Vol.282

MONO

29 OCT 2021

気分はまるで作庭家。FUJIGOKE「KARESANSUI KIT」

日本で古くから愛されてきた庭園。その空間は自然の縮図であり、持ち主や作庭家の趣向や思想を詰め込んだ、学びと遊びの場でもある。そんな庭園づくりの楽しみを、ミニチュアで楽しめるものがある。それがFUJIGOKEの「KARESANSUI KIT」だ。日本の伝統的な庭園様式のひとつ、枯山水の庭をつくることができるキットで、その名の通り、水を使わずに石や砂、苔を用いて庭づくりをするものだ。この「KARESANSUI KIT」では、フリーズドライした本物の苔を使い、ミニチュアでありながら、よりリアルで風情のある庭を、作庭家気分でつくることができる。それでは早速、庭づくりの世界を楽しみにいこう。

人と自然と心とつながる、日本庭園の世界

これから紅葉の季節。秋の日本庭園の風情を楽しもう
旅先などで鑑賞する立派なお屋敷のお庭や、名庭と呼ばれるお庭、寺社のお庭。一方で和食料理屋や家の庭など、日常的に楽しめるお庭もある。日本庭園は決して特別なものではなく、実は私たちの暮らしの身近にあるものだ。

日本で庭園がつくられるようになったのは、聖徳太子が生きていた飛鳥時代のこと。百済から作庭技術が持ち込まれた。その後、平安時代に日本初の造園書である「作庭記」が書かれ、日本独自の庭園スタイルが確立されていった。

美しい日本庭園は、人工的な空間でありながら、理想とする自然の姿が生き生きと表現され、見るものの心を安らげてくれる。日本庭園とひとえにいっても、時代や持ち主、思想などに影響され、さまざまな形式のものがある。

日本初の作庭家であり、臨済宗の禅僧・夢窓疎石(むそう そせき)によって鎌倉時代に作庭された、虎渓山 永保寺庭園。自然地形を活かし、池に虹形の亭橋を配することで、美しい景観をつくっている
例えば平安時代に建てられた平等院鳳凰堂の庭は、浄土式庭園と呼ばれ、池泉によって極楽浄土が表現されている。当時の貴族たちの家にも、寝殿造庭園という庭園がつくられた。鎌倉時代になると、寺社を中心に池泉のまわりを歩く池泉回遊式の庭園や、禅の思想を反映した枯山水形式の庭園が普及していく。まさに日本独自の庭園文化が発展した時代である。

その後、安土桃山時代に移ると、露地と呼ばれる茶庭が発展していく。露地は茶室に入るまでの道のりをデザインした空間で、現実世界から茶の精神世界へシフトさせる演出の役割を担っている。そして江戸時代になると、これまでの庭園形式をひとつにまとめた、回遊式の広大な大名庭園が数多く作られるようになる。大名の権力を示すために作られているため、ただ広いだけでなくさまざまな趣向が凝らされ、散策や文化的交流を楽しめる、テーマパークのような空間となった。

その後も、名家の庭や寺社などで、引き続き趣向を凝らした庭が作庭されていき、昭和に入ると、作庭家・重森三玲によるモダンな日本庭園が話題を呼び、庭づくりに力を入れる一般家庭も増えていった。

このように、日本の歴史に寄り添いながら発展してきた庭園は、さまざまな楽しみ方ができるのだ。

鎌倉時代からはじまった枯山水の庭

枯山水といえば、京都にある龍安寺が有名だ。室町時代に作庭されたもの(作者不明)だが、意図的に余白がつくられた枯山水庭園は、当時では斬新な作庭方法だった
今回は枯山水の庭をミニチュアで作庭するため、枯山水の庭についてもう少し知っていこう。

枯山水は、その名前の通り水を使わず、石組をメインにつくられた庭園様式のことだ。これは鎌倉時代に禅宗が伝わった際に、その宗教観を庭で表現するために始まった様式である。そのため、主に禅寺で、僧侶などによって作庭された。

枯山水の庭では、苔も重要な役割を担ってきた。日本には1,000種類を超える多様な苔があるが、庭に用いる場合は、スギゴケ、スナゴケ、ヒノキゴケなど、見た目がよく維持しやすい苔が適していると言えるだろう
枯山水の主な要素は、山水をあらわす石と砂。さらに植物も使われるが、そのなかでも苔は枯山水の庭に欠かせない要素だ。苔は石組の土台に敷かれることが多く、石と砂がつくるさっぱりとした景色に抑揚を与えてくれる。苔の庭と聞くと、「苔寺」と呼ばれる京都の西芳寺庭園を思い浮かべる人も多いだろう。これは鎌倉時代末から室町時代にかけて活躍した禅僧、夢窓疎石によって作庭された庭である。この庭は枯山水と池泉庭園が組み合わさったものだが、寺が荒廃し管理されない時期を経て、一面がおよそ120種類の苔に覆われた。その苔が醸し出すえも言われぬ雰囲気は、我々の心をつかんで離さない。

FUJIGOKE「KARESANSUI KIT」で枯山水の庭をつくる

FUJIGOKE「KARESANSUI KIT L」 ¥5,335 (税込)
オンラインで注文した枯山水キットが手に届いたので、さっそく枯山水の庭をつくってみよう。

今回選んだ枯山水キットをつくるFUJIGOKEは、富士山麓の苔生産農場で育った生苔を職人技と先端技術を用いて、フリーズドライの苔をつくっているメーカーだ。苔をマイナス35度で瞬間凍結したあとに、じっくりと乾燥。その独自の製法により、水をつかって手入れしなくても苔本来の青々とした色味を保つことができるという。エイジングがゆるやかなため、長期間楽しむことができる上に、日本の風情を手軽に味わえると、海外でも好評なのだとか。

木箱の蓋を開けると、石と砂、苔が収められている

木箱はいわば、方丈にある平庭だ。まずは土台となる白砂を敷こう

白砂には水流を表現するために、砂紋が描かれる。ピックなどを使い、砂紋を描く練習をしよう。砂紋の模様で表現できる水の動きは無限にあり、デザインを考えるだけでも楽しいものだ

試しに、苔や石を配置してみる

なにも考えずに置いてみたところ、どこか散漫な印象でおもしろみのない庭になってしまった

龍安寺など、好みの枯山水の庭を頭に思い浮かべてみる。石は立てて組んだ方が美しいし、その下に苔がある方がいい。苔も多すぎず、白砂の割合が多い方が、心を静かにしてくれるようだ

造形的なバランスだけでなく、石や苔を何に見立てるかも重要だ。多くの庭に亀石、鶴石が配置されるように、今回は石を長寿の象徴である鶴と亀に見立ててみた。この抽象的な表現は、見る者だけでなく、つくるものにも思考の広がりを与えてくれる。苔をちぎり、石を立てて、試行錯誤しながら要素を配置し、最後は仕上げの砂紋を描く。この集中力が必要な作業もまた楽しい。

景色に心を投影する

さらに引き算してみると、石と砂だけの庭も美しいと感じる。逆に西芳寺のように苔を敷き詰めても、美しい庭になるかもしれない
すっかり作庭家になった気分で、さまざまな庭をつくることができた枯山水キット。一度「これだ」と思えるものが作れたら、さまざまな角度から鑑賞して楽しもう。小さな枯山水の庭を通して、自分だけの思索の世界に没入できるはずだ。

インテリアとして部屋に置くのもおすすめ。苔の色味を保つため、長時間直射日光に当てることは避けよう
枯山水キットは、一度作ったら終わりになるものではない。どこか心が落ち着かず手持ちぶさたな時、忙しさの中で少し立ち止まって考えたい時、小さな枯山水の庭づくりに没頭してみよう。この小さな自然とつながることで、自身の変化を感じ、澄んだ心も取り戻せるかもしれない。シンプルでありながら、長く、多角的に楽しめるアイテムだ。

FUJIGOKE「KARESANSUI KIT 」

FUJIGOKE「KARESANSUI KIT L」
¥5,335 (税込)

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