Vol.760

KOTO

29 MAY 2026

日常から非日常、また日常へ。サステナブルなマインドをシームレスに持ち帰る。1 Hotel Tokyo

ホテルに泊まる時間は、私たちに何を残すのだろう。思い出とともに、サステナブルなマインドを自然と持ち帰りたくなるホテルが、東京・赤坂にある。2026年3月に誕生した「1 Hotel Tokyo」だ。ここでは“サステナブル”という言葉が、理念だけではなく体験として存在する。忙しさに流されがちな日常の中で、環境や資源のことを深く考える時間は多くない。けれど、このホテルでの滞在が、その意識をゆっくりと、確実に呼び起こしてくれる。都市生活の中で、サステナブルな暮らしを始めるきっかけは、こんな時間から生まれることもある。

都会の中で自然に還る。浸るサステナビリティ

1 Hotel Tokyo1階エントランス。植物たちがお出迎え
都会の喧騒が少しだけ遠のく、週末の午後。赤坂の街を歩いていると、視界に現れる緑の気配に足を止める。赤坂トラストタワー1階の「1 Hotel Tokyo」エントランスには、苔の生えた石、植物を集めて形にしたウォールアートなどのインテリアが、私たちを迎え入れる。

館内の空間デザインを手掛けたのは、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する、デザインスタジオ「クレム」の相崎準氏。東京のビル群を林と捉え、その中の1本の木であるこのビルの高層階へ、私たちはエレベーターというかごに乗って運ばれて来る。

ミニマルウェイストの思想を反映し、バーやカフェラウンジも兼ねる38階パブリックスペース
高層階、38階に位置するパブリックスペースにも、木や石、植物といった自然素材が織りなす空間が広がる。天井は気流をイメージ。バーカウンターの背面には雲を想起させる意匠があり、シンボリックな存在感を放つ。

斜め上に目を向けると、紙でできた花々が優しく咲き、環境に配慮したバナナ繊維製の吊り下げ照明が空間に遊び心をもたらす。足元にも生き生きとした植物が配され、歩みを進めるごとに表情を変えていく景色に、都心の、しかもビルの高層階にいることを忘れそうになる。

有機的なモチーフや柔らかなシルエットを用いたインテリアが随所にちりばめられ、人工的に整えられた空間でありながら、呼吸が少し深くなるような穏やかな感覚に包まれる。

自然素材でできた照明。夜には幻想的に光る
サステナブルという言葉は、ともすると意識の高い行動や我慢を伴うものとして捉えられてしまうことも少なくない。しかし、この場所が示すのは、ホテルという場所とサービスを通して体感する、もっと直感的で心地よいアプローチだ。

農家から買い取った、傷がつくなどした規格外の果物が並ぶファームスタンド
重要なのは、それらが説明されなくてもいいと感じられること。東京を含めて世界中に13の施設を展開する世界的なラグジュアリーホテルブランドが提案するサステナビリティは、義務ではなく心地よさとして成立している。だからこそ、その価値観は自然と私たちの身体とマインドに馴染んでいく。

客室に宿る小さな気づきのメッセージ
都市生活者にとって、サステナブルな行動を継続することは決して簡単ではない。利便性や時間とのバランスの中で、理想と現実のあいだに揺れることも多い。だからこそ重要なのが、無理なく続けられる形への転換だ。このホテルでは、滞在中の何気ない体験が、そのヒントを与えてくれる。

象徴的なのが、客室の浴室に置かれた砂時計。シャワーの時間を可視化するこのシンプルな仕掛けは、水という資源の有限性を静かに伝えてくる。数値ではなく感覚で、今どれくらい使っているのかを意識する。この体験は、日常に戻ったときの行動にもささやかな変化をもたらす。シャワーの時間を少し意識する、水を出しっぱなしにしない。それだけでも、資源との向き合い方は変わっていく。

3分間の砂時計。使い方や捉え方は、あくまで宿泊者に委ねる
211室の全客室には浄水器が設置されている。ペットボトル飲料に頼るのではなく、室内のグラスやマイボトルに水を注ぐ。そのささやかな選択が、プラスチック削減につながっていく。

全客室に設置された浄水器。いつでも水を汲めて、思いの外便利
アメニティにも工夫が施されている。プラスチックの使用を最小限に抑えるだけでなく、例えばコットンパッドのパッケージには、「ドリンクコースターとして」「靴磨きとして」など複数の用途が提案されている。ひとつのものを多用途で使うという、ミニマルウェイストの発想がさりげなく組み込まれている。

アメニティのパッケージを含め、客室にプラスチック製品はほぼない
チェックアウトの際、不要になった衣類があればホテルに置いていってほしい。客室に残された衣類は回収され、地元のチャリティ団体へ寄付される仕組みだ。宿泊者もまた、資源の循環の一部としてこのシステムに参加することができる。

役目を果たした服に感謝。次の用途に
ここにあるのは、押し付けではなく選択肢としてのサステナブル。さまざまな気づきと、すぐにできる行動。1泊するだけで、未来をちょっとだけよくしながらも、今を豊かに過ごすためのたくさんのヒントを得ることができる。

サステナブル・キュイジーヌを味わう食体験

たくさんの植物で彩られた「NiNi」の店内。オールデイダイニングとして営業する
「1 Hotel Tokyo」での滞在において印象的なのは、空間設計だけでなく、食体験にもサステナブルな思想が一貫して息づいていることだ。

日本とフランス、ふたつの文化とリズムに寄り添う料理を提供するコンテンポラリーダイニング「NiNi」では、季節ごとのローカル食材を主軸にしたメニューを展開。その時期、その土地ならではの味わいを大切にしながら、素材の輪郭を丁寧に引き出していく。

シェフを務めるのは、15年以上にわたる国際的なキャリアを持つニコ・ポリカーピオ氏。日本での経験を通して磨かれた、素材主導でサステナブルなアプローチを軸に、モダンで洗練されたサステナブル・キュイジーヌを創りあげる。

開業以来初めて迎えた4月22日のアースデーにあわせて、その前後をアースウィークとし、東京で農業に取り組む若手・先進的な農家たち「東京NEO-FARMERS!」のトマトを使用した料理などを提供。フードマイレージ(食料輸送距離)を抑えた食材選びは、環境負担の軽減につながっている。

食べられる土をイメージした、アースウィークのひと品。フレッシュなトマトといちご
また、ドリンクメニューには、ビオディナミ農法で造られたワインや、日本各地の個性豊かな酒類が並ぶ。単に美味しい、身体にいい、という枠にとどまらず、料理や1杯のドリンクを通して、どのように自然と共存していくかを静かに問いかけてくる。

この日のディナーのメインは、国産牛のステーキ
38階のパブリックスペースに位置するバー「Spotted Stone」では、ミニマルウェイストの思想が空間にも反映されている。再生木材のパネルや、日本由来の大谷石といった素材を取り入れた設えの中で、肩肘張らずに過ごせる、自分らしい時間が流れていく。

雲を形どった意匠が印象的なバー「Spotted Stone」。日本のクラフトジンを50種類以上取り揃え
さらに、食材の扱いや提供のあり方にもフードロスの削減や資源の循環といった観点を取り入れ、無駄を出さない工夫を取り入れる。その自然な流れこそが、この場所をサステナブルラグジュアリーたらしめる。

滞在後に芽吹く、都市生活の中での小さな行動

マイボトルに水を入れて持ち歩くことは、今日からできる行動の変化
ホテルでの体験は、その場限りで終わらない。むしろ本質は、日常に戻ってからにある。例えば、外出時にマイボトルを持ち歩くという選択。それは自分の選択でゴミを減らすという実感へとつながっていく。

不要になった衣類をリサイクルに出すことも同様だ。“捨てる”以外の選択肢を持つことで、消費のあり方そのものが少しずつ変わっていく。

不要な服をゴミに出すのではなく、資源として活用できるか、まずは調べてみることから
さらに、植物を取り入れた空間づくりも変化のひとつだ。ホテルで感じた心地よさを、自宅でも再現してみる。部屋に小さなグリーンを配置してみるだけで、自分を取り巻く空気や気分がよくなるのがわかる。

環境が変われば、自ずとサステナビリティを意識する機会が増えるはず
どれも特別なことではない。けれど、その積み重ねが、都市生活の質を静かに底上げしながら、環境や資源との心地よい関係を育んでいく。

「サステナブルは持ち帰れる」その実感は、ここから始まる

木製のカードキー。プラスチックを使わないことを徹底
「1 Hotel Tokyo」での滞在は、サステナビリティを再定義する体験でもある。それは我慢や制限ではなく、心地よさや豊かさと共存するものだと気づかせてくれる。都会の中で一度立ち止まり、自然との関わり方を見つめ直す。そして、その感覚を日常へと持ち帰る。そうした小さな循環が、これからの都市生活における新しいスタンダードになっていくのかもしれない。サステナブルは、遠い理想ではない。ほんの少しの気づきと選択から始まる、身近なライフスタイルだ。その最初の一歩を、この都会のオアシスで見つけてみてはいかがだろうか。

1 Hotel Tokyo