリンクをつくろうと思ったんです」(佐藤)
「僕は以前バーテンダーをやっていたのですが、お客さまにノンアルコールドリンクを頼まれるたびに『使える武器が少ない』と感じていました。せっかくバーに来ていただいたのだから、お酒を飲めない方にも楽しんでいただきたいと、自分でも実験的にクラフトコーラなどのシロップをつくっていて。そこから発展し、混ぜるだけで簡単に作れるけれど、お酒を飲めない人にもワクワクしてもらえるような、味や香りに複雑性があるドリンクをつくりたいという思いでプロジェクトに取り組んでいました」(三嘴)
このように、“遊びの延長”から生まれたSHINRAだからこそ、多様性に富んだドリンクの楽しみ方を提案しようと考えたという。
「僕らはこの世界の広くあまねく自然物(=森羅万象)から、“ハッとする”香りや味わいを引き出すことに重点を置いてドリンク制作を行っていて、それがSHINRAという名前の由来になっています。自然の中には、まだ見出されていない可能性を秘めた素材がたくさんある。作り手としても発見する楽しみがあります」(三嘴)
「また、飲み手にとっても考える余白があるドリンクがいいなと思っていて。だから、あまりにもわかりやすいものは、あえて作りませんでした。なにかに似ていて、よくわからないけれど、おいしい。そういった引っ掛かりから連想は広がるし、五感もフルに回転する。自分自身と向き合うことにもつながるはずです」(佐藤)
ただ喉を潤すだけのおいしいドリンクではなく、「?」や「!」を生み出しながら感性まで潤してくれるドリンクを。その思いは、ドリンク以外の、周辺の様々な要素にも落とし込まれている。
言葉と音が、楽しみの余白を広げる
今回手に入れたのは、SHINRAの全3種類のフレーバーを飲み比べられる「#shinradrinks コンプリートセット」だ。
さらに箱を開ければ、言葉のカーテンが現れる。これは商品に同包される季節のエッセイだ。その中心には小窓があり、風景をのぞくことができる。このエッセイと写真は季節に合わせて変わっていくそうだ。
エッセイや風景から季節を感じたら、ようやくシロップボトルのお出ましだ。試験瓶のようなボトルとラベルには、じんわりと滲んだ色が差す。食用のドライローズも入っていて、これから実験をはじめるかのようなワクワク感が心の奥底から湧き上がった。
さらにボックスにあるQRコードからは、Spotifyで公開されているドリンクを楽しむための音楽プレイリスト*が読み込める。目からも、耳からも。SHINRAのドリンクを心ゆくまで楽しむための仕掛けに、飲む前からじわりと満たされていく。
「雨」を感じる3種のドリンクを、さまざまな飲み方で
乾季がなく、1年を通して雨が降る日本。かつての人々は雨の降り方の違いを繊細に感じ取り、そこに季節の自然や風土を重ね、情緒あふれる雨の名前をつけていたという。その呼び名の数は、なんと400種類以上もあると言われているそうだ。この日本特有の感性へのリスペクトと、飲み物と同様に液体であるという共通点から、雨をテーマにSHINRAのドリンクは生み出されていった。現在販売されている3種のドリンクも、「Kau(華雨:花が咲いているところに降り注ぐ雨)」「Jiu(慈雨:日照りが続いているときに万物を潤し育てる恵みの雨)」「Suiu(翠雨:若々しい草木の青葉に降る雨)」と、いずれも雨の名前がついている。
そんな雨が降る光景にも思いを馳せながら、ドリンクを飲んでみよう。
「Kau」は、ジンジャーの吹き抜ける爽やかな刺激をエルダーフラワーやカモミールの気品のある香りで包み込んだ、華やかなジンジャーエール。国産レモンの酸味がほどよく効き、甘さも控えめ。最後のひとくちまで心地よく飲める。
キーボタニカルであるタイムの香りが魅力の「Jiu」は、さまざまなハーブ類と柑橘、スパイスの風味が繊細に組み合わさった大人のコーラ。甘さが抑えられ、酸味が効いているため、食事にも合わせやすい味だ。
肉料理など、味の濃い料理にもフィットする「Jiu」。特に中華系の料理と相性がいいそうで、豆花や杏仁豆腐など、スイーツのアクセントにもおすすめだという。かけるだけで複雑な風味を生み出すため、隠し味としても活用できるシロップだ。
ホップといえばビールの原材料というイメージがあるが、その香りや味の魅力をノンアルコールでも楽しむことができる新感覚のドリンクが「Suiu」だ。国産のカスケードとチヌークという2種類のホップを使い、味わい深くもトロピカルさを感じさせてくれる。こちらも甘さ控えめなので、食事にもぴったりだ。アルコールに弱くビールが苦手な筆者も、ゴクゴクとおいしく飲めてしまった。
「Kau」と同様に、「Suiu」も魚料理やサラダなど、さっぱりとした料理とのペアリングがおすすめ。どんな食事と合うか、考えながら料理するのも楽しい。
いま一度、自分自身や大切な人と向き合うために
まるで雨の恵みを受けて土の中の草木が芽吹きはじめるように、自分の中に眠っていた感性をむくむくと起き上がらせてくれたSHINRAのドリンク。たとえ外に出る日が増えたとしても、自分自身と向き合うことは疎かにしたくない。解放されるがまま突き進むのではなく、いま一度感性に向き合い、緩急のバランスを取りたい。その方法は、ドリンクを飲むというシンプルな行為を通してでも可能なのだと実感できた。
「自分はなにに心が動かされるのだろう?」という問いに、飲むことを通して答えていく。その問答はやがて、「大切な人を喜ばせたい」と自分の内側を超えて周囲に向かっていくかもしれない。自分なりの心地よさを生み出すノウハウを見つけていくことで、人生はより充実していくはずだ。
SHINRA
#shinradrinks コンプリートセット
内容:Kau・Jiu・Suiu各1本
内容量:各180ml
同梱物:食用ドライローズ
¥4,880 (税別)
https://shop.shinra-enrich.com/
CURATION BY
フリーライター・エディター。専門はコミュニケーションデザインとサウンドアート。ものづくりとその周辺で起こる出来事に興味あり。ピンときたらまずは体験。そのための旅が好き。