Vol.624

MONO

07 FEB 2025

器の持つパワーを実感。作家が創る台皿で、食卓を彩る

どんなに料理や食べることが好きな人でも、やる気が起きない時があるはずだ。何を作ろうかと考えるのも億劫だし、食材を買いに行くのも面倒に感じてしまう。そんな時こそ器が持つ、食卓の風景を変える力を信じてみたい。シンプルでありながら個性的な形状、独自の感性で創り上げた作家ものの器は、食に対する好奇心を再び刺激してくれるに違いない。料理、そして食べることはやっぱり楽しい。そんな気持ちを再び呼び起こしてくれるだろう。

料理や食事に、気力が起こらない時に

早いもので気が付けば暦上ではもう2月。毎年この季節になると身をもって痛感するのがやる気のなさだ。理由は非常に明確で、12月そして1月はクリスマスや正月といったイベント続きで、忙しさに翻弄される。

年が明けて1月中は年末年始のハイなテンションのまま過ごせるのだが、ふとエンジンが切れたようになるのがこの2月。少しゆっくりしても良いじゃないか、と自分を甘やかすことから始まり、そんなに頑張る必要はないだろうと怠け癖が出てくるのだ。

1年で一番大きなイベントが続く季節は料理や下準備に大忙し。すべてが終わった2月は気が抜けたようになりがちだ
その気分が如実に反映するのが家事仕事で、特に食事の支度はどうにもやる気が起こらない。実際、食べることも調理することも、手を抜こうと思えばどれだけでも楽ができる。

巷にはテイクアウトやインスタントの食材が溢れており、手ごろな価格で美味しいものは簡単に手に入る。手間暇をかけてする必要はどこにもなく、食器にこだわらなければ準備も簡単だ。

やる気のないランチの時間。あり合わせのもので調理しても、平凡な皿でもかまわないと思ってしまう
だが食事に気をかけない暮らしはやはり殺伐としたもの。それに気付かせてくれたのが、1枚の器だった。これまでは食器のブランドや生産地などをチェックして選んでいたが、ひとめ惚れしたのは作家ものの器。また今まで手にしたことのないフォルムに心を奪われ、使ってみると改めて器の力を実感することとなった。

同じ材料、同じ調理法でも、器を変えてみるだけで食卓の風景はがらりと変わる

作家が生み出した個性的な台皿を迎え入れて

これまで集めた器は洋食器が殆どで、和食器は載せる食材が難しいと敬遠していたところがあった。だがネット上で寺田昭洋氏の器を見た瞬間、その印象的な佇まいに心を奪われた。

東京都出身で2002年に愛知県常滑市で独立、現在は千葉に工房を構える寺田昭洋氏。白と黒を基調にしたシンプルなデザインとフォルム、味わい深い質感が印象的

黒一色ではなく複雑な深みのある色彩とざらざらとした手触りを持つ寺田氏の器。写真のサイズは8寸(直径24㎝、高さ3㎝)のもの
これまで作家ものの器はハードルが高い気がしてなかなか手を出せずにいたが、こちらは迷わず購入に至り、また同じ台皿で違う色合いのものも欲しくなり、佐藤敬氏の器を選んでみた。

栃木県芳賀郡益子町の益子焼の陶芸家、佐藤敬氏。土の柔らかさを実感できる自然な風合いを持つ器は、どんな料理を載せても映える逸品

普段使いからおもてなしのシーンにまで幅広く対応してくれる佐藤氏の器。写真のサイズは6寸(直径21.5㎝、高さ2.4㎝)のもの
これまであまり見ることのなかった形状の器は『台皿』と呼ばれ、高さのある盛り皿のことを指しており、かつては祝い事の際に用いられていたと言う。『台皿』とひと口に言っても、作り手によってそれぞれ独自の手触り、色彩やフォルムがあり、特別な日の食卓から日常使いまで、多くの場面で活躍してくれそうだ。

台皿は収納しやすいようスタッキングできるところもポイントに
高さのある器はフルーツやケーキなどを載せるコンポート皿や、デザートに用いられる脚付きの器、茶碗や皿の底の部分に高さのある高坏(たかつき)などがある。

高さのある器は平面になりがちなテーブルコーディネートの中で高低のメリハリを出し、インパクトのある風景を作り出してくれる
一方、今回選んだ台皿は皿と脚部に分かれてはおらず、ひとつにまとまっている形状だ。シンプルなかたちのため載せる食材を選ばず、和食から洋食、中華、デザートといった様々なメニューに対応してくれるところも嬉しい。

またこの台皿をひっくり返すと縁のある皿としても使え、二通りの使い道があるのも特徴だ。器と食材のバランスを考えながら、自分なりにコーディネートを楽しんでみたい。

裏面は縁の有る器として活用できる。表の面とは異なる使い方にトライしてみよう

平凡なメニューも器によって変化する

個性豊かな作家が作陶し、台皿のような独特な形の器はどんな料理を載せれば良いのか悩むことがあるかもしれない。だが台皿には凝った料理を選ぶ必要はなく、シンプルそのもののメニューを載せても映えるシーンを作り上げてくれる。

例えばおにぎりやサンドウィッチといったごく当たり前のもの、簡単に調理出来るものやテイクアウトしたもの、インスタントのメニューでも、この器に載せると通常の皿を使ったものとは格段に異なる印象になる。

簡単でシンプルなメニュー、おにぎりでも台皿に載せると非日常感が演出できる
またパスタや麺類といった調理が楽で手早く用意ができるものも、台皿に載せるだけでメニューそのものがランクアップした様に見えるのは、まさに器の持つ力のせいだろう。

調理時間がかからない麺料理。通常の皿を使用した時とは雰囲気が大きく変わる
台皿は表面がフラットなため、ソースがたっぷりとかかったものや、シチューやカレーなどの汁気の多いメニューには合わないと感じる方もいるかもしれない。そんな時は皿を裏返しにして、縁のある裏面を使用してみたい。こちらもまた、表側を使用した時とは違う表情で、どんなものを載せようかと考える楽しみが増えるはずだ。

裏側を活用すると、表で使用する時とは違った食材を楽しむことが出来る

始まりは普段使いから、時には料理に時間をかけて

作家ものの器という特別な食器を使う際は、イベントやおもてなしの時に使う印象があるが、特別な器こそ日常的に使いこなし、普段の食卓を華やかに装いたい。例えば休日の朝食は、台皿を用いて雰囲気のあるテーブルを作り上げてみよう。

いつものメニューも台皿を使用するだけで、朝食が特別な時間に変化する
また一人で過ごすブレイクタイムでは、スイーツを載せて優雅に過ごす時にも向いている。お気に入りの店で購入したデザートも、台皿に載せればその味はいっそう美味しさを増してくれるだろう。

コーヒータイムのスイーツを載せて。器が日常のひと時を盛り上げる
印象的な器を手にすると、再び料理をする気が少しだけ湧いてくる。簡単な調理法でも時間をかけて料理をしてみようという気になり、チャレンジしたのはチリビーンズ。

玉ねぎや人参、セロリ、そして牛ひき肉を炒め、ナツメグやクミン、コリアンダーなどのスパイスを加えてトマトと一緒に煮込む。チリパウダーで辛めに味付けをしたチリビーンズは、寒い冬にも身体が温まるぴったりのレシピだ。

台皿の裏側を使って、ひと味違うテーブルコーディネートに
食卓を美しく彩る器を新たに迎えたことで、ようやく食や調理に対する意欲が湧いてくる。自らメニューを選んで調理し、自分流にコーディネートした食卓を眺めると、食はやはり暮らしに欠かせない喜びなのだと実感できた。

器の持つパワーを借りて

年末年始の慌ただしさからの疲れと、冬の寒さの厳しさも重なって、何をするにも億劫になりがちな2月。料理をする気になれない時は、器の力を借りてみよう。買ってきたメニューを温めるだけでもいい、お気に入りの器に載せて、食卓に彩りを灯してみよう。作家が創った器を使い、美しく盛ってみれば、ありきたりな食材でも途端に輝きを放ち出す。

料理を惹き立てる器の力を借りて。料理するときめきを思い出させてくれるはず
少し疲れているなと感じた時、料理や食事にこれまでのように魅力を見出せなくなった時。台皿という普段づかいの器とは異なるフォルムを上手に使い、作り手の想いと感性を表す作家ものの器の力を借りれば、食と器がどれだけ暮らしを華やかなものにしてくれるか、再認識できるに違いない。

寺田昭洋 台皿(8寸)

佐藤敬 台皿(6寸)