東京都杉並区に位置し、大勢の人たちから「住みやすい街」として親しまれている荻窪。駅前には多くの商店街や飲食店が立ち並んでいる一方、少し離れると閑静な住宅街が広がっている。賑やかさと静けさが、うまく両立している街だ。今回ご紹介したいのは、そんな荻窪エリアにある北欧ヴィンテージ家具店「DAWNER(ダーナー)」。1950〜60年代頃に製造されたデンマークのヴィンテージ家具の輸入・販売やリペアを手がける同店だが、ヴィンテージ家具の修復で生じた端材を利用したオリジナルクッション「sososo」の販売も最近スタートした。「sososo」を企画するに至った背景やプロダクトに込めた思いについて、店主にじっくりとお話を伺った。
駅周辺の活気と、住宅街の静閑さが共存する荻窪
荻窪のランドマークといえば、駅前にあるショッピングモール「荻窪タウンセブン」。その歴史の始まりは終戦後間もない1940年代にまで遡る。当時、貧困に喘いでいた人々が誰ともなく集い、生活物資や食糧が手に入る闇市が誕生。その闇市が発展し、1946年には150店が軒を連ねる新興マーケットが産声をあげた。その跡地に生まれたのが、荻窪タウンセブンだ。現在も食べ物や生活雑貨など何でも揃う人気モールとして、暮らしを支えている。
JR中央線や東京メトロ丸ノ内線など4路線が乗り入れる荻窪駅は、乗降者数が1日24万人と杉並区の中で最も多い。それも理由なのか、荻窪には11もの商店街が存在するという。全国的にも有名なラーメン店やカレー屋、喫茶店、居酒屋…など幅広いジャンルの店があり、食べ物に困ることはないだろう。駅周辺は、連日多くの人で賑わっている。
少し駅から離れてみると、先ほどまでの喧騒が嘘のような閑静な住宅街が広がっている。実は荻窪は、かつて東京近郊の別荘地として「西の鎌倉、東の荻窪」とも称された高級住宅地なのだ。その証拠に、当時は太宰治や与謝野晶子、井伏鱒二などの文豪・文化人も暮らしていた記録が残っている。
荻窪エリアは、個人経営のお店が多く集まっているのも特徴だ。特に近年は若い世代が始めるお店も増えており、どのお店も店主の方々の趣向や個性が光る素敵なお店で溢れている。西荻窪の方へ足を伸ばせば、骨董や古道具、古本などを扱うお店も多く、街歩きをするにはとても楽しいエリア。
そんな街歩きをしている中で見つけたのが、北欧ヴィンテージ家具店「DAWNER(ダーナー)」だ。
その時々の出逢いや巡り合わせを大切にする、北欧ヴィンテージ専門店
DAWNERは西荻窪の神明通りにある小さな家具店。店内には1950〜60年代頃に製造されたデンマークのヴィンテージ家具を中心に、お部屋を飾る小物もセレクトされている。店名であるDAWNERは英語の「Dawn “夜明け”」に由来するとのこと。この単語には「太陽が昇る前に最初に現れる一筋の光」という意味合いもあり、動作の主体となる「er」を語尾に付けて造語としたそうだ。家具はその時々の出逢いや巡り合わせ、縁が大事だと私も考えるが、家具店として“新しい何かを導けるような存在”を目指す意志も込められている。
北欧家具の良い点は、機能的・実用的・合理的でありながらも、家具の細部に至る所々にクラフトマンシップを宿しているところだ。現代の大量生産品にはないような「温もり」を感じられるところが魅力である。
DAWNERで扱っている家具は、有名デザイナーズのものだけでなく、アノニマスデザイン(芸術家やデザイナーではなく、名もなき職人によって造られたもの)の物も多い。「たとえ無名であっても造りの良い製品は非常に多く、作者やブランドにこだわることはしない」と店主の本間さんは語る。
店頭に並んでいる製品は、すべて本間さんが修復を手がけている。「修復の過程では、それぞれの製品の作り手や扱ってきた生活者を想像しながら、モノと共にその想いを次代へと引き継いでいくことを目指している」とのことだ。店内に並ぶ家具1つ1つに物語があり、その物語をお伺いするだけでも、北欧家具の魅力に引き込まれてしまうのは間違いない。
ヴィンテージ家具を再生する家具店だからこそ、端材の再活用を思案し続けた
DAWNERでは、ヴィンテージ家具の修理張替で生じる端材を有効活用したオリジナルクッションの製作・販売を2023年から始めている。ヴィンテージ家具は1つ1つで個体の大きさや形状が異なるため、家具の修復ではどんなに工夫をしても、資材からは端材が必ず生まれる。これまで生じた端材は廃棄物として処理されていた。
端材を再活用したクッション製作に関して、本間さんは次のように語る。
「ヴィンテージ家具を修復して販売するお店をやっていると、サスティナブルで環境に良いことをしているイメージがあるのですが、実は修復の過程で廃材が結構生じているんですよね。椅子やソファのクッション材を成型する際に、クッション材の元であるウレタンフォームの端材がどうしても残ってしまうのです。ウレタンフォームはプラスチック素材なので、厳密にはリサイクル可能なのですが、昨今色々な事情で受けてくれる業者が少なく、廃棄するしかありませんでした。
2019年頃から思案を重ねる中で行き着いた答えが、ウレタンフォームの廃材を細かくして新たにクッション材を製作することでした。ラバーウレタンとチップウレタンの端材を5㎜〜8㎜角ほどに細かく加工し、クッション材として充填しました。そして、商品として流通させるためにクッションカバーも製作することにしたのです。カバーも生地の余剰部分や端材を再利用し、パッチワーク状に縫製しています。パッチワークであれば、少量の廃材も無駄なく利用することができます」
「廃棄することが業界ではこれまでは割と普通だったかもしれませんが、もっと良い未来を描いていくためには、変えていく必要があるのだと思います。端材とは、あくまで私たちの都合で存在するものです。モノに良きも悪きもあるはずが無く、もしも良悪があるとすれば、それは全て私たちのこれからの行動に依るはず。まずは手の届くところ、小さなことから、出来ることをしたいと考えました」
地層のようなデザインから、「SOSOSO」と名付けた
「SOSOSO」というネーミングについても、本間さんに伺った。
「クッションカバーの製作過程で、ネーミングを思いつきました。生地の端材をパッチワーク状に縫製した際に、そのデザインが『地層』みたいだと思ったんです。
地層って、これまでの長い歴史の年月が積み重なって、1つ1つ異なる色の層ができていくんですね。いま、私たちが生きている時代の層も、この瞬間に作られているわけです。地層にはその時代の“様々な情報”が含まれているんですよね。大気中にはどんな成分が含まれていたのか、どんな生物が存在していたのか、人々はどんな生活をしていたのか…など。では果たして私たちが今生きている時代では、どんな地層がつくられることになるのか…と考えたときに、モノを簡単にゴミにしてしまう生活を改めることで、この時代の地層も今から変えることができるんじゃないかと思ったのです。そして、この端材を再活用する活動が、地層を良くする一歩になれればと思って決めました。
地層の“層”が重なっている様子から、層・層・層(SOSOSO)と名付けたのです。縫製の『ソーイング』の意味もありますし、創造の『創』の意味もあります」
このクッションは、触ってもらえればすぐに分かるが、もっちりとした弾力があることが分かる。その秘密は、内包されたラバーウレタンとチップウレタンによるもの。ラバーウレタンは軽くて柔らかいが、チップウレタンは固くて重いという特徴を備えている。この2つを比率良く混ぜることで、「柔らかすぎず固すぎず、もっちりとした弾力のクッション」に仕立てられているのだ。これが本来であれば廃棄されるものから作られているとは、全く想像がつかない。「SOSOSO」の売上の一部は森へ還元する予定をされているとのことだ。
変わらずに守っていくもの、時代に合わせて変えていくべきもの
荻窪エリアでも、駅前の「荻窪タウンセブン」のような昔からあるモールだけでなく、個性的な個人店が近年新たに増えているように、時代は常に変化している。大事なのは、変わらずに守っていくものもあれば、時代に合わせて新しく変わっていくべきものがある、ということだ。北欧ヴィンテージ家具店DAWNERが手がけていることも、まさに今の時代に求められていること。積み重ねてきたこれまでの歴史を想いながらも、この先の未来を想い描いて変化していくことが大事なのだと思う。今回の取材を通して、私自身もまずは手の届く範囲で、未来の社会のためにできることをやっていこうと思った。
DAWNER
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株式会社マシカクの代表取締役/コピーライター。東京とロックが好きです。