Vol.98

FOOD

24 JAN 2020

いつでも、どこでも。へいおまち。 ライブ感を楽しむ、次世代ケータリング『魚屋あさい』

オフィスでのレセプションや懇親会、レンタルスペースを借りての友人同士のパーティーなど、頼まれればどこへでも、旬の鮮魚を担いでやってくる。ケータリングというと調理済みの軽食やデザートなどが運ばれてくるイメージだが、魚屋あさいは全く違う。机の上にまな板を置き、コンロに火をつけ、トロ箱から魚介を取り出してさばきはじめる。何ができるんだろう?というワクワク感と、ライブ感。つくるだけではなく、解体ショーなどもあって、ちょっとしたエンターテインメントだ。お造り、酒蒸し、寿司、あら汁など、次々と料理が出てくるたびに歓声や感嘆の声が上がる。料理をする彼のところに行って「いま、何をつくっているんですか?」「これは何という魚ですか?」と話しかける人も少なくない。食べる“モノ”にこだわるケータリングから、“コト”を楽しむケータリングへ。新境地を切り拓く、魚屋あさいの代表浅井和浩氏に話を伺った。

味だけじゃない。魚をさばく姿も、美味しさなんだ。

その場でさばくから、ワクワクする
「静岡県の沼津市で育ちました。休みの日は眠い目をこすりながら父に連れられて、地引網をしたりしていました。生しらすを食べたり、獲れたウツボをその場で絞めて焚き火であぶって、皮が焦げたころに皮をむいて醤油をかけて食べる。これがとても美味しかったのを覚えています」という浅井氏。実は大学は工学部の機械科に進学。卒業後、2年ほど電機メーカーに勤めたものの、子どものころの体験からか、いつしか水産業に携わりたいと思うようになったそうだ。

衰退が危ぶまれる1次産業を想い、何か自分にできることはないだろうかと考え、沼津に帰ったのが24歳のとき。たまたま仲卸が募集をしていて、応募の問い合わせをしてみると「来週から来てよ」となった。半年ほどでせり場に立たせてもらい、魚を安く仕入れて商売することを学び、その後は東京の水産商社へ。海外からコンテナで買いつけた水産物をスーパーなどに販売していたという。

奥様の有美さんと。店舗を持たない新しい形の魚屋夫婦ユニット『魚屋あさい』
起業のきっかけは、仲間うちでの集まりだった。沼津から取り寄せた魚をさばいて振る舞ったときのこと。「鱗を引いたりワタの処理をしたり、手間をかけて仕込んでいると、その場にいた友人や子どもたちから歓声が上がったんです。そしてあっという間になくなって・・・」こんなに喜ばれるんだ!というのが発見だったそうだ。

スーパーに行けば切り身や刺身、干物など下処理の終わった魚が並んでいる。鮮魚をさばくところから見る機会はきっと少なくなっている。魚を解体する姿は珍しくて面白いし、何ができるんだろう?という期待感も心をくすぐるのかもしれない。いまの時代、味が良いのは当たり前。目の前でさばくというライブ感があることで、さらに美味しく感じるのではないか。浅井氏の話を聞いて、そんな考えが頭をよぎった。そしてそれは、魚の美味しさを知ってもらうきっかけになり、彼が危惧する一次産業の衰退、つまり魚離れに一石を投じるかもしれない。いずれにしても「もっとこういうことをしたい」と浅井氏は思い立ち、すぐに行動に移した。何かツテがあったわけではない。しかし、まずは名刺とロゴをつくるところからスタートした。クリエイターの友人につくってもらった『いつでも、どこでも。へいおまち。』というスローガンと、魚を担いで向かっていく姿のロゴが自身の想いにぴったりだった。よし、この志にまっすぐ、ぶれずに進んでいこう。心が決まり、本格的に始動したのは2015年のことだ。

友人につくってもらったロゴとスローガン

わーっという歓声があがり、あっという間になくなっていく。

ある日、仕事から帰ったら「ホームページをつくってみたよ」と奥様から突然言われ、驚いたという浅井氏。以来、二人三脚で歩む二人。広報の仕事をしていた奥様の活躍で、テレビや料理雑誌、WEBなど、さまざまなメディアに出るようになった。しかし何より大きいのは口コミだ。別のパーティーで食べた人が自分のパーティーで声をかけてくれたり、知り合いのSNSで知って問い合わせてくれたり。日を追うごとに、呼ばれる回数が増えていった。

おめでたいパーティーでは真鯛を用意するなど、要望にあわせて考えてくれるのも嬉しい
「喜んでいただけるのは本当にありがたいですね。先日呼んでいただいた企業のパーティーでは、社長さまがお一人でお寿司を10貫ほど食べ続けていらっしゃいました。さばきたてのお頭にみんながわーっと向かっていく姿や、時間をかけて仕込んだものがあっという間になくなるのを見ると、とても嬉しいです」

料理が運ばれるたびに、歓声や感嘆の声が上がる
規模は、20〜30人くらいのパーティーが多いという。もちろん、少人数でも100人規模でも対応できる。
「解体ショーというとマグロのイメージですが、20〜30人規模の場合、マグロ1本は大きすぎますよね。だから今の時期だと寒ブリでやることも多いです。脂の乗った寒ブリをお造りにしたり、おめでたいパーティーでは真鯛をご用意したりします」

冬は太刀魚、寒ざわら・・・。豊洲や築地、地元の沼津、そして全国の漁港から旬のものを仕入れる。活きたままのイカを北海道から空輸したこともある。たとえば人気の本鮪は腹の部分を刺身にして、ハマグリや牡蠣は酒蒸しに。イクラをたっぷり乗せたばら寿司も人気だ。ちなみに魚介フルコースの〆は、出汁がたまらなく美味しいあら汁。せっかくの食材を余すところなく、しっかり食べられるようになっているのは、粋な配慮だと思う。あら汁を召し上がった方からは「沁みるなあ」という声が漏れることも多いようだ。

味はもちろん、見た目も華やか。ついつい、スマートフォンで写真を撮る人も多い

自宅でふるまう、豪快なあら汁。つくり方を聞いてみた。

たとえば友人を自宅に招いたとき。いつもと違うおもてなしで、にぎやかな時間を過ごしたい。味だけでなく、“コト”も楽しもう。そんなとき、手軽にできるライブな料理はないか聞いてみたところ、あら汁のつくり方を教えてくれた。なかなか自宅でつくる機会のないあら汁だからこそ、たしかにちょっとしたサプライズになるかもしれない。しかも、案外簡単につくれるとのこと。最後にレシピを紹介しよう。
【材料】
●スーパーの鮮魚コーナーの端に置いてある見切り品や鯛の頭、サーモンの腹の骨の部分など
(1パック300円くらいのもの。ひとり暮らしなら、ひとつで十分とのこと)
●味噌
●白ネギ1本

【作り方】
① お湯を沸かす
② お湯をかけて魚を軽く洗い、血合いや汚れを取る
③ 鍋に魚と水を入れて温める
④ ネギを入れる(青い部分も入れるとまろやかになる)
⑤ お湯が沸いたら、アクを取って味噌を入れ、ひと煮立ちしたら出来上がり

お頭があると、出汁も美味しく、見た目も楽しい

ネギは青い部分も入れると、まろやかな味になる

豪快なぶつ切りがはみ出る!くらいが醍醐味だと思う
調理時間はだいたい20分くらい。普段は料理しない人も、チャレンジしてみてはどうだろう。日々の疲れにもってこいの、まったりほっこりした味わい。お酒を飲んだ後にもぴったりだ。豪快な魚がどん!とはみ出るあら汁に、感嘆の声が上がるかもしれない。

いつでも、どこでも。へいおまち『魚屋あさい』

「魚と人」をつなぐ、店舗を持たない新しい形の魚屋夫婦ユニット(浅井和浩&有美)。
鮮魚ケータリング&解体ショー、市場ツアーや食育、コンサルティング業など、
魚を通した新しい価値や出会いを創出する活動を行う。

会社名:株式会社FISH&DISH
住所:東京都杉並区成田東2丁目33番9号
ホームページ(お問い合わせはこちら):https://www.fishanddish.com/