Vol.415

FOOD

07 FEB 2023

きっとあなたを笑顔にする、自然由来のチョコレート。沖縄のTIMELESS CHOCOLATE

ちょっと一息つきたいときに食べたいもの、チョコレート。おそらく誰もが好きなこの菓子の魅力をさらに押し広げてくれるようなお店が、沖縄県中頭郡北谷町にある。「TIMELESS CHOCOLATE(タイムレスチョコレート)」は、世界を旅したバリスタが沖縄で始めたチョコレートストアだ。原材料は「カカオ」と「さとうきび」だけというシンプルな素材ながら、そのチョコレートには出会ったことのないような深みがある。その秘密を知るべく、今回実際に店を訪ね、オーナーの林正幸さんに話を伺った。看板アイテム「シングルオリジンチョコレート」の味わい方をご紹介しつつ、チョコレートの新しい可能性を探ってみたい。

出会ったことがない食感の、芳醇なチョコレート

沖縄旅行土産としてもらったのが、「TIMELESS CHOCOLATE(タイムレスチョコレート)」との出会いだった。その時に食べたのは、このチョコレートストアの看板アイテム「シングルオリジンチョコレート」。輸入食品店に並んでいそうなお洒落なパッケージだが、板チョコは板チョコ。失礼ながらそこまで期待せずに食べたのだが、一口終えたところで私はびっくりした。食感も味も、まるで出会ったことのないものだったのだ。板チョコを食べて「面白い」と感じたのは、これが初めてだった。

「TIMELESS CHOCOLATE」のチョコレートバー「シングルオリジンチョコレート」
ジャリッとした食感と、濃厚だが嫌味のない上品な甘さ。人工では作り得ない自然な良い香り。口の中から消えたあともしばらくじっと余韻に浸っていたくなるような、芳醇なチョコレートだ。

一見普通の板チョコだけれど、何かが違う
この食感、甘さ、香り…何かに似ているなと考えて、ふとそれが、エスプレッソだということに思い当たる。そしてそれは結果として、大正解であった。「TIMELESS CHOCOLATE」は、エスプレッソに着想を得たチョコレートだったのだ。そんなユニークなチョコレートが生まれた背景には、オーナー林正幸さんとコーヒーにまつわる、ある物語があった。

バリスタが始めた「Bean to Bar」のチョコレートストア

「TIMELESS CHOCOLATE」FACTORY店舗(沖縄県北谷町)

アメリカンな雰囲気が漂うお店
現在、沖縄県北谷町で「TIMELESS CHOCOLATE」を営む林正幸さんは、神奈川県横浜市の出身。幼い頃から好奇心が強く、心が動くものに対して素直に従う性格だった。小学生の頃から一人で遠出は当たり前、大学生になると気の赴くままバイクで日本一周。そんな性格もあり、大学を卒業してからはサンフランシスコで留学生活を送った。そして一度帰国し、地元の横浜でセレクトショップや飲食店をオープンさせるも 店は友人に譲り、自身はまたバックパッカーとしての生活を選ぶ。

お話を伺ったオーナーの林正幸さん
「世界中を旅しましたが、最終的にはエスプレッソの本場メルボルンに滞在し、バリスタのライセンスを取得しました。サードウェーブコーヒーの只中をサンフランシスコのカルチャーに触れながら過ごしたこともあり、コーヒーには興味があったんです。メルボルンは信号機よりもカフェが多いと言われる街。そこでコーヒーを学べたことが、TIMELESS CHOCOLATEの原点と呼べるのかもしれません」

バックパッカーやバリスタの経験を経て始めたチョコレートストア

器や内装にも、オーナーの人生経験や交友関係が反映されている
話は少し逸れるが、私自身のエスプレッソの思い出話をここに書いておきたい。あれは確か大学生の頃。一人でカフェに入り名前のカッコよさだけでそれを頼むと、親指ほどのサイズのカップに入った濃いコーヒーが出てきた。意味も分からず一口飲むと、苦くて苦くて飲めたものではない。そこで慌てて「エスプレッソ 飲み方」と検索し、一般的には砂糖を入れて飲み、最後にそれをすくって食べるのだということを知る。砂糖を入れてみると、味がガラッと変わって美味しい。さらに最後の一口…エスプレッソが染み込んだ砂糖のかたまりは、これまで口にしたどんなスイーツよりも甘美だった。

コーヒーショップのような店内。チョコレートだけでなく、コーヒーを買いにくるお客さんも
先ほど「TIMELESS CHOCOLATE」をエスプレッソに似ていると言ったのは、この最後の一口を思い出したからだ。極上のジャリジャリ感。素材がシンプルだからこそ引き立つ味わいは、大人の愉しみのようにも思えた。やはり、バリスタの経験をもとに、これを再現したくてチョコレートストアを始めたのだろうか?

「いえ。実は、チョコレートストアをやるつもりは全くなかったんです。最初はコーヒーと砂糖の可能性を広げたくて、コーヒーショップをやるつもりで沖縄に移住しました。サンフランシスコやメルボルンでコーヒーカルチャーを経験して、コーヒーにおいて砂糖がかなり重要だということを知っていたので、自分は黒糖でそれをやりたいと思って。でも沖縄にはすでに素晴らしいコーヒーショップがあり、自分がそこを目指すことはすぐに諦めました。だから別のアプローチで…できれば、自分がやってきたことを絡めるかたちで黒糖の魅力を広げてみたいと考えたんです」

「Bean to Bar」のチョコレートストア
そうして至ったのが、チョコレート。カカオ豆を発酵、乾燥させ、さらに焙煎して砕き、練ってペースト状にしたものに砂糖を加えることで出来上がるチョコレートだが、この製造工程がコーヒーにかなり近いことに、林さんは気づいた。だからこそ「TIMELESS CHOCOLATE」は、Bean to Bar(ビーントゥバー)スタイルのお店としてオープン。これは製造者がカカオ豆からチョコレートになるまでを一貫して手掛けるスタイルのことで、より高品質のチョコレートを目指すことができる。また自身で豆の挽き方や黒糖との比率、混ぜ方を工夫できるからこそ、エスプレッソの口当たりにも似た、オリジナリティ溢れるチョコレート作りが叶った。

ものによって粗挽きや石臼挽きなどその工程を変えつつ、素材を最大限引き立てるチョコレートを1から作る「TIMELESS CHOCOLATE」。その味は、コーヒーとチョコレートの共通点を知っているバリスタだからこそたどり着いた味だった。

Bean to Barスタイルで作られるオリジナルのチョコレートには、こだわりがいっぱい

「カカオ」と「さとうきび」 - シングルオリジンチョコレートにみる引き算の美学

今回ご紹介する看板アイテム「シングルオリジンチョコレート」は、4種ある。【シングルオリジンチョコレート ガーナ 70% -WILD GRIND-】【シングルオリジンチョコレート ベトナム 70% -WILD GRIND-】【シングルオリジンチョコレート インドネシア 72% -STONE GRIND-】そして【シングルオリジンチョコレート コロンビア 82% -STONE GRIND-】だ。

チョコレートの肝である黒糖と島ザラメの原料、さとうきびは、ワインやコーヒーのように産地や品種によって異なる味わいがある。それらの特徴を活かしたチョコレートを作りたいという想いから、「シングルオリジンチョコレート」の原材料は「カカオ」と「さとうきび」だけだ。

原材料名は、「カカオ豆」と「さとうきび」のみ
先ほど「TIMELESS CHOCOLATE」を Bean to Barスタイルのお店だと紹介したが、しかしイチから作っているのはチョコレートだけではない。実はチョコレートの原料となる黒糖の一部は、林さん自身が立ち上げた指定農園で作られている。

取材時「昨日もちょうど畑に行っていて」と話していた林さん。きび刈りは自身の手でするのだそうだ。機械だと、旬ではないものや、鼠などの被害による雑味のもとが入ってしまう。そしてそこから1時間以内に搾汁し、濾過した液を何段階かに分けて薪の火で煮て、濃縮。さらに攪拌し、冷却することで、鮮度の良いオリジナルの黒糖ができる。沖縄で古くから薬として重宝されてきたこのミネラルの塊を、林さんは昔ながらの方法で、丁寧に作っているのだ。

昔ながらの方法で作られた、ミネラル豊富な黒糖
チョコレートを一口食べた時のあのジャリッとした食感、豊かな甘味は、この黒糖によるものに他ならない。製造背景を知り、あの繊細かつ大胆な味に、大いに納得できた。

カカオを加工する機械の一部も、オリジナルのものだ。自身が実際に足を運び仕入れたカカオを、最も良い状態にする。そしてこの機械は店内からも見ることができ、店舗自体の雰囲気をぐっと高めていた。Bean to Barスタイルならではの面白い光景だ。

オリジナルの風選機で

店内からチョコレートの製造工程を見ることができる
林さんは、自身のことを材料屋なのだと語った。一番美しい数式で引き算して、素材がもつ本来の味を最大限に引き出しているのだと。引き算の美学。自身が惚れ込んだ「カカオ」の世界、そして「さとうきび」の可能性を、「TIMELESS CHOCOLATE」はシンプルな方法で、しかしだからこそ大きな影響力をもって世界に発信している。

また「TIMELESS CHOCOLATE」のユニークな特徴として、テイスティングノートというものがある。バリスタなので、ワインのように、テイスティングすることができるのだ。次にこのテイスティングノートをもとに、チョコレートとのさまざまなペアリングを、自宅で楽しんでみたい。

それぞれのチョコレートにテイスティングノートが添えられている

「テイスティングノート」を見ながら、ペアリングを楽しむ

4種の「シングルオリジンチョコレート」を、テイスティングノートを読みつつ、それぞれ自宅で楽しんでみよう。

「TIMELESS CHOCOLATE」の代名詞ともいえる、4種の「シングルオリジンチョコレート」

シングルオリジンチョコレート ガーナ 70% -WILD GRIND-

赤いパッケージの「シングルオリジンチョコレート」に添えられているテイスティングノートは、ココナッツミルク、アーモンド、バナナ、シナモン。

“噛むたびに粗挽きにしたカカオと島ザラメの蜜感が混ざり合い、ココナッツやバナナのようなトロピカルな味わいが広がり、アフターにはクッキーなど焼き菓子のような濃厚な風味が持続する”

シングルオリジンチョコレート ガーナ 70% -WILD GRIND
定番の一枚は、個人的にコーヒーと、王道の組み合わせで楽しみたい。仕事の手を止めて、ほっと一息。そんなリラックスした時間にも似合いそうなチョコレートだ。

シングルオリジンチョコレート ベトナム 70% -WILD GRIND-

グリーンのパッケージが爽やかな「シングルオリジンチョコレート」のテイスティングノートは、ラズベリー、パッションフルーツ、ヨーグルト。

“ラズベリーや木苺など赤い果実を連想させる上質な酸味と瑞々しさ、咀嚼する事でパッションフルーツのような明るい酸味が広がる、TIMELESSのラインナップで一番フルーティな一枚”

シングルオリジンチョコレート ベトナム 70% -WILD GRIND
トロピカルフルーツとしてのカカオの爽やかな甘みや酸味が、フワッと香ってくるよう。アフタヌーンティーの時間に、紅茶に合わせるのはどうだろうか。チョコレートらしい重さはなく、軽い茶菓子のような感覚で楽しめそうだ。

シングルオリジンチョコレート インドネシア 72% -STONE GRIND-

ブルーのパッケージのこちらは、沖縄で最高賞となる「県知事賞」を2020年に受賞した一枚 で、テイスティングノートは、ローストナッツ、バナナ、モラセス。

“カカオが持つナッツ感を自家焙煎する事で引き出し、沖縄が誇る伝統的な純黒糖と合わせ石臼挽きにし、滑らかに練る事で生まれる味わいは唯一無二。鼻から抜けるアフターはまさに沖縄を感じる事ができ、アルコールとのペアリングもオススメ”

シングルオリジンチョコレート インドネシア 72% -STONE GRIND-
個人的にはウイスキーと合わせるのがとてもお気に入り。晩酌の静かな時間に、彩りを与えてくれそうだ。普段はウイスキーを飲まない夫も誘って、その深い甘みを楽しみたい。

シングルオリジンチョコレート コロンビア 82% -STONE GRIND-

最後にご紹介するのは、紫のパッケージの「シングルオリジンチョコレート」。テイスティングノートは、プラム、チーズ、ハチミツ、黒胡椒と、チョコレートのイメージとは異なる単語が並ぶ。

“「ハイカカオだからと言って苦いわけでは無い」その極地を体感できる一枚。カカオ由来の上質な甘酸っぱさ、口溶けする事で現れる濃厚なチーズのような旨味や微かに感じる黒胡椒のようなスパイシーさ、アルコールはもちろん、チーズやサラミなどとのペアリングもオススメ”

シングルオリジンチョコレート コロンビア 82% -STONE GRIND-
意外かもしれないが、個人的にはチーズとの相性が抜群だと思う。サラミやチーズと同じ皿に盛り付けて、ワインのつまみにしてみよう。ちょっとクセの強い一枚だが、だからこそチョコレートの概念に捉われず自由な解釈で、その可能性を広げてみたい。

そのそれぞれのペアリングを家族や友人と楽しみながら、チョコレートを口にするとき、それについて話すとき、自然とみんな笑顔になっていることに気がついた。香りも味わいも どこまでも奥深く、全貌が分からないほど広い「TIMELESS CHOCOLATE」の世界。「こんな香りがする」「こんな味がする」「これに合う」…チョコレートを囲みつつそんな会話をしながら、かけがえのない存在と、その時間を共有したい。

食べ比べたくなる「シングルオリジンチョコレート」はギフトにも人気だ

タイムレスなチョコレート。きっと1000年続く味

林さんは最後にこんなことを言っていた。
「きっと1000年前でも、1000年後でも、自分は同じ方法でチョコレートを作ると思うんですよ」

シンプルだからこそ、ずっとずっと変わらない「TIMELESS CHOCOLATE」。ただそれは、だからこそ、多くのものに溢れる現代において貴重な存在だと言えるのかもしれない。

沖縄の自然由来の魅力を一枚にふんだんに取り込んだ「シングルオリジンチョコレート」を、いつもの朝や、ティータイムや、晩酌や、パーティに取り入れてみるのはいかが?今までに触れたことのないチョコレートの世界は、私たちの食に新しい楽しみを見出してくれそうだ。そして何気ない毎日に、癒しというよりはひらめきを与えてくれるだろう。

パッケージには"WELCOME TO CACAO HEAVEN"の文字が。「TIMELESS CHOCOLATE」のチョコレートで、まだ見ぬ世界へ

TIMELESS CHOCOLATE

住所:沖縄県中頭郡北谷町宮城3-223
電話:098-923-2880
営業時間:9:00-18:00

https://timelesschocolate.com/