Vol.584

20 SEP 2024

〔ZOOM in 荻窪〕12か国80種類のはちみつを扱う「ラベイユ」に学ぶ奥深き世界

ヨーグルトやパンケーキにかけたり、肉料理のソースや、サラダのドレッシングに混ぜたり。砂糖よりもコク深くまろやかな甘みをプラスしてくれるはちみつを、キッチンに常備している方も多いのではないだろうか。しかし、その種類による味わいの違いについて、意識している方はどのくらいいるだろう。はちみつはそもそも、花などの蜜をみつばちが体内に溜め込んで巣に持ち帰り、体内の酵素で蜜を分解、水分を蒸発させるなどしてつくられるものだ。そのため、原料となる蜜がどの花からとれたものかによって、じつは味わいが大きく異なる。スーパーマーケットなどで「はちみつ」として販売されているもののなかには、「百花蜜」と呼ばれ、さまざまな蜜源のはちみつをブレンドしたものが多い。一方、1種類の蜜源からとれた「単花蜜」と呼ばれるものは、蜜源となった花や植物の特徴がダイレクトに感じられるのだ。今回は、自社養蜂場のはちみつに加え、世界12か国80種類以上のはちみつを扱う「ラベイユ」の荻窪本店を訪れ、知れば知るほど日々の食卓を豊かにしてくれるはちみつのイロハを教わった。

暮らしやすさは折り紙つき。荻窪駅から徒歩5分の商店街に位置する「ラベイユ」

「ラベイユ 荻窪本店」の最寄駅は、JR中央線の荻窪駅。新宿駅から快速で10分とアクセス抜群であり、駅前には買い物に便利な大型商業施設や個性豊かな個人商店などが建ち並ぶ一方、駅から少し離れれば閑静な住宅街が広がる、暮らしやすさは折り紙つきの街だ。

駅前のバス通りを小路へと一本入り、数々の飲食店やカフェ、商店、美容室、薬局など生活に密着した店舗が並ぶ「荻窪教会通り商店街」に、「ラベイユ 荻窪本店」はある。

荻窪 教会通り

荻窪教会通り商店街にたなびくフラッグ

定番のアカシアから、レモンやアーモンド、コーヒーまで

涼しげな緑が迎えてくれる店先。ドアを開けると、80種類以上のはちみつのほか、割るだけではちみつドリンクが楽しめるシロップや、はちみつとフルーツでつくったコンフィチュール、はちみつのお酒「ミード」や蜜蝋キャンドルなど、さまざまな商品が並ぶ。本店というだけあって、品揃えはラベイユの国内19店舗のなかでも随一だ。

ラベイユ 荻窪本店

店先には、自社養蜂場でも使われているみつばちの巣箱

壁一面に商品がずらりと並ぶ店内
「ラベイユで扱うはちみつは、定番のアカシアや、近年健康効果で注目を集めているマヌカにはじまり、レモンやみかんなどの果物の花、アーモンドやくり、コーヒーなどナッツの花、ラベンダーやタイムなどハーブの花からとれたもの、あるいは木の樹液由来のはちみつである甘露蜜まで、多岐にわたります」と教えてくれたのは、店長の山田さんだ。

ラベイユ 荻窪本店 店長 山田千佳さん
数多くの商品のなかから気に入った味に出会えるよう、店内の商品は購入前にすべて試食が可能だという。さっそく試させてもらうと、その味わいの多様さにまずおどろいた。

「果物の花由来のはちみつはフルーティさ、ハーブは清涼感、ナッツは香ばしさやほろ苦さといったように、はちみつの味も、蜜源となる植物の特徴を反映しています。また、同じ花でも、産地によって味わいはまったく変わってくるんですよ」

「和歌山 有田みかん」は爽やかな甘み。「果汁は一切入っていません」と山田さんが念押しするのもうなずけるほど、本当にみかんの味がする
味わいのみならずテクスチャーも、水飴のようにつるつるとなめらかなものから、時間の経過とともにブドウ糖が結晶化してしゃりしゃりとした食感に変化するもの、あるいはたっぷりと空気を含んだクリーミーな食感、もちもちとした食感まで、さまざまある。口に含んでみると、舌先に乗せたときの感触の違いが顕著に感じられる。

はちみつにも酵母が生きている。繊細な管理によって守られる豊かな風味

芳醇な風味がこれほどまでにしっかりと感じられるのは、ラベイユが、取り扱うはちみつの生産者と顔の見える関係を築き、徹底した品質管理にこだわっているためだろう。

「扱っている蜂蜜はすべて、養蜂場の場所、養蜂家の顔と名前がわかります。取引を始める前には養蜂場を直接訪ねたうえで、自然環境や養蜂家の技術、工場の衛生管理などいくつもの項目を審査しています」

ラベイユの代表である白仁田社長は、はちみつ先進国の一つであるフランスを訪れた際、フランス蜂蜜協会会長を務めたこともあるガブリエル・ぺルノー氏から、「はちみつは酵母が生きているから、しっかりと温度管理をしてワインと同じように扱いなさい」という言葉を授かったという。

「ラベイユでは、ペルノー氏から教わった、はちみつの風味を損なわないための独自の品質管理基準で商品管理を行なうことで、本来の豊かな風味をお客さまにお届けしています」

ガブリエル・ペルノー氏の甥にあたる、トーマス・ペルノー氏。プロヴァンス地方で採れる「フランス ラベンダー」は、ラベイユの看板商品の一つであり、どこか桜餅を思わせるやさしい香りとまろやかな甘みが特徴

パン、ヨーグルト、チーズ…。食材と合わせてマリアージュを楽しむ

どんなに美味しいはちみつでも、食材との組み合わせを間違えてしまうと、その美味しさを十分に引き出すことはできない。そのためラベイユの店員さんは、それぞれのはちみつのベストな食べ方も教えてくれる。2023年からは、社内で「はちみつソムリエ」の資格認定も始めたそうだ。

食べ合わせのコツを聞いてみると、食材によってさまざまなパターンがあるので一概には言えないとしながらも、「パンがお好きな方なら、パンの色とはちみつの色を合わせると味わいのバランスが良いですよ」と教えてくれた。白いパンなら白っぽい薄い色のはちみつ、黒っぽいパンにはこっくりと黒いはちみつを合わせると良いということだ。

また、はちみつの産地と食材の産地を合わせるのもコツの一つだという。例えば、甘み・余韻・香りがいずれも力強く、お店でも人気のある定番商品「ギリシャ タイム」は、ギリシャヨーグルトと合わせるとベストマッチするという。

店内には、「トーストを楽しむ」をテーマに選定された3種のはちみつのギフトボックスも
「ヨーグルトなら、フルーツのはちみつと合わせて楽しむのがおすすめ。紅茶にはちみつを入れる場合には、少し多いかなと感じるくらいたっぷり入れてみると、はちみつの風味がしっかりと感じられますよ」

いろいろと試食をしてみて悩んだ末に、筆者は「スペイン アーモンド」と、「ギリシャ オーク」を購入することに。「スペイン アーモンド」は地中海に面するカタルーニャで採れたはちみつだそうで、一般的なはちみつの「なめらかでねっとり」という印象ともまた違った、ふんわりとクリーミーなテクスチャーと、香ばしい風味が気に入った。

「ギリシャ オーク」は、ナラの木の樹液を吸った昆虫の分泌物を、はちが巣に持ち帰ってつくる「甘露蜜」の一種だ。黒糖のようなコク深い甘みに加えて酸味も感じられる、食べたことのない複雑な味わいが気になって購入を決めた。甘露蜜は樹液由来のため、ミネラルや鉄分などもほかのはちみつより多く含まれているという。

左が「ギリシャ オーク」、右が「スペイン アーモンド」
「アーモンドはトーストにつけると、ピーナッツバターのように楽しんでいただけますよ。また、ナッツ系のはちみつは概してコーヒーとの相性が良いのですが、なかでもアーモンドはミルクを加えてカフェオレにすると、香ばしい味わいがより引き立って感じられると思います。バニラアイスクリームにかけると、どこかキャラメルソースを思わせる味わいです」

黒っぽい色味のオークは、色味を合わせて黒っぽいパンや、コーヒーにもよく合うという。「また、贅沢な使い方かもしれませんが……」と前置きして、内緒話のように教えてくれたのは「納豆にも良く合う」ということだった。

山田さんの両親の出身地・北海道では、納豆に砂糖を入れて食べるのだという。そこで、納豆に合うはちみつをいろいろと試した結果、「ギリシャ オーク」が一番だったのだとか。黒糖のようなコク深さがあるので、これまた贅沢な使い方にはなるが、煮物などとの相性も良さそうだ。

まるで「天然のジャム」。自分だけの食べ合わせを見つける楽しさ


「ミネラル・ビタミンなどの栄養素が豊富に含まれていたり、腸内環境を整えてくれたりと、はちみつには健康面での魅力もたくさんあります。ですが、やはり私が一番にお伝えしたいのは、蜜源によってまったく異なる味が楽しめる面白さです」

いまでこそこう語る山田さんだが、かつてはむしろはちみつが苦手で、ラベイユで勤めるようになってから「こんなにいろんな味があるんだ!」とおどろいたのだとか。

「だからお客さまにもたくさんお試しいただいて、ぜひお気に入りのはちみつ、食べ方を見つけてほしいです」

筆者もたくさんのはちみつを試食してみると、あまりにも多様な味、香り、食感に出会えるので、それらをすべてひとくくりにして「はちみつ」と呼んでしまうのは気が引けるくらいだと感じた。一つひとつが「天然のジャム」とでもいうべきか。

パンやヨーグルト、紅茶やコーヒーなどの定番の食材とのマリアージュはもちろん、「意外にこんなものにも合った!」と、自分なりの味わい方を見つけるべくさまざまな食べ合わせを試していると、はちみつを通じてほかの食材の知らなかった一面にまで出会えそうだ。おいしいもの好きにとってはたまらない「はちみつ沼」の入口に足を踏み入れてしまったかもしれない。

「スペイン アーモンド」をバニラアイスクリームに合わせてみると……目玉が飛び出るほどおいしい

白いパンには白いはちみつ、黒いパンには黒いはちみつ。「選べる」はちみつは、食卓の味わいを一段と豊かにしてくれる

ラベイユ

東京都杉並区天沼3-27-9
03-3398-1778
定休日:年中無休(年末年始除く)
営業時間:10:00~19:00

https://labeille.jp/