栽培技術の発達により、いまや一年中おいしく食べられるメロン。全国各地の農園でさまざまな品種のメロンが栽培され、日本国内だけでなんと30種類以上存在するのだという。特に春から夏にかけては、多様なメロンに出会える季節。そんな多様なメロンをおいしく、楽しくいただける店が、「果房 メロンとロマン」だ。この店ではメロンを軸にパフェ、クリームソーダ、サンドイッチ、はたまたガパオライスまで、様々なメロンメニューが展開されているだけでなく、メロンについて取材したフリーペーパーも発行するなど、多様なコンテンツが生み出されている。なぜ、ここまでメロンの魅力を伝えようとするのか。その理由は意外なところにあった。
神楽坂の路地に佇む人気店 「果房 メロンとロマン」
「ZOOM 新宿夏目坂」から自転車を走らせ約10分。虎の石像が名物の「善國寺」からほど近い場所にあるのが、今回の目的地「果房 メロンとロマン」だ。グルメな大人たちが集まる神楽坂という場所だけあって、落ち着きのある店構え。外壁にはさわやかなペールグリーンのタイルが斜めに敷き詰められ、その網目のような凹凸感がメロンを彷彿とさせる。そして中に入ると、内壁にも同じ色のタイルが左右に貼られていて、メロンのみずみずしさに包まれたような心地になる。
「お気づきの通り、店内に使われているタイルは、メロンをイメージして特注でつくったものです。職人さんの手で焼き上げているので、一枚一枚微妙に色味が違うんですよ」
そう語るのは、メロンとロマンの広報を務める神 翔太さん。その言葉からほんのりと北国のイントネーションを感じて出身地を訪ねると、青森県つがる市だという。
さらに店内奥に進むとテイクアウト用のメニューが並ぶショーケース、その奥にはガラス張りの厨房が。スタッフたちが働く姿を間近でみることができ、ワクワクさせられる。
「店名に『果房』とありますが、これは『果物の工房』という意味の造語。つまりここは、メロンを使った多様なメニューをご提供するだけではない、新しいメロンのメニューを考える場所です。そのため内装も、厨房の様子が見えるようにしています」
一体なぜ、神楽坂でメロンに特化したお店を開いたのだろうか? 神さんにその理由を聞くと、意外な答えが返ってきた。
「実はこのお店、青森県つがる市が運営するアンテナショップなんです。つがる市は農業が盛んであるものの、人口減少の課題があり、農家の存続も危ぶまれている状況。もっと多くの人につがる市の興味を持ってもらえるよう、アンテナショップを東京に出そうという話が持ち出されました。しかし、都内にはすでに60店近くの自治体アンテナショップがあり、他のアンテナショップに埋もれないためには何かに特化しなければいけませんでした。
そこで考え抜いた結果、白羽の矢が立ったのがメロンでした。実際に青森のメロンの生産量は全国5位の9,700トン。その7割をつがる市の農家が生産しています。メロンの産地であるつがる市の魅力をもっと広めたい、そしてメロンそのものの可能性をもっと広げていきたい。その思いをダイレクトに伝えるため、感度が高く、メロンが好きな30代女性が多く訪れる神楽坂に場所を定め、3年前にオープンしました」
なるほど、神さんがつがる市出身だったのはそういうことか。それにしても、つがるはリンゴだけでなくメロンもたくさん作られているとは知らなかった。実際に、アンテナショップと知らずに訪れる方も多いらしい。驚きながら2階に上がると、1階とはまた趣が異なる温かみのある空間が広がっていた。
よく見ると、有孔ボードの壁にはつがる市やメロンに関連する書籍や写真が飾られ、奥の壁には芳賀あきなさんのイラストによる、メロンとロマンのオリジナルアニメーションが投影されている。2階の席は基本的に予約制なので、予約をすれば待たずに座ることができ、店内でしか食べられないユニークなメニューをここでいただくことができる。
種類によって違う、色、香り、味、触感。奥深いメロンの世界へ
2階で気になるメニューを注文したら、せっかくなのでメロンについての知識を深めるのもいいだろう。壁に飾られている書籍を読むのもおすすめだが、1階で配布されているフリーペーパー『果報 メロンとロマン』は、最新のメロン事情について知ることができ、その奥深さにワクワクすること間違いなし。
創刊号のフリーペーパーを読んでいると、「一般的に、赤い果肉の方が糖度が高く、緑の果肉の方が香りが良い」「買ってすぐに冷蔵庫に入れたりカットしたりするのはNG」「7〜10日程度常温で熟成させる」など、メロンをおいしく食べるための雑学が。そしてVol.1のフリーペーパーには、旅しに行きたくなる全国のメロン産地の紹介や、メロンを使った居酒屋メニューを研究する「めろん研」企画など、そのユニークな内容に引き込まれる。
甘くて、みずみずしくて、高級感があり、出されると嬉しくなるメロン。お中元やお見舞いの時など、贈り物に選ばれることも多く、よく家族や友人と分け合って食べたものだ。とはいえ今は日本人のメロン離れも無視できない状況だという。だからこそ、メロンとロマンは多角的にメロンの魅力を発信し続けるのだ。
さて、今日のメロンは? オリジナルメニューを実食
メロンの知識を吸収したら、いよいよメロンメニューを実食。メロンとロマンでは、シーズンによって使用するメロンが変わる。この日の青肉はつがる市産の「タカミ」、赤肉も同じくつがる市産の「レノン」という品種が使われていた。
「時期に応じて、全国各地から旬を迎えるメロンを取り寄せていますが、7〜9月上旬までは全てつがる市産を使います。甘味も香りも強く、おいしいんです」
確かに1階で飲んだフレーバーウォーターも、ずいぶん香りが華やかで甘かった。定番メニューである、メロンクリームソーダはパッと見では懐かしさが漂う姿だが、味はどれほどおいしいのだろう。そう思いながらひと口飲むとびっくり。ソーダの味があまりにも“リアルなメロン”なのだ。
実際にこのメロンクリームソーダには、本物のメロンだけしか使われていないらしい。新感覚すぎるメロンクリームソーダに驚きつつ、あまりのおいしさに一気に飲み干してしまった。
続いていただくのは、自家製の3種類の蜜を、特製の氷にかけていただく、季節限定の贅沢メニュー。かき氷と一緒に赤と青それぞれのメロンもトッピングされているため、メロンそのものの食べ比べもできる。また、箸休めとしてつがるで食べられるお米のお漬物“すしこ”が添えられ、甘さとしょっぱさの絶妙なハーモニーも楽しめる。
最後にいただくのは、定番のメロンプリン。なめらかな口どけのプリンの上に、食感が楽しい果肉入りのメロンジュレが乗り、その上にたっぷりのメロンそのものが乗せられている。メロンとジュレ、プリンを一度に口に入れれば、メロンの華やかな香りとプリンのコクが口いっぱいに広がり、なんとも幸せな気分に。テイクアウトもできるので、手土産にも喜ばれるだろう。
「ここでは毎シーズン新メニューが開発されていますから、来るたびに新しい発見がありますよ」と神さんが言うように、シーズンによってはガパオライス(※)などのユニークなメニューも登場するそう。ぜひ季節ごとに新しいメロンの魅力に出会いたいものだ。
※2022年夏期は取り扱いなし
メロンを五感で知り、産地に思いを馳せる
「いままで『なんとなくメロンが好き』だった方こそ、メロンとロマンにお越しいただきたいです。ここに来れば、メロンのおいしさや面白さを、五感をフルに使って体験できるはずですから」と語る神さん。
たしかに一連の体験を振り返ってみれば、専門店のメロンメニューをおいしく味わえるのはもちろん、内装や読み物、アニメなどを見て楽しみ、メロンウォーターでは香り、コースターに触れるとメロンの皮の触感、そして聴かせたメロンはより一層美味しくなるという説があるロマン派のクラシック音楽のBGMに癒され、「味わう、見る、香る、触る、聴く」と、存分に五感でメロンを楽しむことができた。こうしてメロンの世界に浸ってみると、そのおいしさの影に隠れがちな産地やつくり手たちの思いが少しずつ表出されてくるのを感じる。気づいたらメロンを食べにつがるの地に足を運んでいた、そんな日が訪れる日は、そう遠くないのかもしれない。
果房 メロンとロマン
住所:東京都新宿区神楽坂3丁目6-92
TEL:03-6280-7020
夏季営業時間(7/6~9/4・無休):11:30〜18:30
カフェ L.O. 17:30 / ドリンク(テイクアウト)L.O. 18:00
https://www.melon-roman.com/
CURATION BY
フリーライター・エディター。専門はコミュニケーションデザインとサウンドアート。ものづくりとその周辺で起こる出来事に興味あり。ピンときたらまずは体験。そのための旅が好き。