Vol.742

MONO

27 MAR 2026

シカの骨に山の物語を刻む、「けもの舎」の静かな輝きをまとうアクセサリー

ある日、岩手の雑貨について調べていたとき、ひとつの素敵なアクセサリーが目に留まった。しっとりとした雰囲気と繊細な美しさに心を惹かれ、さらに調べてみると、その作品はアクセサリー作家でありながら猟師としても活動する深山けものさんによるものだと分かった。東北では、クマやシカなどの野生動物による被害や食害が問題となっており、私自身もそれを身近に感じることが多い。そうした現実にふれるなかで、このアクセサリーの背景にある物語を知りたいと思い、深山さんのもとを訪ねた。

神奈川から岩手へUターン。山に近い暮らしを選んだ深山さん

鹿の骨を使ったアクセサリー
深山さんの工房は盛岡市にある。盛岡市には、全国で4番目の長さを誇るともいわれる北上川が流れ、周囲には山々が広がっている。自然に恵まれたこの土地で、深山さんは工房から車で10分ほどの山中にシカの罠を仕掛けているそうだ。

深山 けもの(みやま けもの)さん
深山さんは岩手県盛岡市の出身で、2023年に神奈川から家族で盛岡へUターン移住した。現在は、農家の獣害対策に取り組むかたわら、「けもの舎」として岩手県内で捕獲されたシカの骨を使った作品を制作している。さらに、地元の猟師からシカの骨を買い取り、それを活動資金につなげる取り組みにも広げている。

狩猟を始めたきっかけは、神奈川に住んでいた頃、友人に勧められたことだったという。猟友会では高齢化が進み、ハンター不足が課題となっている。「次の世代がハンターとして猟友会を支えていかなければならない」と聞いたことで、狩猟に興味を持ったそうだ。

追いつけないほど軽やかな足取りで、深山さんはどんどん山の中へ入っていく
もともと自然の中で食べ物を得ることは身近なことで、子どもの頃は山菜採りに出かけ、父親が釣ってきた魚を食べて育ったそうだ。「山で食料を得るのは楽しいんです」と話してくれた。

当時暮らしていた神奈川では山が遠く、罠猟を続けるのは簡単ではなかった。一方、岩手に移ってからは、車ですぐ山へ向かうことができる。「今は罠をかけたい場所にすぐ行けるので、ありがたいですね」と深山さん。

11月になると、猟銃と罠を持って山に入り農家を困らせるシカの駆除にあたる。狩猟のイメージは夏だったが、実は冬が本格的な活動の時期になるそうだ。冬の山は雪が深く、罠の見回りや回収も簡単ではない。それでも深山さんは、自然と向き合いながら、猟師として山に入り続けている。

雪をかき分けながら、罠の様子を確かめる
岩手の山では、近年、シカの増加が問題となっている。シカが増えると下草が食べ尽くされ、土壌が弱くなる。大雨の際には土砂が流れやすくなり、水害につながるおそれもあるという。「あくまで体感ですが、鹿の増加が土砂の流出しやすさや水害の起こりやすさにも影響しているのではないか」と深山さんは話す。

捨てられるはずだったシカの骨から生まれたアクセサリー

シカの骨がアクセサリーへと生まれ変わる。繊細な彫刻に宿る手仕事
シカの骨を使ったアクセサリー制作は、こうした狩猟の現場から生まれた。シカを解体して持ち帰ると骨が残ってしまい、処分するほかなかったという。そこで、「何かに活用できないか」と考えたことがきっかけだった。

工房で作業をする深山さん
当初はアクセサリーではなく、骨を使った笛づくりをしていた。試行錯誤を重ねながらいくつも制作するうちに、うまくいかなかった笛の骨が残るようになった。その骨を使って自分用のペンダントを作ったことが、アクセサリー制作の始まりだった。丁寧にシカの骨を洗い、電動の工具で少しずつ削ることで真っ白な素材に仕上げるのだそうだ。

できあがった作品を友人に見せたところ好評で、直接販売するようになり、やがてオンラインショップでも扱うようになった。さらに、クラフトフェアへの出展を契機に作品を知る人が増え、本格的に制作活動を続けるようになったという。

一つ一つ手作業でデザインを書き込み、慎重に掘り進める
狩猟を続けることは、決して容易ではない。有害鳥獣駆除の報奨金制度はあるものの、日々かかる経費に比べればごくわずかなのが現状だ。そこで、猟師さんの活動を少しでも支えるため、地元の猟師さんから鹿の骨を買い取り、それを活動資金に充ててもらう取り組みを広げている。

「農家の方々に『ありがとう』と言っていただけると、とても嬉しいです。鹿の角や骨の価値を高めて買い取る体制を整え、狩猟者に正当な対価が回る仕組みを構築することが大切だと考えています。そして、制作したアクセサリーを手に取っていただくことで、皆さんに山の豊かさを感じてもらいたいと考えています」と深山さん。

工房の前には鹿の角が置いてあった

角はフォークの柄の部分として活用されるそうだ
制作には、深山さんの前職であるプロダクトデザイナーとしての経験も生かされている。単に見た目の美しさだけでなく、「何のために作るのか」「誰に届けるのか」といった考えを大切にしているそうだ。素材の背景まで含めて伝えることで、作品の魅力をより深く感じられるアクセサリーとなっている。デザインも日常的に愛用できるようなものを考えているそうだ。

鹿の骨とは思えない、静かな輝きをまとう「粒」

粒 - tsubu - ピアス 1粒
私が一目惚れしたのは、「粒」というシリーズだ。シンプルなデザインでありながら上品さがあり、カジュアルからフォーマルまで幅広く合わせやすい。おそらく、一見しただけでは鹿の骨でできているとは誰も気づかないだろう。プラスチックや陶器にはない、どこかしっとりとした質感がある。

粒 - tsubu - ネックレス 5粒
アイボリーのような自然な色合いも肌になじみやすく、きれいに見せてくれる印象がある。手作業による彫刻の凹凸と、表面に宿る上品なつやが光を受けるたびに表情を変えるところも、その魅力の一つだ。爪よりも小さなパーツを一つひとつ手で彫っていると思うと、非常に根気のいる作業であることがうかがえる。

黒の中に浮かび上がるアクセサリーが、静かに輝きを放っている。
私は黒いワンピースが好きなのだが、ベロアや綿の生地に合わせてみると、どこか光を放つような美しさがあり、驚いた。暗い印象になりがちな装いにも、さりげない輝きを加えてくれる。

鹿の骨を使っているため、時を重ねるなかで色が変化したり、ひび割れが生じたりすることもあるそうだ。だが、それも自然素材ならではの魅力なのかもしれない。いつか朽ちていくかもしれないからこそ、その時まで大切に身につけていきたいと思った。

アクセサリーを通して伝える、山と自然のこと

このアクセサリーをみる度に、盛岡の山の美しさを思い出す
深山さんの、作品の背景には、山や自然との深い関わりがある。アクセサリーを通して、狩猟や山の暮らしを特別なものではなく、身近なものとして感じてもらいたいという思いもあるという。

今後は作品づくりを続けながら、その魅力や背景をより多くの人に伝えていくことを目指しているそうだ。展示会やトークイベントなどを通して、作品そのものだけでなく、その背景にある物語や考え方も発信していく予定だ。自然の素材を無駄なく生かし、新たな価値として届けるものづくりを、深山さんはこれからも続けていく。

盛岡市の「cyg art gallery」での展示会の様子
深山さんの手がけるアクセサリーは、単なる装飾品ではない。それは、厳しい冬の山を駆け、時には命のやり取りを経て届けられた「山の記憶」そのものだ。

捨てられるはずだった骨が、深山さんの手によって削り出され、磨き上げられることで、静ひつな輝きを放つ宝物へと変わる。その真っ白な「粒」を身につけるとき、指先に伝わるしっとりとした質感は、かつて岩手の豊かな山々を支えていた生命の重みなのかもしれない。

山の暮らしと私たちをつなげてくれるアクセサリー
このアクセサリーを身につけるたびに、私は深山さんのこと、そして岩手の山の物語を語りたくなるだろう。一つのアクセサリーをきっかけに、遠い存在だった「山」や「狩猟」が、私たちの日常と地続きであることに気づかされる。それは、自然とともにある暮らしが、決して遠いものではないと感じさせてくれる。

深山さんは今日も工房で、あるいは雪深い山の中で、命の続きを彫り込んでいる。私はこれからも、この物語を大切に身にまとっていきたい。

けもの舎

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