大切な人に気の利いた贈り物をしたい。そんな時に思い浮かぶ“とっておき”を、ひとつでも多く持っておきたいものである。今回は、知る人ぞ知る“ちょっといいお菓子”として、兵庫・西宮市に工房を構え、たった一人でこだわりのクッキー缶や焼き菓子をつくる「とことこ」を紹介する。店主でありパティシエの小林由佳さんに、クッキー缶を始めたきっかけやお菓子づくりへのこだわりを伺った。
				
見て楽しい、食べておいしいクッキー缶
                  
                
				  
            			「わー、かわいい!」——贈り物を受け取った瞬間の、相手の笑顔が目に浮かぶ。
とことこの看板商品であるクッキー缶は、かわいいものを見つけた嬉しさを、他の誰かにもお裾分けしたくなるような、贈る楽しさを感じさせてくれるお菓子である。
とことこでは、クッキー缶のほかにも、糖酒菓子(糖酒・とうしゅ=ラム酒)やメレンゲクッキー、砂糖菓子などを販売している。販売方法は、毎月、阪神梅田本店(大阪市)に数量限定で定番商品を卸しているほか、「クッキー展」などの百貨店の催事をはじめとするイベントに出品する以外は、オンラインを基本としている。
購入する際は、Instagramのとことこ公式アカウントに、おおむね月に1〜2回のペースで投稿される発売日にあわせてDMで注文する。希望内容を伝えると、小林さんから直接返信があり、振込の案内を受けて購入手続きを行う。
ショッピングカートに商品を入れてその場で決済する一般的なオンライン販売とは異なり、ほんのひと手間がある分、つくり手との距離の近さを感じられるのも魅力のひとつである。
定番商品を除き、季節ごとにテーマが設定されるため、購入するタイミングによってクッキー缶のイラストも中に詰められたクッキーも異なる。小林さんが得意とするアイシングクッキーが入っていることも多く、お正月や節分、ハロウィン、クリスマスといった定番イベントのほか、「花粉症コアラのクッキー缶」のように、季節感をユーモラスに取り入れたテーマも登場する。
Instagramで新作が紹介されるたびに、「今回はどんなテーマで描かれているのだろう」と楽しみにしているファンも多いに違いない。
童話の世界から生まれたキャラクターたち
                  
                
				  
            			クッキー缶には、金太郎や赤ずきん、三匹の子豚など、誰もが知っている童話のキャラクターがあしらわれている。これらのイラストは、小林さんが自ら描き起こしたもので、頭でっかちの二頭身のキャラクターたちは、どれも愛らしい。
小林さんは、ほかの作品の影響を受けないよう、あえて原作や既存のイラストは見ず、頭の中のイメージだけで描いているという。
このキャラクターたちは、もとはアイシングクッキーとして生まれたものだ。小林さんが童話のキャラクターを描き始めたのは、京都・東山区にある町屋長屋「あじき路地」に店舗を構えていた頃にさかのぼる。「あじき路地」は、若手作家たちが店舗兼住居として活動している場所で、小林さんも2017年に店を構え、コロナ禍の2020年末までアイシングクッキーをメインに販売していた。
毎回テーマを変えてつくるようにしていたが、ある時なかなかテーマが思い浮かばず、ちょうど季節が秋だったため、「読書の秋」から連想して童話をモチーフにすることを思いついた。その時のクッキーが好評だったことからシリーズ化し、現在ではキャラクターの数が30〜40種類にまで増えている。
「とことこ」という名前に込めた想いは、お菓子と巡り合う喜び
                  
                
				  
            			店の名前は、小林さんが昔からお菓子屋さん巡りが好きだったことに由来する。町を歩き、お気に入りのお菓子を見つけると気分が高まり、「そんなふうにワクワクを感じてもらえるお店にしたい」との想いから、「とことこ」と名付けた。
「あじき路地」を出てからは、コロナ禍ということもあり、オンライン販売に舵を切った。この時、当時人気が高まっていたクッキー缶を初めて販売することにし、それまでアイシングクッキーに描いていた童話のキャラクターたちを缶のデザインに登場させたことが現在のクッキー缶につながっている。
食べ終わった後の缶は、茶葉や小物を入れる容器として使い続ける人も多い。「見て楽しみ、食べて楽しみ、ゆっくり味わってもらいたいです」と小林さんは語る。
告知はInstagramのみで行っているが、「あじき路地」時代からの常連客に加え、今では新しいファンも着実に増えている。特に百貨店への出品をきっかけに認知度が高まった。百貨店への最初の出品はジェイアール京都伊勢丹だったが、初日は午前中のうちに完売してしまい、工房に戻って追加でクッキーを焼くほどの反響だったという。
その後は、百貨店や商業施設の催事にたびたび招かれるようになり、関西を中心に活動しながら、グランデュオ立川店(東京・立川市)など、関東で出品することもある。
イベント時には、個装のアイシングクッキーも販売しており、オンラインとは違ったお菓子に出会えるのも楽しみのひとつである。
納得のいくものだけを届ける、妥協しないお菓子づくり
                  
                
				  
            			小林さんのお菓子づくりのスタイルは、「妥協せず、丁寧につくる」ことだ。工房にいる時だけでなく、日常生活の中でも次回のテーマを考え続け、どうしてもアイデアが浮かばずに販売を見送ったこともある。
味わいに対しても、その姿勢は変わらない。バターや小麦粉は国産のものを使用し、フレーバーは自ら試して「おいしい」と感じたものだけを採用する。試作には時間をかけ、納得のいくものしか製品化しない。忌憚のない意見をくれる家族は心強いパートナーだ。手にとってくれる人が楽しんでくれるか、おいしいと感じてもらえるかを大切にしている。
そんな小林さんの姿勢は、ファンの間にも伝わっている。「あじき路地」からの移転が決まった時、ある常連客の夫婦が、それまでに購入したアイシングクッキーを一堂に並べた写真を持ってきてくれたという。ふたりはそれらを食べずに飾り、コレクションとして大切にしていたのだ。
今でも「あじき路地」時代からの常連客との関係は続いており、クッキー缶やアイシングクッキーの大口注文が入ることもある。
お気に入りを探す、巡り合わせを楽しむ。とことこのお菓子の選び方
                  
                
				  
            			とことこでは常時販売を行っておらず、数量限定での販売となる。購入を希望する場合は、Instagramの公式アカウントをフォローし、発売日をチェックしておきたいところ。発売から1〜2日ほどで売り切れてしまうことも多いので、予告も見逃さないようにしたい。また、イベントの出展情報もInstagramで発信されるので、近くで開催される時はぜひ訪れてみてほしい。
小林さんに人気のキャラクターについて尋ねると、「これが難しいんです。常連さんでも好みがそれぞれ違うので」との答えが返ってきた。定番の人気商品から選ぶのではなく、自分好みを探したり、巡り合わせに任せたりするのもまた、楽しみのひとつではないだろうか。
オンライン販売は順調だが、次の夢はもう一度店舗を持つことだ。オンラインには、売れ残りの無駄を出さずに済むという利点がある一方で、ファンと直接交流できる店舗販売の魅力も捨てがたい。今後は、オンラインと店舗の両方で販売することを目指している。
「ほとんどの方は初めまして。かわいいと思っていただけたなら、ぜひ一度手に取って楽しんでみてほしいです」と小林さん。近い将来、小林さんと対面で会話を楽しみながらお菓子を選べる日がやってくるかもしれない。
とことこ|クッキー缶
                  
                
				  
            			
                  
                
				  
                  
                  
                
				
			 
			
			
			
			
				
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						料理とお菓子作り、キャンプが趣味。都会に住みながらも、時々自然の中で過ごす時間を持ち、できるだけ手作りで身体に優しい食事を取り入れている。日々の暮らしを大切に、丁寧に過ごすことがモットー。