一人暮らしを豊かにするアイテムの一つとして、植物を自宅に置いている人は少なくないだろう。お気に入りの花瓶や植木鉢に植物を入れて、部屋の日当たりのよいところに置き、定期的に水やりをする。たまに栄養剤も与える。丁寧にお世話をして、ふとしたときに、その成長を部屋から眺める。しかしその植物が「生き物」であるにも関わらず、いかんせん動かずその場をじっとしていたため、なんとなく「置き物」のように感じてしまっていないだろうか。
それはきっと小綺麗な居住空間の中で、重く質量のある花瓶や植木鉢に植物が無機質に入れられていて、なんとなく本来植物が持っている生き物感が薄れた結果、置き物感を強く感じてしまっているのであろう。そこで、そんな置き物感を払拭して、植物の生き物感を十二分に感じられる「LYFE(ライフ)」という不思議なプランターを紹介したい。
宙に浮く無重力のプランター
LYFEは空中でお気に入りの植物を栽培できるプランターである。約15cmの正方形のオーク素材の台座の上で、高さ8cm幅10cmのシリコン製のプランターは、N極とS極の磁力の反発によって浮遊する。ちなみに磁気が植物の成長を妨げるということは全くなく、逆に植物の代謝を高め、より速く、より大きく、より健康に成長するという研究結果もでているそうだ。
プランターを台座の上で浮遊させるには少しコツがいるが、何回かトライしていると「目に見えない浮遊ポイント」が次第にわかってくる。他の場所とは違う、確かに強い磁力を感じられるポイントにそこはなっていて、そっと置く感覚でセットするとプランターがふわりと浮く。
LYFEは浮くだけではない。回転もする。右回り、左回りと、自由にゆっくり自転するため、360度均等に全ての葉に日光を当てることができる。右回りをしているな、と思ったら突然方向転換をして左に回転し始めたり、どっちに回ろうかなと考えているかのように、じっと一旦停止をしたりすることもある。そして自身で方向を決め、突然また動き出す。「あ、今度はそっちに回るのね」といったように、予測不可能な動きをするのも生き物のようでまた面白い。ゆっくりふわふわと空中浮遊している様子を眺めていると、違う次元の世界に迷い込んでいるような感覚になる。たおやかに回転し続けるプランターの様子は、観ていて飽きない。プランターと植物が一体となった、まだ地球上に現れて間もない神秘的な生物がそこにいるかのようである。
スウェーデンの術が詰まったLYFE
プランターの中に入れる植物は、土が必要な植物も栽培が可能であるが、土を必要とせず葉から空気中の水分を取り込んで育つエアプランツが最も適している。水分が足りないと思ったら数日に一回、霧吹きで水を与える必要があるのだが、プランターはシリコン製なのでそのまま霧吹きをしても問題がない。またプランターは永続的に使用でき、手軽に自宅で丸洗いも可能である。
エアプランツはチランジアとも呼ばれ、ジャングルの木や岩の上に着生し、霧や雨を葉から吸収するため、土などに植えずに育てられることから名づけられたのだが、チランジアと命名したのはスウェーデンの植物学者、カール・フォン・リンネ氏である。実は、LYFEを発明したサイモン・モリス氏もスウェーデン生まれである。日照時間が短いスウェーデンの冬の間でも、植物をおしゃれで楽しめるようにということでもともと作られたそう。LYFEはスウェーデンの引き算の美学を体現したシンプルでミニマルなデザインと、スウェーデンの植物学が合わさった魅力あふれるプロダクトである。
場所を選ばす設置できる新たなランドスケープ
プランターが空中で回転することにより、一定の角度から見る植物の様子は、見るたびに変化する。さらに十二面体のプランターは、光にあたる部分と影となる面が次々と交互に作り出されていき、プランターの影が作り出す立体感によって、さらに宙に浮いている不思議さを増加させる。そのインパクトは想像以上に大きい。しかし、インパクトが大きいと言ってもプロダクトは小さく、15cm四方の空間であるため、自由に持ち運びできるのも魅力の一つである。LYFEが一つあるだけで、生活空間を彩り、部屋の印象を大きく変えることができる。場所を選ばず、新しい小さなランドスケープを生み出すことができるのだ。
「回転 x 浮遊」がもたらす生き物感
この地球において、モノが宙に浮いて回転しているということは、重力のある地球に住んでいる限り、なかなか見ることのできない光景の一つである。そのため、はじめは「植物が浮いている…」という非日常感あふれる光景を目の前にし、事実を飲み込むのに丸一日かかった。それほど不思議なのである。部屋の隅っこに置いていてもその不思議なさまが視界に入って落ち着かずにそわそわしていたが、三日もするとだんだんと慣れ、謎の不思議な生き物と同居しているような感覚になっていく。一週間も立つとその姿になんとも言えない愛着が湧いてくる。
冒頭で述べた通り花瓶や植木鉢に入れられた植物はどうも置き物感があり、生き物感が弱く感じられてしまうのだが、LYFEの「浮遊」「回転」という相乗効果によって、LYFEに入った植物は、生き物感を強く感じさせてくれるのである。
不思議な小宇宙がもたらすもの
たった15cm四方の中で、植物が育ち、空中に浮き、回転するLYFE。それは、自宅の中で、ひっそりと佇む小さな宇宙そのものである。その小宇宙は、あなたの心と思考を別のところへ連れて行ってくれるかもしれない。その旅をするためには、従来の固定化された植物の栽培方法から、新たな無重力栽培方法へとやり方を変えるだけである。
半径2~3mほどの身近な世界ばかり気にしがちになってしまった昨今、次元と空間を飛び越え、新たなイマジネーションを与えてくれる小宇宙・LYFEを手元に置いてみてはどうだろうか。
LYFE(ライフ)
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。