Vol.717

KOTO

30 DEC 2025

建築の美しさと概念をこのひと缶に。白井屋ホテル クッキー缶

大阪・関西万博の会場デザインを担当したことでも注目を集めた世界で活躍する建築家・藤本壮介氏。彼が設計・デザインを手がけ、2020年12月に開業したのが、群馬県前橋市にある「白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)」だ。その象徴ともいえる、緑の丘の上に建つ特徴的な建築をモチーフにしたクッキーを中心に詰め込んだのが、ホテルに併設された「the PÂTISSERIE(ザ・パティスリー)」によるオリジナルのクッキー缶。まるでアートピースのような存在感を放つこの一缶は、宿泊者にとっては“思い出を味わう”時間を創り出し、初めて手に取る人にとっては“建築を味わう”という特別な体験をもたらす。美しさと美味しさ、その双方を備え、テーブルに置くだけで日常に静かな豊かさを添える。そんな、ときにホテルでの時間に、ときに建築に、ときに建築家の概念に思いを馳せるきっかけとなるクッキー缶のある暮らしを提案する。

特徴的なホテル建築を中心に。大人の休日を彩るクッキー缶

真っ白な缶に黒い線で描かれたグリーンタワーがおしゃれな「白井屋ホテル クッキー缶」
箱を開ける瞬間の高揚感と、ふわりと広がる香りは、私がクッキー缶に求める第一条件だ。まず視線を引きつけるのは、中央に配された白いココナッツクッキー「サブレココ」。

白井屋ホテルの緑に覆われたグリーンタワーに佇む、白い小屋のシンボリックなフォルムを再現したビジュアルは、唯一無二のもの。ホテルを知る人にとっては外観の風景を呼び覚ましたり、ホテルでの滞在に想いを馳せたりするきっかけとなる。

賞味期限は、製造から約1ヶ月。保存料を使用しない、安心の美味しさが魅力
6種類のクッキーが隙間なく詰め込まれた缶は、どこから手を伸ばすか思わず迷ってしまうほどの愛おしい完成度を誇る。「どれを食べても美味しい、妥協のないバランス」を目指したというクッキー缶は、味わいの構成にも余念がない。

三角形をしたチーズのような見た目に遊び心を感じる「サブレフロマージュ」は、薄く軽やかな食感と、チーズをたっぷり使用した穏やかな塩気が印象的。その周囲を彩る葉っぱの形を模した「抹茶サブレ」は、さまざまな建築家やアーティストが手がけた客室を有する白井屋ホテルの中でも特に人気の「藤本壮介ルーム」の中に活けてあるベンジャミンの葉や、グリーンタワーの外観のゆたかな緑を表現。抹茶の香りを控えめに効かせ、小麦本来の風味を引き立てる。

蓋をずらした瞬間のときめきは、クッキー缶を手に取る人だけが味わえる特別なもの
私がクッキー缶に求める2つ目の条件として、非日常を感じさせるおしゃれな味わいがある。

レモンジャムを紅茶のクッキーでサンドした「シトロン アールグレイ」は、しっかりと弾力のあるレモンジャムと、アールグレイの芳香が重なり合い、優雅な余韻を残す。

缶の中心には、白い小屋を模ったシンボリックな「サブレココ」
もちろん、白い小屋を模した「サブレココ」も、キャッチーな上に、味わいに一切の抜かりはない。ザクザクとした歯触りと軽やかさを兼ね備えた食感は心地よく、リズムよく食べ進めたくなる。ココナッツの風味は控えめで後味に残りすぎることがなく、贈り物としても相手を選ばない。全体を通して、大人の休日にふさわしい洗練されたバランスがたまらなく好印象だ。

世界的な建築家やアーティストが集い、それぞれの世界観を体現するホテル

©Shinya Kigure 白井屋ホテル「グリーンタワー」内部は客室、サウナ、店舗などになっている 
白井屋ホテルには、藤本壮介氏をはじめ、ファッションブランド「ミナ ペルホネン」を手がける皆川明氏、アルゼンチン出身で日本を拠点に活躍するレアンドロ・エルリッヒ氏らの作品が展示され、それぞれの表現によって空間や演出が形づくられている。期間限定で写真家・映画監督として独自の世界観を築く蜷川実花氏やEiMをはじめ、さまざまなアーティストとのコラボレーションも展開。

なぜ、これほどまでに多彩なクリエイターたちが、群馬県前橋市のホテルに関わるのか、疑問に思う人も少なくないだろう。前橋は、明治初期に製糸業を中心とした近代化をいち早く推進し、日本の近代化を牽引してきた都市。新しい価値や文化を柔軟に受け入れてきた土地の気質は、現代においても脈々と受け継がれている。

現在の白井屋ホテルの「ヘリテージタワー」の吹き抜け空間には、かつて客室があった
その前橋の街で、江戸時代から300年にわたり歴史を刻んできたのが、旧宮内庁御用達の「白井屋旅館」である。森鴎外や乃木希典をはじめ、多くの芸術家や著名人に愛され、前橋随一の格式を誇る存在であった。1970年代には時代の流れを受けてホテル業へと転換するが、中心市街地の衰退とともに経営は厳しさを増し、2008年に惜しまれつつ廃業。長い歴史に一度、幕を下ろすこととなった。

館内には、前身のホテルの面影を残すコンクリートの壁や、当時の意匠を継承した白井屋ホテルのフォントなどが随所に見られる。建築やホテル、そして前橋の歴史に関心を寄せる人々にとって、過去と現在が交差する時間を味わえる空間となっている。

カフェラウンジ「the LOUNGE」では「the PÂTISSERIE」の一部のスイーツがいただける
転機となったのは2014年。現・白井屋ホテルのオーナーである田中仁氏と、ホテルとの出会いだ。前橋市の活性化を目的とした田中仁財団の活動の一環として、白井屋の再生プロジェクトが始動した。そこで、全体のデザインと設計を託されたのが、以前から交流のあった建築家・藤本壮介氏であった。

さらに、レアンドロ・エルリッヒをはじめとする国内外の多彩なクリエイターが参加。6年半におよぶ大規模改修と新棟建設を経て、2020年12月12日、白井屋ホテルとして新たな歴史を刻み始めた。

たくさんの植物が植えられた「グリーンタワー」
「めぶく。」を市のビジョンに、大きな変貌を遂げる最中の前橋。その象徴とも言える存在が、白井屋ホテルである。ダイニングや客室を備えた「ヘリテージタワー」、パティスリーやベーカリーを併設し、公園のように開かれた建築の「グリーンタワー」、そして2025年春に開業した隣接棟にもレジデンス型客室が誕生。ホテルは、この3棟で構成される。ヘリテージタワーを核に、グリーンタワーと隣接棟が新たな役割を担いながら、前橋の街並みとシームレスにつながる。その心地よい提案に、足を運べば必ず心を奪われるはずだ。宿泊者はもちろん、市民や県内外から訪れる人々の好奇心を刺激し、安らぎを与える憩いの場として、白井屋ホテルは街の日常に静かに溶け込んでいる。

滞在の記憶を、日常へと持ち帰る

「the PÂTISSERIE」の外観。地域の人に愛され、宿泊者も客室へ持ち帰って楽しむほど、フルーツタルトや焼き菓子が評判
白井屋ホテルクッキー缶は、全てホテルの敷地内にある「the PÂTISSERIE」でパティシエたちによって作られ、箱詰めされる。

もともとは、ホテルの開業から少し経った頃、パティスリーのオープンにあわせて、滞在の思い出を持ち帰る手土産をと第一弾のクッキー缶が誕生した。その後、2025年7月2日から11月9日まで六本木ヒルズの森美術館で開催された、藤本壮介氏の大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」にタイミングを合わせ、新たなクッキー缶の企画が動き出す。藤本氏の建築を象徴するシンボリックな小屋をモチーフに、このホテルの世界観を手に取れるかたちで表現したい、そんな思いから生まれたのが今回のクッキー缶だ。

「the PÂTISSERIE」パティシエ 大川彩さん
グリーンタワーに埋め込まれるような形で佇む「the PÂTISSERIE」。この責任者でありパティシエの大川彩(おおかわ・あや)さんは「どれを食べても美味しくて手が止まらなくなるような、自信を持って提供できるクッキー缶ができました」と語る。

群馬県出身の大川さん。「白井屋ホテル クッキー缶」には、群馬のお味噌を使った「味噌くるみ」クッキーをバリエーションに取り入れ、ホテルが大切にしている“地域とのつながりを、さりげなくお菓子に落とし込んでいる。無理に地元食材を使うのではなく、本当にいいものを選ぶことを軸にする姿勢も、このお店の美味しさを信頼できる理由のひとつだ。

「缶にクッキーを詰め終えた瞬間、毎回『かわいい!』って思っちゃうんです。お客様が楽しんで味わってくださるといいなと思いながら蓋を閉めています」と大川さん。彼女の確かな自信と、食べる人を思う気持ちも乗ったクッキー缶の美味しさはひとしおだ。

タルトにはパティシエが自ら見つけてきた地元産の果物を中心に、その時々の旬を使用するのがこだわり
白井屋ホテルを訪れる人の多くは、建築を目当てに足を運ぶ。そんな建築と別れ、日常へと戻るのは、どこか名残惜しい。けれど、このクッキー缶があれば大丈夫。白井屋ホテルを後にし、クッキー缶をぶら下げて帰るとき、そんな気分になった。

大切な人にも、自分にも贈りたい一缶

ギフトにぴったりの「白井屋ホテル クッキー缶」オンライン購入でもギフト用の紙袋をつけられる
私がクッキー缶に求める最後の条件として、きちんとギフトになるということがある。「白井屋ホテル クッキー缶」は、美味しいだけで終わらない。建築のストーリーを丁寧にすくい取り、デザインとして落とし込んだその佇まいには、ギフトとしての高い説得力がある。大切な人に贈りやすく、建築やデザインを愛する人には、より一層の特別感を添えてくれる。自分へのご褒美としても選びたくなる、白井屋ホテルの世界観を気負わず楽しめる一品。スイーツ好きはもちろん、白井屋ホテルや藤本壮介氏の建築に心を動かされた人にとって、記憶に残るギフトとなるだろう。

白井屋ホテル