Vol.222

FOOD

02 APR 2021

世界中が熱視線。英国産スパークリングワインのムーヴメントを味わう

小気味良い音を立てて栓を開け、きりりと冷えたスパークリングワインを注いでみれば、星のようにきらめく泡がグラスの中で舞い踊る。他のアルコールに比べ特別感のあるスパークリングワインの中で、いま最も注目されているのが英国産だ。シャンパーニュ地方と同じ土壌を持つ英国南東部で造られたスパークリングワインのムーヴメントを、旬の今こそ味わってみたい。

スパークリングワインとは

誕生日やクリスマス、記念日などの特別な日に嗜む印象があるスパークリングワインは発泡性ワインを指しており、製造プロセスはワインメーカーによって異なっている。

造られた白ワインに酵母とショ糖を加え、瓶内の2回目の発酵でアルコールと炭酸ガスを生成させる製法は、伝統的製法と呼ばれている。この瓶内の2度目の発酵で白ワインの味に深みと独自のガスが加わってスパークリングワインとなる。

食卓に特別感をもたらしてくれるスパークリングワイン
他にも二次発酵を圧力タンク内で行い、澱(おり)をろ過してから瓶詰めするシャルマ法、瓶内で二次発酵させたものを圧力タンクに移して澱をろ過し、再び瓶詰めするトランスファー法、ベースワインに炭酸ガスを溶かし込む炭酸ガス注入法などさまざまな作り方がある。

混同されやすいシャンパンはスパークリングワインの一種。フランス北東部に位置するシャンパーニュ地方で生産された葡萄を使い、法律で定められた製法で造られた発泡性ワインのみがシャンパンと呼ばれている。イタリアのプロセッコ、スペインのカヴァも同様で、発泡性ワインの総称が「スパークリングワイン」なのだ。

なぜ今、英国産が注目されているのか

「一日の中に四季がある」と呼ばれる英国は小雨が降る日数や曇りの日が多い。そんな天候の中、美味しいスパークリングワインが生産できるのか?とは、誰もが感じる疑問ではないだろうか。

実は英国のワイン造りの歴史は長く、11世紀頃より主に修道院で製造されてきたが、ヘンリー八世の宗教改革で修道院は解散、土地は没収され、英国の厳しい気候もありワイン造りは一度途絶えることとなる。

商業用の葡萄栽培は1952年、イギリス南岸にあるハンプシャー州のハンブルドン葡萄園から始まった。初期の数十年はセイヴァル・ブラン、ミュラー・トゥルガウやバッカスといった葡萄が作られていた。

葡萄栽培で要となるのは畑の土壌、そして天候であるのは周知の事実だが、1980年代になるとイングランド南部とシャンパーニュの白亜質の土壌の類似点が認められ、ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエなどの品種が栽培され始める。

更に地球温暖化のため、英国でも糖分を存分に含んだ葡萄の生産が可能となった。1990年代後期からは権威ある賞を数多く受賞し始め、世界的に英国産スパークリングワインのレべルの高さが知られるようになったのだ。

英国の葡萄栽培用の土地は、2015年から2018年にかけてそれまでの約2倍となった
映画や音楽、アートや思想等、世界を圧巻するほど大きな動きが起こる事がある。その時代を過ごした者は「同じ時代に生まれて良かった」と言い、後の世代は「同じ時代に体験したかった」と語る。

世界中で注目を集めている英国産スパークリングワインは今、大きな流れの真っ只中であるに違いない。旬の今こそ、このムーヴメントを実感してみてはどうだろうか。

一人で嗜むのならハーフサイズで

ウイスキーやワインと異なり、一度開けたら飲み切らなければ気が抜けてしまう炭酸性のスパークリングワイン。自宅で一人、嗜むには躊躇してしまうかもしれない。そんな時におすすめなのがハーフサイズだ。

新たな味を気軽に試せるのも、ハーフサイズだからこそ
375mlという容量はシャンパングラスで2杯程と、まだ試したことのない味を知るのにもちょうど良いサイズ。ハーフサイズは一人暮らしの贅沢な時間にぴったりと言えるだろう。

おすすめ英国産スパークリングワイン3選

数多くの英国産スパークリングワインの中でどれを購入すべきか迷う事があるかもしれない。初めてトライする方に、おすすめの3選を紹介しよう。

チャペルダウン

爽やかで飲みやすいのが特徴のチャペルダウン
「イギリスの庭」と呼ばれるロンドンより南東に位置するケント州にあるチャペルダウンは 、1992年に設立されたワイナリーだ。

チャペルダウンは2016年、イギリス首相官邸であるダウニング街10番地の公式提供社、オフィシャルサプライヤーに精選され、以来政府が開催するイベントで振舞われている。また、オックスフォード、ケンブリッジ両大学のボートクラブがロンドンテムズ川で行う「ザ・ボートレース」の公式スパークリングワインとしても知られている。

他にもイギリス王室が所有するアスコット競馬場やロイヤル・オペラハウス等で提供されており、数多くの場所で英国のアイコンとして親しまれているブランドだ。

飲み口はすっきりと爽やか、清涼感のある味わい。初夏の風が似合う風味で合うメニューも豊富、アペリティフとしてもおすすめだ。

チャペルダウン
https://www.chapeldown.com/

ナイティンバー

炭酸が繊細なナイティンバーは発泡酒を飲みなれない方にもおすすめ
ナイティンバーのワイナリーがある英国南部ウェスト・サセックス州は葡萄栽培に適した緑砂と白亜の土壌、温暖な気候。そのテイストの特徴は、熟度と酸味を兼ね備えた葡萄から生み出される繊細さと言えるだろう。

1997年にインターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション(IWSC)でゴールドメダルを受賞し、英国産スパークリングワインの中でも高く注目を集めているブランドだ。

ナイティンバー
https://nyetimber.com/jp/

ハッティングレイ・ヴァレー

ハッティングレイ・ヴァレーは特別なひと時に
以前はロンドンの法律事務所で24年間弁護士だったという異色の経歴を持つサイモン・ロビンソンが設立したハッティングレイ・ヴァレー。

2014年と2016年に英国ワインメーカーオブザイヤー賞を2回受賞した経歴を持つエマ・ライスをワインメーカーに迎え、地質学的にはフランス北部に似て、シャンパーニュ地方を反映する天候のハンプシャー州で葡萄を栽培している。

発酵の際にブルゴーニュのオーク樽を絶妙に使用している事が特徴で、ひと口飲めば果実のフレッシュな芳香と淡く繊細なオークの香りを実感できるはず。大切な人と過ごすひと時に愉しめる逸品だ。

ハッティングレイ・ヴァレー
https://hattingleyvalley.com/

泡沫のひと時を、スパークリングワインとともに

スパークリングワインの浮かんでは弾けて消える泡のひとつひとつは、まさに特別な時間そのもののようだ。どんなにかけがえのないひと時も、必ず終わりがやって来る。だが泡沫(うたかた)のように儚い「特別な時間」も、いつかまた味わうことができるはず。

スパークリングワインは自分のためのきらめく時間に嗜みたい
シャンパンの父と呼ばれるドン・ペリニヨンはワイン造りの工程で偶然シャンパンを生み出した際、ひと口その味を確かめて「来てくれ!いま私は星を飲んでいる!」と言ったという。

スパークリングワインを嗜むことは、瞬く星のようなきらめきを味わうこと。自宅で一人、あるいは大切な人とじっくり堪能してみよう。英国産スパークリングワインは、その瞬間を美しく彩ってくれるに違いない。