Vol.336

MONO

06 MAY 2022

日本の暮らしを支えてきた桐箱をアップデート。桐のパンケース

梅雨を控え、湿気が気になるシーズンになってきた。現代の建築物はコンクリートで気密性も高いので、クローゼットや食品のカビ対策は必須だ。除湿剤などで対策している人も多いだろうが、桐箱で湿気対策ができるのをご存じだろうか。たんすや贈答品用の箱などで見かけることがある、桐箱。高級感のある和のイメージがあるが、そんな桐箱をパンケースに仕立てたという商品があり、ここにパンを入れておくとカビにくく、パンを美味しく保存することができるのだとか。パン好きとしては居てもたってもいられず、思わずクリックしてしまった。実際に使ってみると、本当にパンのしっとり感が長持ちしている感じがして驚きだった。桐の魅力を知り、そして桐箱のある暮らしを愉しむ入口に。パンケースという道具は、そのきっかけにぴったりなプロダクトになるはずだ。

日本人が親しんできた、桐。その特徴について

中国が原産と言われる樹木、桐。日本人にとって、箪笥や下駄、和楽器、大事なものを入れる箱など、さまざまなものに使われてきており、木とともにある日本人の歴史を物語る。その特徴のなかで特筆すべきは、耐湿性と軽さ、柔らかさ。湿気を吸収することが少なく、また乾燥による収縮も少ないので箱にすると湿気がある時期は中に湿気が入るのを防ぎ、乾燥する時期は中に湿気をほどよく保つので、乾きすぎるのを防ぐことができる。

そして桐にはタンニンという成分が含まれているので防カビ・防虫効果も。さらに防水性もあり、水に浸かっても中のものは濡れていないほど。今ではあまり見かけなくなってしまったが桐箪笥などはその特性を活かした和家具のひとつだ。さらに桐は柔らかい素材なので、箱にすると中のものを傷つけずクッションのように当たりが優しい。茶器や仏具、宝物などを入れる箱として重宝された理由だ。そして桐はへこんでしまったとしても湿気を与えると元に戻る性質もあるという。

かつては高貴な人々の間でしか使われていなかった木材、桐。茶器を守る箱として使われるようになり、茶の湯文化の浸透とともに桐箱も普及したのだそう
桐のこのような優れた特性は、材の中にたくさんの気泡があるという独特の繊維構造が理由。しかしとても軽く柔らかい木材なので加工が意外に難しく、職人の技術が求められる。湿気を防ぐ為にと作られる箱や箪笥などは、蓋がぴったりとかみあったり、引き出しが隙間なく入るという技術が必要なので、加工技術が進展していくことに。日本の材木としては檜や杉が有名だが、桐もその特異な性質により日本の風土に合った木材として、さまざまなものが作られ、親しまれてきた歴史を持っているのだ。

桐箱を作り続けて90年の老舗が生み出した、パンケース

機械化、分業を取り入れながら生産性を高め、数多くの商品を手掛ける「増田桐箱店」
そんな桐の素晴らしい機能と職人の技術をもっと身近に、現代の暮らしに取り入れてもらえたらもらえたらとさまざまなオリジナル桐箱を作っているのが、福岡にある昭和4年創業の老舗桐箱店「増田桐箱店」。

もともと地元の名産である博多人形を入れる箱作りからスタートし、茶道具や着物、贈答品など、大事なものを入れるための桐箱を作っていた会社だ。商品の形に合わせた箱を受注生産し、さまざまな大きさ・形の箱を作ることができる技術と職人を抱えている。

中が見えるようにするなど、桐箱のイメージを払拭させた米びつ。地元デザイン事務所と作り上げた
2012年にこの会社の3代目として社長に就任した藤井さんは、職人の素晴らしい仕事や箱作りの技術に注目してもらえ、中身を引き立てる箱としてではなく、商品として桐箱自体を購入したいと思わせるものを作りたいと、新たに自社のオリジナル商品の開発に乗り出す。

そこでデザイナーに箱のデザインをオーダーし、見た目も使いやすさにもこだわって、桐の特性を活かすことができる「米びつ」を作り上げた。これが人気を集め、その後もさまざまなオリジナルの商品を手掛けていくことに。

1.5斤の食パンが入る「桐のパンケース」(2750円)。2斤用(3850円)もある
そして、コロナ禍となったことをきっかけに、自宅にいる時間が長くなり、新たな生活スタイルを歩み始めた人々の暮らしを豊かにするものを作れないか…と生み出したのが、「桐のパンケース」。パンの美味しさを長持ちさせることができる桐箱を作ればニーズがあるのではと考えたのだ。

またこの頃は生食パン、高級食パンブームもあり、あのもちもちしっとり、した食感が長持ちする商品ができたら…という生活者としての想いが、商品開発のきっかけに。桐の特性であるまた湿気をほどよく保ち、乾燥も防ぐという性質、防カビという性質を考えればパンケースにしてしまうというアイデアも納得だ。

持ち手に真田紐をあしらった蓋。使いやすさと伝統を意識したデザインだ
和のイメージがある桐箱を「パンケース」に仕立てるために藤井さんがこだわったのは、忙しい朝に片手ですぐに取り出せるようにと蓋につけた持ち手。シックな色合いの組紐、真田紐の持ち手は、桐の木目の美しさと調和する。

「増田桐箱店」ではあえて国産材ではなく、中国産の木材を使用し、自社で材木を管理。福岡にある自社工場で効率的に生産することにより、手頃な価格で販売できることも強みだ。誰もが日常使いしてもらえるプロダクトに。その想いを貫く。

桐のパンケース。その使い心地と活用法について

お店や焼き方にもよるが、1.5斤の山食を入れても、少し余裕がある
実際にパンを入れてみたが、1.5斤のパンがすっぽりと入り、すこしゆとりもあるサイズ感。高さに関しても、18cmほどあるので、こんもりとふくらんだイギリス食パンも入れることができる。取っ手に真田紐が使われているのも、桐箱のイメージをくずさない、美しい佇まいのポイントだ。紐があることで直接桐箱に触れる回数を減らし、桐の美しさを保つことができるだろう。

もっちり、しっとりした高加水の食パンを入れて2・3日置いてみたが、ビニール袋のまま置いておいたものと比べてみると、変化が少なく鮮度を守っていると感じた。バゲットやクロワッサンなど食感が大事なパンを入れるのもいいだろう。

そしてパン以外にもお菓子やお茶、かわきもののおつまみ…などなど、いろいろなものを入れて使ってみたくなった。「増田桐箱店」の藤井さんに活用法について聞いてみると、ポテトチップスを入れておくとパリパリがキープされるのでおすすめです、とのこと。特に湿気が多くなるこれからのシーズンはその差がわかるはずだ。

ナッツやポテトチップスなど、湿気で食感がかわってしまうものを入れるのがおすすめ。ワインのお供をまとめて入れておくボックスにしても
何も塗装やコーティングがされていない天然木なので、水や油が付かないようにするのがポイント。パンは直接箱の中に入れるのではなく、袋などに入れて直接パンが触れないようにするほうがよい。パンには水分だけでなく、油分もあるので、それがシミになり木材が痛む原因となる。

もし水分や油分が少しついてしまってもすぐに濡らして固く絞った布でふけば大丈夫。桐は水を吸いやすいが中まで入っていかないので、お手入れをしていれば悪くなりにくい素材ともいえる。シラキの美しさはもちろんだが、長く愛用していけば使い込んだ木ならではの味わいも楽しめる。愛着が沸く道具のひとつとなるだろう。

自然素材で統一すれば、雑然としたキッチンのシェルフに置いても、違和感はない

桐箱の機能性を、日々の暮らしに活用してみては

実際に使ってみてわかった桐という素材のすばらしさ。シンプルな木目の美しい箱は、北欧風のインテリアにきっと合うだろうし、無機質なインテリアにあえて置いてみるのもいいかもしれない。ほかにも増田桐箱店には、シューケースや本棚など、今の暮らしにフィットするようデザインし、アップデートさせた商品がいろいろあり、どれも手に取りやすい価格。インテリアとしてトータルに楽しむことも可能だ。

日本人が誇るべき技術や知恵が詰まった桐箱の技術を守り、次の世代に伝えたいと生まれたパンケースをはじめとした暮らしの道具。自然素材が持つ美しさと機能性を気軽に取り入れることができる桐箱に、あらためて注目してみてはいかがだろうか。日々の暮らしを心地よく、快適にしてくれる手助けとなるはずだ。

桐のパンケース

増田桐箱店公式サイト
https://www.kiribako.jp/