スペシャルティコーヒー専門店や抽出方法が選べる店など、コーヒーショップの多様化、専門化が進んでいる昨今。家で過ごす時間が多くなったこともあり、自宅でも豆や抽出方法にこだわる人が多くなってきた。そこで注目したのがシェアロースターというサービス。焙煎機を貸出してシェアするというもので、焙煎機を購入する前に使ってみたい、オリジナルのコーヒーを作って自分の店で提供したい人などが利用しているという。今回は1時間3,500円で誰でも利用できるシェアロースターで、ZOOMIFEでも紹介した「BERTH COFFEE ROASTERY Haru」を訪ね、オリジナルの焙煎にチャレンジしてみた。
タワービュー通りにある「BERTH COFFEE ROASTERY Haru」
東京スカイツリーが通りの真ん中からそびえるように見える「タワービュー通り」沿いに店を構える「BERTH COFFEE ROASTERY Haru」。前回の記事では、取り扱っているコーヒーや周辺スポットの魅力について案内したが、今回は店が行っているシェアロースターというサービスについて、実際に体験しながら案内していくことにする。
「BERTH COFFEE ROASTERY Haru」はスペシャルティコーヒーを専門に扱うロースタリ&コーヒースタンド。この店のロースターを務める西村さんは自店で販売するコーヒーのほか、系列のホテルやカフェのコーヒーを焙煎している。さらに自社以外のカフェやレストランからオーダーを受け、各店の要望に応じた豆をローストすることも。また、焙煎をもっと身近に感じてほしいという思いから、焙煎機を時間貸しする「シェアロースター」を2022年夏からスタートさせた。
シェアロースターは、実は近年日本各地で登場してきていて、セミナーを受けることで、1回いくら、時間いくらで焙煎機を利用できるというサービス。実店舗を持たない人や焙煎機を購入する前に試してみたい人が利用することが多いという。西村さん自身も焙煎を勉強するためシェアロースターを利用したことがあり、自分がロースタリーをするならこのサービスをもっと気軽に利用できるようにしたいと考えていたそう。 1時間3,500円という低額で始めたのはそんな思いからだった。
利用するには店のHPの問い合わせフォームで予約をすればOK。希望日時が合えば利用可能だ。西村さんが焙煎機の使い方や、おすすめの焙煎方法を教えてくれるので、焙煎をするのが初めてという人でも安心して利用することができる。
シェアロースター体験1/豆選び
シェアロースターを利用するための最初の手順が豆選び。「BERTH COFFEE」では、自社で入荷しているスペシャルティコーヒーの中から生豆を選ぶことができるのはもちろん、自分で持ち込むことも可能だ。珈琲専門店などで生豆を取り扱っているところもあるので、 好みの豆や、いつも飲んでいる豆を持ち込んで、焙煎の度合いや焙煎機の違いで、どれほど味が異なるのかを試してみるのもいいかもしれない。
今回はお店で購入することにし、初心者にも焙煎の違いが分かりやすく、失敗しにくいということで 「エチオピア・ドゥメルソ」を提案いただいた。水分量が多く中まで火が通りやすいという。これを異なる2つの焙煎方法で仕上げ、2種類の珈琲にしていく。
シェアロースター体験2/焙煎機について
「BERTH COFFEE ROASTERY Haru」で使用しているのは、アメリカのローリング社の焙煎機。こちらは設置費用を入れると1,000万円ほどする代物だ。熱風式と呼ばれる方法を取り入れた焙煎機で、焙煎温度や時間など、調節はすべてタッチパネルで操作する。さらにパソコンと繋いで温度や時間などのデータを蓄積し、比較しながら調節することができる最新式のものだ。
ボディはステンレス製で気密性が高い構造。さらに、熱風を循環させているので排気が出ず、香りや煙なども漏れにくい。従来式に多い直火ではなく、熱風により直接火に当てず焙煎するので、 こげにくいという特徴もある。音や香りを敏感に感じ取りながら焙煎する昔ながらの焙煎機とは異なるので、初心者でもデータを見ながら調整すれば、比較的美味しく焼くことができるといえるだろう。
シェアロースター体験3/焙煎の流れ
焙煎機の特徴が分かったところで、実際に動かして焙煎をしてみる。流れとしてはどんな煎り加減にするかを決め、それにあった温度や時間を過去のデータを参考に選び、火力や時間を調節しながら焙煎していく…という流れになる。
今回は過去のデータを参照しながら、浅煎りは約210°C、深煎りは230°Cまで焼き上げていく設定にする。豆を投入後、温度が170°Cになるまでは乾燥過程とされ、この時間が短いほどジューシーで豆のフレーバーが出やすくなる。その後170°Cからはメイラード過程と呼ばれる、フレーバーや甘味・酸味などの味わいを作る時間。出力を下げ、ゆっくりと温度を上昇させることで、これらを引き出していく。
途中、テストスプーンと呼ばれる筒から豆を取り出して、豆の色や形、香りをチェックする工程を挟む。データより早く色づいていたり、香りが出ているようなら早めに焙煎を止めるなどの判断をする。ローリング社の焙煎機は密閉度が高く、焙煎による香りの変化はこのテストスプーンから引き出して確認するのみ。排気も加熱して焼き切ってしまうので、煙をほとんど出さないという。CO²排出量が少なく、環境にも優しい焙煎機なのだ。
豆の温度が200度を超えると、パチパチという音がしてくる。豆がはぜると表現され、飲めるコーヒーとなってきた合図の音だ。仕上がりの温度に達してきたら、豆の色や香りをテストスプーンから確認して、焙煎を終了。焙煎機から豆を排出する。ローリング社の焙煎機は冷却機能も高く、焙煎を止めると一気に豆が冷え、余熱で火が入ることを考慮する必要がない。深煎りは15〜16%、浅煎りは13%ほど豆の水分がなくなるまで煎るのが目安となる。
シェアロースター体験4/カッピング
2種類の豆が焙煎できたら、仕上がりを確かめるためテイスティングをしてみる。「BERTH COFFEE ROASTERY Haru」では「カッピング」というコーヒー豆の品質をチェックするためにプロが取り入れている方法を教えてもらうことができる。西村さんと一緒にカッピングをして、味わいの感じ方、表現方法を学んでみよう。
まず豆をグラインドし、専用カップに入れ、熱湯をカップいっぱいに注ぎ4分待つ。するとコーヒー粉が沈み、泡やコーヒーかすが浮いてくる。これをスプーンで取り除いて、残りの液体を口に含む。鼻に抜ける香りや甘味・酸味、余韻を感じ取ろう。
今回焙煎した2種類を比べてみると、深煎りはしっかりとした苦みがあり、温度が高いとそれ以外の味わいは感じづらかったが冷めていくにつれて、苦味の奥にエチオピア・イルガチェフェらしい柑橘系のすっきりした酸味を感じるように。浅煎りは熱い湯温でも酸味があり、複雑な味わいと余韻が広がり、さまざまな味わいをバランスよく味わうことができた。自分の好みとしてはこの中間の焙煎を目指したいと思った。
シェアロースター体験5/まとめ
最後には焙煎した豆を袋にパッキングしてくれるので、手ぶらでもできてしまうシェアロースター体験。ローリング社の焙煎機は直火式ではないので、コーヒーオイルと呼ばれる艶々とした油分の浮き出しが少なく、酸化しにくい。3ヶ月ほど美味しく飲めるという。1ヶ月経ったぐらいから味が落ち着き、飲み頃になるとか。焙煎したての味を記録し、時間による変化も比べてみるといいだろう。
店ではおすすめのドリッパーやエアロプレスと呼ばれるフィルターで抽出する方法を案内しているので、豆や焙煎の違いはもちろん、抽出の違いも楽しんでみるといい。店内で飲めるコーヒーもペーパードリップかエアロプレスを選ぶことができ、牛乳に直接浸して抽出したミルクブリューのコーヒーもあるという。
シェアロースターを体験してみて、まず驚かされたのが焙煎機の性能の高さ。そして、今回とはまた違った温度や時間にすると味がどう変化するのだろうと、さらに焙煎を深く知ってみたくなった。 少しの火加減、時間の変化で豆のポテンシャルを引き出せるかどうかが決まってくる焙煎という工程。豆も植物で、季節や湿度などさまざまな要因で風味や水分量が異なり、毎年同じではない。
そんな中、安定した味わいを引き出すことはとても難しいと感じた。特に深煎りは火を止めるタイミングが難しく、経験値がどうしても必要だとも。改めて焙煎士という仕事が職人であることが分かった。西村さんも何度も試してデータを蓄積し、それを多くの人とシェアできたことで、納得できる味を作り出せるに至ったという。
このシェアロースターという体験をきっかけに、焙煎にハマってしまう人もいるかもしれない。プロの焙煎士の凄さを実感し、その仕事の価値を見直すきっかけにもなるだろう。焙煎を知ることは、コーヒーを選んだり、オーダーするときにも役に立つはずだ。コーヒーが好きで、さらに知識を深めたい、美味しさの理由を知りたいという思いがあるならば、ぜひシェアロースターでその面白さ、難しさを体感してみてほしい。
BERTH COFFEE ROASTERY Haru
CURATION BY
古いものや熟成したものと愛娘に目がない、フリーライター。チーズ好きが高じて、「チーズプロフェッショナル」の資格も取得。カメラ片手に町や人、美味しいものを訪ね歩く日々を過ごす。