Vol.33

UNIQUE

08 MAY 2019

1860年代のカクテルが現代によみがえる「Jeremiah Tokyo」

秘密めいた場所への憧れ。そんな気持ちが急に芽生えたのは、東京メトロ「新宿三丁目」駅から徒歩数分の新宿5丁目を歩いていたときのことだった。本の表紙のような扉を備え、大量の額縁が飾られたユニークな物件を目にしたからだ。
どうやらお店…のようだが、外観のみでは判断できない。気になってGoogleマップをチェックしてみると、「Jeremiah Tokyo(ジェレマイア・トーキョー)」というバーらしい。なんともミステリアスな店構えや、そのコンセプトの謎に迫るべく、扉を開けて話を聞いてみることにした。

“米国バーテンダーの父”の意思を継いで

フレアバーテンダー(※)として数々の賞を受賞している市川氏。「2015 UNITED Kingdom Bartender Quild Flair Bartender CHAMPION」「八戸市長杯カクテルコンペティション 2015/2016」優勝など、輝かしい経歴を持つ。
彼の話によると店名の「Jeremiah Tokyo」は、19世紀に活躍した伝説的バーテンダー、ジェリー・トーマス(1830年~1885年)の“本名=Jeremiah”が由来だという。“米国バーテンダーの父”と呼ばれるトーマスは、バーテンダーなら名を知らぬ者はいないほど、伝説的な存在。「マティーニ」や「サイドカー」などといった王道カクテルの原型を考案し、現在も読み継がれている米国初のカクテルブック、「バーテンダーズ・ガイド(Jerry Thomas' Bartenders Guide: How to Mix Drinks)」の著者としても有名だ。その生涯をカクテルの発展と普及に捧げた、偉業を挙げ連ねればキリがないバーテンダーである。
※ボトルやシェイカーなどを用いて、曲芸的なパフォーマンスを行いながらカクテルを作るバーテンダー。

深紅の装丁がまぶしい「バーテンダーズ・ガイド」。自作のカクテルを含め、多彩なレシピが収録されている。膨大な知識と想像力から、トーマスは“プロフェッサー=教授”と呼ばれていたことも。

現代に残るジェリー・トーマスのイラスト。2つの金属製マグカップを用いて、火が付いた状態のウイスキーを行き来させる「ブルー・ブレイザー」を披露している。高いショーマンシップが感じられる1枚だ。
「Jeremiah Tokyo」がオープンしたのは2018年。トーマスの命日に合わせた12月15日。ここからも、彼の意思を受け継ぎ、現代に蘇らせるというバーテンダーの本気が垣間見える。
200年前のニューヨークに存在していたバーをコンセプトとする店内には、額縁入りの写真や肖像画がズラリと並ぶ。これらは、自身のサロン・バーでさまざまな風刺画を展示していたトーマスにあやかったインテリアだ。他にも、エジソン球やバーのルールを示したユニークな看板、シカの剥製など、店内には心奪われるアイテムであふれている。どこを切り取っても画になる空間である。

バーのルールを示した看板

店内にはシカの剥製も

トーマスのカクテルを現代的にアレンジ

「Jeremiah Tokyo」が提供しているカクテルメニューは、「バーテンダーズ・ガイド」掲載のカクテルを現代的にアップデートしたものが中心。トーマスが活躍していた200年前は、蒸留酒のスピリッツ同士を組み合わせたり、加水したりすることで飲みやすくする方法が一般的だったという。そんな当時の技術を踏襲しつつ、現代の日本的な解釈を加えたメニューの数々は、“オールド・スタンダード”という表現がピッタリだ。

カクテルを作る市川氏。美しい所作を眺めるのも、フレアバーを訪れる醍醐味だ。
それでは、気になるカクテルの味はいかがなものだろうか?
まず初めに注文したのは、ゴージャスなルックスが印象的な「エイジド・マルティネス」。こちらはマティーニの原型となったとされるカクテルで、辛口なイメージの「マティーニ」とは対照的に、スイートベルモットの濃厚な甘みが印象的。樽熟成をかけたことによる、芳醇な香りが楽しめる1杯だ。

「エイジド・マルティネス」(1,400円+tax)

ドライジン/リキュール/ベルモットなどを使用。オリーブではなく、甘いデーツ(ナツメヤシの実)が添えられている。
続いていただいた「ブランデー・クラスタ」は、グラス全体が粉砂糖で覆われたロマンチックな佇まいが美しい一杯である。アルコール度数の強いレミー・マルタン(ブランデー)やコアントロー(リキュール)を使いつつも、すっきり爽やかな飲み口が魅力的。クラッシュアイスの涼しげな食感が、暑くなるこれからの季節にマッチしそうだ。

「ブランデー・クラスタ」(1,300円+tax)

「Jeremiah」と刻印したオレンジピールをトッピング。グラス表面にまぶされた粉砂糖が美しい。
カクテルメニューにマッチするフィンガーフードも充実している。ラインナップは、「選べるフライドポテト」をはじめ、「チリコンカンとコーンチップス」「イタリアンハムの盛り合わせ」など。カジュアルにオーダーできる逸品ぞろいだ。

「選べるフライドポテト」(700円+tax)

塩やバター醤油といったフレーバーに加え、ケイジャンバーベキュー、チェダーチーズなどからディップをチョイス可能。

歴史とともにカクテルを味わえる場所

バーでお酒をたしなんでみたいけれど、「作法や楽しみ方が分からない…」と、初心者は足を踏み入れにくいこともあるだろう。この点は筆者も例に漏れない。そんな不安の解決策を尋ねると、市川氏は「入りにくい外観かもしれませんが、気負わずにぜひご入店ください」と笑顔で話してくれた。
それを聞けばひと安心。今日の取材と同じように、慣れない空間に緊張して何を注文しようか迷ったなら、素直に聞いてしまえばいいのだ。
バーテンダーは好みに合わせてメニューを紹介してくれるし、注文したカクテルが生まれた背景まで親切に教えてくれる。言わずもがな、歴史に思いを馳せながら味わうカクテルは格別だ。一杯のカクテルから得られる気付きから、新たなお酒への興味が生まれることもあるだろう。
最後になるが、「Jeremiah Tokyo」はチャージフリー。19世紀のニューヨークにタイムスリップする感覚を気軽に楽しめる。大切な人とのデートや大人の語らいの時間に、ぜひ足を運んでみてもらいたい。
Photo:Taichi Sasaki

Jeremiah Tokyo

住所:東京都新宿区新宿5丁目4−1 新宿Qフラットビル1F
電話:03-6384-1201
営業時間:19:00~27:00
定休日:日曜日
公式サイト:https://jeremiah-tokyo.business.site
Instagram:https://www.instagram.com/jeremiah_tokyo