Vol.42

MONO

10 JUN 2019

土の性質が米をおいしく炊きあげる。長谷園「かまどさん」

ミニマルな要素をもつ日用品は、どれだけ長く使っても飽きることなく愛着を持ち続けることができるものだ。伊賀焼の窯元・長谷園が手がける「かまどさん」も、一度手に入れたら手放せなくなる魅力的なアイテム。余計な要素のないシンプルな土鍋にみえて、その裏側にはご飯を手軽においしく炊くための細やかな工夫が詰め込まれている。一体どんな奥深い世界があるのだろうか?あらゆる角度からのぞいてみよう。

長谷園「かまどさん」二合炊き 

伝統の伊賀焼を現代のライフスタイルに合わせて

土地の素材を使い、職人の手によって作り上げられる手工芸品。伝統的に受け継がれ、今もなお人々の日常で使われているアイテムには、特有の魅力があるものだ。

そこで今回注目するアイテムは、伊賀焼の窯元・長谷園がつくる炊飯用土鍋「かまどさん」。1832年に築窯し、およそ1300年の歴史を誇る伊賀焼の伝統を引き継ぎながら、現代に生きる人々のライフスタイルに合わせた伊賀焼のアイテムを数多く発信している老舗窯元である。

「かまどさん」は通常の土鍋よりもコロンと丸く、黒い釉薬(ゆうやく)がかかったシンプルなデザインが特徴だ。民芸品としての味わいを持ちながら、機能とデザインの細部にまでこだわりを持って製造されている。
「土鍋で炊いたご飯はおいしい」とはよく聞く話で、その味の違いを実感したことがある方も多いだろう。

そもそもなぜ土鍋で炊くご飯はおいしいのか。その理由は、土鍋の保温性の高さにある。「はじめチョロチョロなかパッパ、赤子泣いても蓋取るな」と、かまど炊きの火加減を言い表す言葉にあるように、少しずつ熱を加えていき沸騰したら蓋を開けずにしばらく保温する。そうすることで、米のうまみ成分を引き出しながら、一粒一粒をふっくらと炊き上げることができるのだ。
伊賀焼の土鍋は、高温で焼成することで細かな気孔が発生する古琵琶湖層の陶土を使用。この多孔質の土を使った土鍋は、遠赤外線効果が高く、食材にじっくりと熱を伝え、蓄熱力も高い。土の性質を生かし土鍋として最高のパフォーマンスを発揮できるのだ。

火加減不要で吹きこぼれなし。手間なくおいしく炊ける理由

土鍋でご飯を炊く場合、火加減の調整が難しいのでは?と懸念される方も多いだろう。しかし、炊飯用土鍋の「かまどさん」は火加減いらず。吹きこぼれもしない。

サイズ展開も幅広く、「一合炊き」「二合炊き」「三合炊き」「五合炊き」の4種類がある。「普段は1人だが、お客さんが来た時は土鍋のご飯でもてなしたい」という方は二合炊きサイズがベストだろう。

炊き方も非常に簡単。二合炊きの土鍋で白米を1号分炊くなら、180mlの研いだ米と220mlの水を入れて20分間浸し、中蓋と上蓋をセット。中火で10〜12分炊き、その後20分ほど蒸らすだけ。細かい時間は、好みの炊き具合に合わせて調整するといいだろう。およそ50分程度でおいしく米が炊き上がる。
手間なくご飯が炊ける理由はこの中蓋のおかげである。二重に蓋をすることで、圧力釜としての機能を果たしながら、後処理が面倒な吹きこぼれも防いでくれる。
「かまどさん」に使われている黒いツヤのある釉薬には、高い遠赤外線効果が。これにより米の芯までしっかりと熱が伝わり、ふっくらと炊き上がる。

湯気とともに現れる、粒がたった白米が食欲をそそる

蓋部分にある切れ目は、しゃもじ置きとして活用可能。細部の成型も美しく、手作りの風合いがありながら職人の技術を感じる。
また「かまどさん」の直火に当たる部分は肉厚成型されていて、熱をしっかり蓄えながら、穏やかに伝導してくれる。炊飯用の土鍋としてそのミニマルな外見とは裏腹に、実は細部にまでこだわった仕様なのだ。
土鍋の手入れは、いくらか手間がかかる。使い始める時は、水漏れ防止のために目止めが必要だ。目止めとは土鍋の細かい気孔を塞ぐもの。米の研ぎ汁を使う場合もあるが、伊賀焼の土鍋は特に気孔が多いため、お粥を炊いて目止めをする必要がある。

しかし炊いたお粥をひと口食べれば、そんな手間など忘れてしまうほどおいしい。口に入るものをつくる調理器具だからこそ、口に入れても安全な米のとぎ汁でメンテナンスする。古くからの知恵を知ることができるのも嬉しいものだ。

手軽に買えて、幅広く使える。見直したい土鍋の可能性

炊飯器でお米を炊く世代に生まれ、一人暮らしを始めた時も、当たり前のように電気炊飯器を買って米を炊いていた…そんな方も多いだろう。近年販売されている炊飯器には、土鍋で炊いたごはんのおいしさを再現できるものも数多く発売されている。ごはんのおいしさを求める人々にとっては、魅力的な選択肢が増えている。
しかし一度、原点に立ち返り、思い出してみてほしい。土鍋で炊くからこそ出せる味があることを。ワンタッチでいつでもおいしい米が炊けるのもいいが、ちょっとした火加減のコツを掴みながらほんの少し手間をかけた米は、一層おいしく感じるものだ。

米を水に浸し、火にかけ、蒸らす。そのミニマルな調理工程を経て蓋を開けると、のぼり立つ湯気からのぞくツヤのある白米。炊きたてのご飯のいい香り。土鍋で炊くことで、いつもより少し丁寧に、いつもよりおいしいご飯になる。少し炊く時間を延ばして、おこげを楽しむのもいいだろう。
さらに炊き込みご飯や煮込み料理、お粥や鍋など、土鍋ひとつで料理のレパートリーも広がるはずだ。

主食である米を炊くアイテムを一度ミニマルな視点で見直し、食生活をより豊かにする方法は何か、考えてみてはいかがだろうか。

今回紹介したアイテム

長谷園 「かまどさん」
二合炊き
¥9,000(+tax)