Vol.102

FOOD

07 FEB 2020

その土地の自然を感じる。天然はちみつで広がる食の楽しみ

瀬戸内海に浮かぶ大三島(おおみしま)は、全国の三島神社の総本社・大山祇(おおやまずみ)神社がある島だ。この島は古くから「神の島」とされ、漁業や造船業を禁じ、農業が発展した。島内では様々な作物が育てられているが、降水量が少なく日照時間が長い瀬戸内海特有の温暖な気候、水はけのいい土質から、みかんをはじめとした柑橘類の栽培が特に盛んだ。そんな大三島に魅了され、移住し養蜂家となったフランス人と日本人の夫婦がいる。大三島で採れる天然はちみつの魅力とは何か。2人を訪ね、島へ向かった。

養蜂は1万年前から行われていた

みかんの花にとまるミツバチ
英語には「はちみつの歴史は人類の歴史」ということわざがあるほど、はちみつと人類の付き合いは長い。その最古の資料は、スペイン東部にあるアラーニャ洞窟の壁画だ。そこには高い崖で採蜜する人の姿が描かれている。この壁画が描かれた時期は諸説あり、紀元前6,000年とされることもあれば、紀元前15,000年とされることもある。いずれにせよ遥か昔から食べられていたことは確かだ。

巣箱から取り出したばかりの巣蜜
一方、日本でも643年の「日本書紀」にはちみつについての記述があり、当時は貴重なものとして貢物にされていたという。このように甘く芳しいはちみつは太古の人々を魅了し、身近な食材となった現代においても人々を惹きつけてやまない。

みかんの花香る、大三島の天然はちみつ

大三島のみかん畑
様々な花が咲き乱れる春から夏にかけては、小さなミツバチが花粉や花の蜜を求め活発に動く。つまり、はちみつの生産時期である。3〜4月はサクラ、5月はみかんといったように、花が咲く時期によってミツバチが蜜を採集する花が変わり、味も変わる。

後味がすっきりとして食べやすい、大三島のみかんはちみつ
ここ大三島で採れるはちみつは、圧倒的にみかんの花を蜜源としたものが多い。みかんはちみつは他の種類に比べ、約2倍のはちみつが採れるそうだ。キラキラと黄金に輝くみかんはちみつをひと口食べると、華やかでフレッシュな花の香りとともに、すっきりとしたクセのない甘味が口いっぱいに広がる。筆者はたちまちその味の虜になった。

大三島のはちみつに出会って見つけた、理想のライフスタイル

2019年の3月に大三島へ移住し、「Le Miel Doré(ル・ミエル・ドレ=黄金のはちみつ)」という純粋はちみつのブランドを立ち上げたオリヴィエさんとレイカさん。島との出会いは数年前。移住した友人一家を訪ねたことで、自然に囲まれた大三島での暮らしに憧れるようになり、移住を実現した。

学生時代にフランスで出会ったという2人。都会から離れ、購入した古民家を少しずつ手入れしながら、ゆったりとした島暮らしを楽しんでいる
「東京での暮らしは楽しいけれど、息が詰まることも多かったんです。ここで暮らすなら、ゲストハウスもやりたいと思って、古民家を購入しました。その時は養蜂家になろうとは思っていませんでしたが、何度も島を訪れるうちに、大三島で採れる天然はちみつのおいしさを知って。養蜂家さんの元へ買いに行くたびに、はちみつ作りのことを聞いたり、巣箱を見せてもらったりしていたら、幸いにも彼が養蜂を教えてくれることになったんです。そこからは自分たちでも猛勉強して、移住後すぐに養蜂に挑戦できるように準備をしました」とオリヴィエさん。

師匠の教えと準備の甲斐もあって、上質な天然はちみつ作りに成功した
はちみつ作りへの情熱は並々ならぬもので、「最初は健康なミツバチを購入して始めるので、成功しやすいんです。難しいのは、スズメバチなどの外敵や寒さからミツバチを守り、無事に冬を越せるようにすること。これからどんどん腕を上げて、巣箱を増やしていきたいですね」と熱く語る。

日本の文化とフランスの文化が混ざり合う食卓
移住して1年。2人はリモートワークが認められつつある時風に乗って、会社を辞めずに島暮らしと仕事を両立させている。

「ゼロベースから島暮らしをスタートするのは怖いもの。今の働き方だからこそ、家の改築やはちみつ作りにもチャレンジしやすいのだと思います。満員電車に揺られて出勤する日々から解放されて、太陽の光を浴び、自然との折り合いをつけながら暮らす今は、環境との関わり方をより深く感じるようにもなりました」と、堅実派のレイカさん。このように移住後のリスクを最小限に抑えることも、豊かな島暮らしに繋がっている。

料理にもふんだんに使いたい。はちみつの楽しみ方

「Le Miel Doré」として活動する2人は、天然はちみつを販売するだけでなく、フランスの食文化を取り入れたはちみつの食べ方も提案している。

「はちみつはヨーグルトやパンに塗って食べるのが一般的ですが、チーズやピザなどと一緒に食べてもおいしいし、梅酒やレモネードなどのドリンクに使うのもおすすめです。日本ではパンケーキとかスイーツを食べるためにはちみつを使いますが、フランスではちみつは砂糖の代わりとして煮物などの料理にもよく使います」

そんなフランスの食文化にも詳しい2人が「これはおいしい!」とおすすめしてくれたのが、はちみつをたっぷり使った「はちみつマスタードドレッシング」だ。

使う材料は、オリーブオイル、はちみつ、粒マスタード、少々のワインビネガーと塩・コショウ
オリーブオイルにはちみつとマスタードをたっぷり混ぜて、味を見ながらワインビネガーと塩・コショウで味を整えるだけ。

地元で取れた野菜にたっぷりかけていただく

はちみつマスタードドレッシング」は、どの野菜とも合わせやすい万能ドレッシングだ
甘いはちみつと、辛味の少なく酸味のある粒マスタードが絶妙にマッチして、味に深みを出してくれる。キウイなどのフルーツや、クルミなどのナッツ類にも相性抜群。

土地の味を楽しもう

左から:「サクラ」「マンダリン(みかん)」「夏の百花」「野花」のはちみつ。100g/600円、210g/1,150円(税込・送料別)。
はちみつの種類によって結晶化のしやすさが変わるが、結晶化したはちみつの味や品質は変わらないため、シャリシャリとした食感をそのまま楽しむのもおすすめだ。40度以下のぬるま湯で湯煎すれば、結晶化したはちみつを元に戻すこともできる

今回の旅で地元の食材とともに食べた、その土地のはちみつ。島で暮らしながらはちみつ作りをする彼らのライフスタイルに触れ、都会のように便利ではないが、人の心の豊かさを育て食への創造性も高めてくれることが垣間見えた。

はちみつは「その土地の味」を楽しむもの。今年採れる大三島のはちみつの味はどうなるのか、早くも期待が高まる。花々を求めて旅する蜂に思いを馳せながら、味覚の旅を楽しんでみてはいかがだろうか。

Le Miel Doré