Vol.46

MINIMAL

28 JUN 2019

幸せに生きるために。フランスで見つけたライフスタイルのヒント

「豊かで幸せな暮らし」とはなにか、じっくり考えたことはあるだろうか?不自由なく暮らせる程度にお金をもち、安定した企業で働き、温かい家庭を持ち、マイホームやマイカーを購入し、貯金したお金でたまに旅行する…。そんな暮らし方が、かつての日本では理想とされてきた。しかし、ワークスタイルやライフスタイルが多様化しつつある昨今、このような暮らしが幸せに繋がると一概には言い切れない。
幸せな人生にするために、どのように暮らすべきか?そんなことを悶々と考えていた矢先に、フランスに住む友人がこう言った。「フランスのライフスタイルが参考になるかも」と。果たして、フランスに住む人々は一体どのようなライフスタイルで暮らしているのだろうか?そこで筆者はフランスに5週間滞在。ホテルではなく個人宅に泊まり、現地に住む人々とコミュニケーションをとることで気がついた、豊かに幸せに暮らすためのミニマルな視点をご紹介しよう。

パリ郊外・ジベルニーにある、フランス人画家クロード・モネが晩年を過ごした家のキッチン

フランスで暮らす人々は本当にミニマルに暮らしているのか?

フランス人の貴族の家にホームステイをしたアメリカ人著者による、エレガントにシンプルに生きるための秘訣が書かれた著書『フランス人は10着しか服を持たない』、ヨガや日本の禅の思想に影響を受けたフランス人著者、ドミニック・ローホーによるシンプルな暮らし方を提案する『シンプルに生きる』etc…これらのベストセラー書籍からしても、フランスと聞くと「ミニマルライフ」に対する意識が高く、実践している人が多いイメージを持つ。

一方で気になるのが、フランスに暮らす一般的な人々が実際にどのようなライフスタイルで暮らしているのかということ。そこで筆者はフランスのパリ、リール、ブルターニュのフランス人宅でのホームステイした他、フランス人やフランスに長く暮らす日本人など、5週間かけて数多くのお宅に訪問し、彼らのライフスタイルに触れてきた。

それらの体験から共通して見えてきたのは、「自分らしい幸せ」を追求する姿勢だ。なにが幸せかを常に問い、その目的に到達するためにどう暮らすか。ミニマルな視点を持って暮らしの取捨選択している。その感覚はどうやら日本とは少し違うようだ。

引っ越しの時に大型家具を買わない・捨てない

パリ郊外で間借りした部屋。オーナーやオーナーの親が子供の頃から使っていた、愛着のある家具が揃えられていた。
パリ市内の家賃相場は東京の中心部よりも高い。賃貸物件に住む人は引っ越しにかかる費用もさぞかしかさ張ることだろうと思い、パリ市内で何度も引っ越しを経験した人に聞いてみた。

すると、「初期費用で必要なのは敷金くらいで、他はそうでもない」という。それもそのはず、フランスでは家具付きの賃貸物件がほとんど。引っ越す時は家具をそのまま置いていき、また別の家具付き物件に住むため、冷蔵庫や洗濯機、ベッドなどを運ぶ必要もないし、新しく家に合うものを買いそろえる必要もない。引っ越してからすぐに、快適に暮らし始めることができるだろう。

「こちらの方が環境に優しいし、身軽に引っ越しすることができるよね」と語るのは、親日家のフランス人の友人夫婦。家具家電の廃棄がもたらす環境への影響と、廃棄、購入、引っ越しにかかるお金や労力を考えれば、確かにベストな解決方法である。

家具家電はあるもので。あとはどう部屋を自分らしくアレンジしていくかが、腕の見せどころなのだ。

お気に入りのアイテムは長く大切にする

「フランス人はものを持たない」というのは、先述の『フランス人は10着しか服を持たない』から与えられたイメージだろう。フランスに住む人々は、決してモノを持たないというわけではない。実際に家に住んでみると確かにモノは多すぎるほどはないが、少なすぎるということもなく、生活に必要なものはひと通り揃っている。

どの家も、モノがありながらどこか整っていて、その人らしさが見える部屋だった。お気に入りの置物を置き、壁には家族との写真やアートをたくさん飾る。彼らは自分らしさを表現するアイテムを見せるために、ベーシックなアイテムにどのようなものが必要か、自分の感覚でシンプルに取捨選択できるのだ。

一方で、気に入ったものなら5年10年と長く使い続けるのも彼らに共通していた。ある時フランス人の友人がだいぶ使い込まれた鞄を持っていたので、そのことに触れると、彼は「これは別に高いものではなかったけれど、本当に使いやすくて高校生の頃から使っているんだ」と笑顔で話した。

お気に入りのものは寿命が来るまで使い切る。彼らにとって、何が自分にとって大切なものなのかを測る基準が身についているようだ。

好きなことに徹底してこだわる

ブルターニュ地方にある海を眺められる家
好きなこと、やりたいと思ったことに対して徹底的にこだわる点も、フランスで暮らす人々に共通しているようだ。

日本でもようやくライフ・ワークバランスが考えられるようになり、残業を美徳と考える文化も薄れつつある一方で、フランス人は残業を嫌う。20時まで残業した日には、「あーあ、今日は本当によく働いたよ!」と嘆き、次の日にもわざわざその事を言うほどだ。

もちろんフランスにはハードワーカーもたくさんいる。しかし、彼らもバカンスはしっかりとる。夏は平均して3週間ほど、クリスマスシーズンも2週間ほどバカンスの期間があるのだ。「フランスのバカンスが長くなったのは、人間らしく生きるためにストライキなどで市民が戦ってきた結果だ」とフランス人の友人は誇らしげに言う。

日本でも元号が変わった2019年のゴールデンウィークは、10連休となった。多くの日本人が休む大切さを知った一方で、長い休暇になにをすればいいのか途方に暮れた方もいたことであろう。

多くのフランスに住む人々は、自分たちが勝ち取ってきた長い休みに、なにをすべきか知っている。趣味が音楽なら自分らしく音楽を楽しめる最適な環境を見つけようとするし、船が好きなら海の近くに住みボートを買って毎週末船の冒険を楽しむ。自然豊かな環境に囲まれて食事を摂るのが好きなら、広い庭とテラスがついた家に住み、暖かい日は朝食から外で食べる。

自分らしく生きるために好きなことにこだわり、そこにワークスタイルをフィットさせていく。そして生活に幸せを感じない時は疑問を持ち、状況を改善するために頭を働かせて努力する。彼らはそんなライフスタイルの作り方をしているようだ。

家で過ごす時間・人と過ごす時間を大切にする

フランスに住む人々は本当におしゃべりが好きだ。食事をするとなれば、アペリティフ(食前酒)から始まり解散するまでゆうに5〜6時間はかかる。

とはいえ普段の彼らは平日の夜は基本的に家に帰り、ご飯を作ってゆっくりと家族や友人、自分の時間を過ごす。意外と質素な暮らしが基本だ。一方で夜になっても明るく気候のいい春や夏は、仕事帰りにカフェやバー、天気がいい日には広場やセーヌ川沿いへ行き、同僚や友人とアペリティフ(Aperitif)を飲み、おしゃべりや議論に興じる。

また、友人や家族とたくさん話しのんびりと過ごしたい時、彼らは週末に食事会を開き気軽に人を家に招く。採れたての有機野菜や新鮮な肉や魚をマルシェや専門店で手に入れて、自作の料理でおもてなし。呼ばれた人は、ワインを手土産に持っていき、ゆっくりと食事の時間を楽しむ。

日本で家に人を招く・招かれるというのはなかなか気を使うものだが、フランスでのその時間は穏やかでありながら充実していた。家で過ごす時間も大切にしていることで、本質的な生きる喜びを見つけられるのかもしれない。

暮らしを豊かにする。ミニマルな視点を取り入れよう

フランスに住む人々はこのようなミニマルな視点から、自分が自分らしく、幸せに生きることを目的に、行動を決定していく。そうすることで無駄にものを買うこともなくなり、自分のお気に入りのもの・ことで暮らしが満たされるのだ。

ミニマルライフを実践するための最初のステップ。それは「自分にとって本質的に何が幸せなのか?」を問いかけるということだろう。