甘い七年戦争
本家本元のザッハトルテは、ウィーンにあるホテルザッハーで生まれたもので、チョコレートスポンジにアプリコットジャムを挟み、チョコレートと砂糖を煮詰めて作った「グラズール」でコーティングしたシンプルな構成でできている。どっしりとした食べごたえが特徴で、現代的なふんわりケーキとは異なる、伝統菓子ならではの重厚感のある味わいだ。
ザッハトルテはホテルザッハーの見習い料理人であったフランツ・ザッハーが生みの親であり、そのレシピは門外不出のものであった。だが、3代目の時にホテルザッハーが経営難に陥り、そこにデメルが援助を申し入れた。その時、援助の見返りとして門外不出だったザッハトルテのレシピがデメルに渡ったといわれている。
発端は、ホテルザッハーがデメルを相手に「ザッハトルテ」の商標使用と販売の差し止めを求め、裁判を起こしたことから始まる。長きにわたる法廷闘争の末、1963年に和解が成立した。
ホテルザッハーが「オリジナル・ザッハトルテ」の名称を独占し、デメルは「デメルのザッハトルテ」として販売する権利を得た。争いの果てに生まれた、二つのザッハトルテ。どちらもウィーンの伝統を受け継ぐ、誇り高き一品である。
チョコレートケーキの王様
伝統を守りながらも、現代風にアレンジされたザッハトルテもたびたび見かける。チョコレートの種類を変えたり、フルーツやナッツを加えたりと、多様なバリエーションが生まれている。
そんな中で、ホテルザッハーのオリジナルザッハトルテは、ザッハーの公式HPから購入可能である。日本にいながら、本場ウィーンの味を自宅で手軽に味わうことができるのだ。王侯貴族が愛した伝統菓子を、200年経った現代日本で味わうことができるとは、何て贅沢なのだろう。
自宅にいながらウィーンを感じて
そんなウィーンのカフェハウス文化を、ザッハトルテを楽しむときにぜひ取り入れたい。
ザッハトルテは寒い時期なら常温での保存が推奨されている。暑い時期なら冷蔵庫から取り出し、少し常温に戻しておくと、しっとりとした食感とチョコレートの香りが引き立つ。他のケーキと違い、冷たいままだとチョコレートの香りを感じにくくなってしまう。
伝統的なスタイルにならい、無糖のホイップクリームを添えることで、濃厚なグラズールの甘さとの絶妙なバランスを楽しめる。
ザッハトルテの重厚感に合わせて、脂肪分35%前後の生クリームを泡立てて準備しておこう。低めの脂肪分の生クリームを使うことで、最後までペロリと食べられる。そしてこのひと手間が、本場さながらの贅沢な味わいを生み出してくれる。
伝統菓子が持つ魅力
たとえば、フランスのマカロンは修道院で作られたのが始まりと言われ、イタリアのパネットーネは(伝統的なドライフルーツが入った発酵菓子パンの一つ)中世からクリスマスの象徴として親しまれてきた。
紐解いていけば、その土地ならではの素材や製法を使って生まれたことも分かる。
スペインのチュロスにはオリーブオイルが使われ、ドイツのシュトーレンには保存性を高めるためにたっぷりのドライフルーツとスパイスが練り込まれている。どれも、その地域の気候や食文化に根ざした独自の工夫が詰まっているのだ。
国内外問わず「ハレの日のもの」であるスイーツは、お祝いの場で振る舞われたり、家族や友人と囲むひとときに欠かせない存在なのである。
伝統菓子の魅力は、その国の歴史や文化を味わうことができる点にあると私は思う。一口食べるだけで、その国の風景や人々の営みを感じられるのが、伝統菓子ならではの楽しみ方だ。
歴史が織りなすオリジナルの価値
本家本元の味を楽しむことは、単なるスイーツ体験ではなく、ウィーンの歴史や文化に触れる旅のようなもの。
お菓子は、見た目や味だけで評価されるものではない。その背景には、誕生の物語や、時代を超えて愛され続ける理由がある。伝統菓子には、その国の風土や人々の想いが込められ、「食」と「文化」が密接に結びついていることに気づかされる。
きっと、ただのチョコレートケーキを食べられるだけでは得られない、特別な時間が生まれるはずだ。
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