Vol.724

MONO

23 JAN 2026

バッグにもラッピングにも。世界に広がる「むす美」のふろしき

日本の伝統的なふろしきが、いま世界へと広がっていることをご存知だろうか。かつて、「結ぶ」という行為は日本人の暮らしの中でごく自然に行われており、ふろしきはその象徴の一つだった。ライフスタイルの変化にともない、ふろしきは縁遠くなったかのように思われがちだが、実は素材や機能、デザイン等の進化を続け、暮らしに取り入れやすいアイテムになっている。山田繊維株式会社は、そうした「結ぶ」「包む」といった日本特有の文化を次世代へと伝えるふろしきメーカーとして、ブランド「むす美」を展開してきた。今回は、現代の暮らしに馴染むふろしきの使い方や、ものづくりへの思いについてお話を伺った。

伝統的な日本らしさを残しつつ、新しいファッション・インテリアへ

ふろしきは日常生活に取り入れるのが難しい──そんな風に感じている人も少なくないかもしれない。着物と合わせるものという印象が強く、そもそも目に触れる機会も減ってしまった。

今回紹介する「むす美」は、そんなふろしきのイメージを一新してくれるブランドだ。

色とりどりのふろしきがあり、見ているだけで楽しくなる
「むす美」のふろしきは幅広い年代に愛され、結び方のワークショップを開けば親子で参加する姿も見られる。また、「FUROSHIKI」として、海外でもインテリアやファッションに取り入れる人たちが世界中で増えつつあるという。

世界40か国以上と取引実績があり、特に欧米での人気が高まっている
何と言っても、柄の豊富さは「むす美」ならではの魅力だ。デザインはすべて自社で企画・製作しており、複数のアーティストや伝統工芸作家とのコラボレーションふろしきも販売している。お弁当や小物を包むのにぴったりなSサイズから、手提げバッグにもなるM・Lサイズ、そしてテーブルクロスに最適なXLサイズまで、用途に応じたサイズ展開も嬉しい。

テキスタイルデザイナー・鈴木マサルさんとコラボレーションしたふろしき
また撥水加工が施されたシリーズもあり、雨の日や防災用としても活躍する。伝統的な日本らしさを残しながら、進化し続けてきたふろしきの世界を、ぜひ覗いてみてほしい。

雨の日には羽織っても、濡れたものを包んでも使える、便利な撥水加工

「結ぶ」と「包む」、それは日本の暮らしの中で育まれてきた文化

昔の日本では、「結ぶ」「包む」という行為が、暮らしの中にごく当たり前に存在していた。手ぬぐいを頭に巻いたり、エプロンを腰に巻いたり、荷造りをしたり。着物で体を包み、それを帯で結んで留める。ものや体の大きさに合わせて布で包み、しっかりフィットさせるために結ぶ。

包む相手に合わせて、自在に形を変えられるのがふろしきの良さ
中身が丸くても四角くても、大きくても小さくても、それに合わせて包めるのが特徴だ。そして使わないときは、コンパクトに畳んでポケットや懐にしまえる。こうした平面と立体を行き来できる柔軟さが、日本人の暮らしの基本になっていた。

ところが、ここ数十年でボタンやファスナーといった便利な道具が増え、自分で結ぶことが「面倒」「使いにくい」と感じられるようになり、ふろしきも「非日常のもの」と見なされるようになってしまった。

山田繊維では、そうした文化を絶やさないために、「結ぶ」ことから生まれる楽しさやワクワク感を、現代の暮らしに合うかたちで伝えようとしている。

現代の日本は、これまでで一番「結べない時代」かもしれないという

「結ぶ」の語源とされる「むす」という言葉は、まだ文字が整っていなかった万葉の時代から、大切にされてきた音だそうだ。「蒸す」「娘」「息子」など、「むす」の音を含む言葉には、何かをかたちづくり、命あるものとして育むという意味が含まれている。

美しく形づくるという意味で名付けられた「むす美」。大切なものをギュッと結ぶような感覚で、人と人とのご縁を結びたいという思いも込められている。

贈られた人が、また誰かに贈る。ふろしきがご縁をつなげていく

使い方は意外に簡単!2つの基本の結び方を覚えよう

一見すると難しそうに思えるふろしきだが、実は「真結び」と「ひとつ結び」という2つの結び方さえ覚えれば、驚くほど簡単にさまざまなシーンで活用できる。

思ったよりずっと簡単に結べる。公式サイトの充実した解説動画も心強い

両端を交差させて結ぶ「真結び」と、一つの角を指に巻きつけて輪をつくり、そこに先端を通す「ひとつ結び」。どちらも一度覚えてしまえば、すぐに使いこなせるシンプルな方法だ。

▶︎ 結び方の詳しい手順はこちら:https://www.kyoto-musubi.com/wrap/wrap_01.html

華やかに仕上がる「花包み」は、ラッピングの中でも人気ナンバーワンだ
たとえば、人気の使い方である「しずくバッグ」は、大きめのふろしきを裏面が見えるように三角形に半分に折りたたみ、左右の角をそれぞれ「ひとつ結び」にして表に返す。次に、残った2か所の先端を「真結び」にすれば完成だ。かばんの中に一枚しのばせておけば、いつでも便利な買い物バッグになる。

▶︎ 各種バッグのつくり方はこちら:https://www.kyoto-musubi.com/wrap/wrap_03.html

ほどけば一枚の布に戻るとは思えないほど、しっかりしたバッグに仕上がった
店舗で行われるワークショップでは、こうした基本の結び方や包み方に始まり、それを応用したさまざまなアレンジも学ぶことができる。ユーザーの関心やニーズに合わせて、ギフトラッピングに特化した集中講座や、防災をテーマにしたワークショップが開かれることもあるそうだ。

水に強い撥水加工のふろしき。防災用にも一枚常備しておきたい

また、自社開催以外にも、海外などから「日本文化を紹介するため、ふろしきの講習会を開きたい」という相談を受けることもあり、そうした要望にも快く応じている。家庭のタンスに眠っているふろしきを、国内外の学校の授業や海外での文化交流イベントなどで再活用する「RE.FUROSHIKI」プロジェクトも、ふろしき文化を世代や国境を越えて発信していく取り組みの一環だ。

使い方を知れば、きっと欲しくなる。自分の一枚に出会える「むす美」の店舗

山田繊維の創業は1937年。ふろしきの製造卸業として、長年にわたり”暮らしの必需品としてのふろしき”をつくり続けてきた。しかし、それから約90年が経った今、私たちのライフスタイルや価値観は大きく変わり続けている。

モダンな柄のふろしきは、洋風スタイルのインテリアにも映える
そんな中、2005年にファッションとカルチャーの発信地である東京・原宿に「むす美 東京店」をオープンし、一般のユーザーに向けて直接販売を始めたのが、新しい挑戦の始まりだった。そこからの10年間は、ユーザーの声に耳を傾けながら、試行錯誤を重ねた学びと挑戦の時間だったという。

「どうすればふろしきに心を留めてもらえるのか」を考え続け、「こういうふうに提案したら反応があった」などの手応えを得ながら、少しずつ山田繊維ならではのスタイルを構築し、2015年には店舗をリニューアルした。直営店で得られたディスプレイや接客のノウハウは、売場づくりや提案力の向上に役立ててもらえるよう、法人の取引先にも共有している。

東京店の店内。一面に並ぶふろしきに目を奪われる
現在の店舗には、約200枚を一望できる「パレットウオール」があり、まるでアート作品のようにふろしきを並べて展示している。視覚的にわかりやすくすることで、来店客も使用イメージを描きやすくなる。ふろしきをどのように取り入れればよいかわからないという人も、実物を見ながらスタッフと会話を重ねるうちに、自然と「これが欲しい」と思う一枚に出会えるようになった。これこそが、10年間にわたり試行錯誤を繰り返して見つけた「むす美」らしいスタイルだった。

京都店の店内にも、ふろしきがずらり。お気に入りの一枚を探す楽しみがある
2013年にはオンラインショップを開設し、全国どこからでも購入できるようにはなっていたが、満を持して本拠地である京都に「むす美 京都店」をオープンしたのは2017年のこと。京都らしい奥行きのある店舗の壁面には、250種類を超えるふろしきが並ぶ。こちらも東京店と同様に、実際にふろしきを手に取ってその魅力を体感できる空間になっており、国内外から訪れる人々でいつもにぎわいを見せているという。

使うたび、新しい発見がある。ふろしきのある暮らし

ふろしきは、平面で見るときと、実際に包んで立体になったときとで、デザインの見え方が大きく異なる。開発チームやコラボレーションするクリエイターたちは、その両方を意識しながら、柄のバランスや構図を組み立てている。さまざまな包み方、あるいはストールや膝掛けとして包まない使い方を試してみて、柄の出方の違いを楽しんでみるのも良いだろう。

使い方はアイデア次第。新しい使い方をユーザーが教えてくれることもある

素材のバリエーションが豊富なのも、ふろしきの特徴だ。綿に加え、ポリエステル、レーヨン、ウール、麻、正絹(シルク)など多様な素材が揃い、荷物を包むなら丈夫な素材、羽織るなら軽やかな素材を、というように、用途に合わせて選ぶことができる。

山田繊維ではサステナブルな取り組みにも力を入れており、2019年からはオーガニックコットンを本格的に採用している。また、約30年前から続けている撥水加工も、2026年から環境に配慮した「PFASフリー」の撥水剤に切り替えていく予定だ。

ふろしきは、日本の伝統産業ならではの分業体制の中で、多くの職人の手によってつくられている。各工程を担う職人たちはそれぞれの分野で技術を磨き続けており、そうした連携があるからこそ、多様なふろしきが生み出されている。一枚の布を染め分けてリバーシブルに仕上げるなど、職人たちは新しい挑戦にも前向きに応じてくれるという。

2つの異なる柄を楽しめるリバーシブルは、職人の高い技術があってこそ実現したもの
今後の展望は、さまざまなパートナーとのコラボレーションを通じて、新たなものづくりに取り組んでいくこと。互いに高め合って、ほかにはないような技術や表現をうまく掛け合わせて、時代に合うふろしきを国内外に広めていくことが目標だ。

改めてふろしきに目を向けて、日常生活に取り入れてみてはいかがだろうか。きっと新しいファッション、インテリアとして活躍してくれるはずだ。

一枚あれば十分便利。でも、その魅力に気づくと、つい集めたくなってしまう
取材協力:山田繊維株式会社・むす美 広報 山田悦子さん

山田繊維|むす美

70 鈴木マサル アクアドロップ PONYLAND ピンク(撥水加工・Mサイズ): 2,200円(税込・送料別)

<店舗情報>
むす美 東京店
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-31-8
https://www.kyoto-musubi.com/shopdata/tokyo.html

むす美 京都店
〒604-8111 京都市中京区三条通堺町東入桝屋町67
https://www.kyoto-musubi.com/shopdata/kyoto.html

公式オンラインショップ
https://www.musubi-online.com/

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