Vol.654

KOTO

23 MAY 2025

もっとタフティングを身近に。高円寺の新感覚タフティングスタジオM.A.P.

「タフティング」というホビーが現在流行中なのをご存知だろうか。オリジナルのラグ(足もとや玄関の上がり口など、床の一部に用いる敷物)を作るこのタフティング。少し敷居の高いイメージを持つ人もいるかもしれないが、タフティングを気軽に楽しめるスタジオが2024年、東京・高円寺にオープン。新しい趣味を始めてみるのはいかがだろう

タフティングとは

タフティングで作ったラグのサンプル
タフティングとは、専用の布地の裏側から「タフティング・ガン」と呼ばれる機械で糸を打ち付けて、オリジナルのラグや小物を作るホビーのこと。

もともとタフティング・ガンは海外のラグ工場で使用される機械だったが、5年ほど前に韓国やアメリカで家庭でも利用され始め、数年前から日本でもちょっとしたブームに。初心者でも簡単に自分好みのオシャレなラグマットが作れることや、タフティング・ガンの動きや音が写真・動画映えすることから、InstagramやTikTokでも制作風景が大人気になった。

ただし、タフティングができるスタジオはまだあまりなく、あっても都内の一等地だったり、初心者向きである30cmの円形ラグを作るのに15000円以上かかったりと、気軽にタフティングを体験してみたい人やスタジオを見学してみたい人には少しハードルが高いものでもあった。

こちらが専用の「タフティング・ガン」

タフティングスタジオの敷居を下げた高円寺M.A.P.

そんな中、2024年に高円寺の古民家をリノベーションしてオープンしたのが「M.A.P.」というタフティングスタジオ。店名は「Maniac Artist Port」を略したもので、「マニアックなアーティストが訪れ、さまざまなカルチャーが交わる港」になるように込められた名前だそう。

その名の通り、お店のメイン空間は、さまざまなアーティストの作品が楽しめるギャラリーと、それを眺めながら一息つけるカフェ。そしてその奥にあるのがタフティング専用の部屋だ。元有名コーヒー店のバリスタだった店長の小峯小百合さんが淹れるコーヒーを楽しみながら、ギャラリーで作品を鑑賞するもよし。タフティング教室の模様を気軽に覗くもよし。さらに店の奥にあるテラスは、さまざまな人が集まって外界に繋がる様子をイメージして作られたというオシャレな店作りだ。

高円寺の表通りから一歩入ったところにオシャレなたたずまいのお店が

奥のテラスには、かつて古着屋だった頃の陳列棚を再利用して作られたベンチも

ワークショップでタフティングを体験

それでは実際にタフティングを体験してみよう。今回教えていただくのは、まだ日本にタフティング・ガンが普及する前から自身で個人輸入し、作品作りを続けているラグ・デザイナーのRieru(リエル)さん。

今回は、初心者向きである30cmサークルの丸型ラグを作るコースを選択。ちなみに料金は12000円と、一般的なタフティング専門店よりはリーズナブルな印象。さらに、ペアやトリオで一緒に教わると割引になるので、友達やパートナーと一緒に習うのもオススメだ。

講師のRieruさん。作品はInstagramで見ることができる
ラグ・デザイナーのRieru(リエル)さんのインスタアカウント
https://www.instagram.com/inucatcher/
まずは専用の額縁に貼られた布地に、重量感のあるタフティング・ガンで糸を打ち込んでいく練習を行うことに。糸が自動で打ち込まれ切れていく様はミシンにも似ているが、Rieru先生いわく「もっと近いのは田植えです」とのこと。裏からでは見えないが、この「田植え」を何度も繰り返してラグのモコモコ感になっていく。

タフティングの色見本
基本的な動きは下方向から上方向で、方向を変えるのは右手の役割。ガンをただ下から上に動かすだけなら初心者でもある程度はできるが、それなりの重さがあるガンを左手で押し付けつつ、右手で方向のコントロールするのは意外と大変で、さらに打ち込みたい高さによって立ったりかがんだり座ったりするのは、なかなかいい運動になる。ちなみに小柄なRieru先生は、脚立に上りながら8時間連続で作業することもあるのだとか。

Rieru先生がガンを打った跡(右)と、筆者が打った跡(左)。とうもろこしの粒のような糸のかたまりが連続して打てるといいと言う
縦の直線、横の直線、そして曲線と練習していったところで、糸の色を選択して実際のラグを作りに取り掛かる。今回選んだのは「カスミ」というパターンで、初心者向けの丸型ラグの中でも曲線部分が多いため、難易度は少し高め。まずはプロジェクターで図案を布に映し、それをペンでなぞって下書きしていく。

模様を布地に投影し下書き

さまざまな色の糸から自分好みの色を選択

糸通しでガンに糸を通して、いざ実践
その後は下書きに沿って練習通りに糸を打ち込んでいく。まずは枠線から糸を打ちこみ、次に面積の大きい部分から打っていくのがオススメだが、練習通りにやっていけば、それ以外に難しいルールはなし。もちろん先生からは「ココは詰まりすぎなのでもっと早く動かしましょう」「ココはスカスカなのでもう1ライン打ちましょう」と適宜優しいアドバイスもある。

まずは枠線に沿って打ち込んでいく(青い部分は練習の跡)

次に枠線の内部を打ち込んでいく

黒い部分が完成
ここで実際に作業をしながら、Rieru先生にタフティングについて詳しく教わったことをいくつか紹介。

タフティングは自分で木材を買ってきて大きな枠を作れば、どんな大きさのものでも作れるということ。そしてラグ以外にもさまざまなものを作ることができ、人によっては壁にかけるタペストリーやアート作品、小物やミラーを囲う装飾品など、可能性は無限大であるということ。

タフティング・ガンは4万円から5万円し、さらに何色もの糸や木枠まで揃えるとなると、趣味を始めるには少し値が張る。またタフティング・ガンは起動すると音がするため、壁の薄いマンションや家庭でやるには不向きである。そこで、タフティングを気軽に始められるM.A.P.のようなスタジオの需要が高まっている。ちなみに全国にワークショップをやっている専門店はあるが、まだまだ数は少ないそうだ。

同様に水色、黄緑、紫と色を変えながら打ち込んでいき…

裏面が完成
そんな話を教わりながら、約2時間で糸の打ち込み作業は終了。一見すると「こんな雑な仕上がりで大丈夫だろうか?」という気持ちだったが、反対面(表面)を見せていただくと、カラフルな無数の糸が飛び出していて、きちんとラグらしくなっていて感動!

裏返すと意外と様になっている!
その後、接着剤で糸を定着させたり、表面にバリカンをかけて凹凸感を出したりする仕上げをRieru先生が行う。仕上げには1時間ほどかかるため、ここでもM.A.P.のカフェスペースやギャラリーが役立つことに。店長の小峯さんが淹れたコーヒーをいただきながら、展示を鑑賞した。

M.A.P.の店頭。この日も気鋭のアーティストが作品を展示中

別の先生が作ったタフティングの立体作品も商品の陳列に使われていた

高円寺の街の魅力

ちなみに、今回取材したタフティングスタジオM.A.P.を運営する「ホットワイヤーグループ」は、実は古着の街・高円寺で初期に古着屋を始めた会社。M.A.P.ももともとは古着屋の店舗だったというが、一般のタフティング教室は敷居が高く、予約が取りづらいために現在のM.A.P.に改装したという。

他にも「ホットワイヤーグループ」は現在、ウェブメディア「高円寺経済新聞」の運営や、高円寺に根差したフリーペーパー「SHOW-OFF」の発行、イベント「高円寺フェス」の主催など、高円寺という街に特化した事業を多数展開している。

先ほどいただいたコーヒーの豆も高円寺の名店「さわやこおふぃ」のもの。店長の小峯さんに高円寺という街の魅力を訪ねると、「高円寺がカルチャーの街だというのはみなさんご存知だと思うんですけど、お店でアートの展示をしても人が集まるし、音楽のライブをやっても人が集まる。高円寺フェスをやれば音楽や演劇、お笑い、飲食はもちろん、ダンスや大道芸やプロレスまで、ありとあらゆるカルチャーのパワーであふれる。そういうパワーは他の街にはなかなかないと思います」とのこと。

M.A.P.としては、6月でオープンから1周年となるので、もっとお店を知ってもらい、自然とアーティストが集まるような空間にしたいと考えているそうだ。

小峯さんにそんな話を伺っているうちに、世界に一つだけのラグが完成! 初心者でも立派な仕上がりになったと思うが、いかがだろうか?

裏面には滑り止め加工をしてもらう

初めてにしてはうまくできたのでは?

小峯さんのラテアートと自作のラグ

新たな趣味としてタフティングを始めてみては?

実際にタフティングをやってみて良かった点をいくつか紹介しよう。まず、今まで「買う」しか選択肢がなかったラグマットが、自分好みに作れてしまうというところに驚きがあった。

しかも裁縫やミシンができなくても大丈夫。先生の優しい指導もあり、初心者でも上手に作れるのが何より楽しい。慣れてしまえ、例えば自分の描いた絵、撮った写真から誰かの顔やペットの姿だってラグやタペストリーにできてしまうのもすごいところ。部屋に自分だけのラグを飾るって、ただの絵や写真を飾るのとはちょっと違う。毛並みがあって、モフモフ触ることだってできる。

そして、意外といい運動になるということも実感したことのひとつ。集中してタフティング・ガンを打ち続けていると、足腰や腕を使うし、頭はからっぽで余計なことを考えずに済む。

モノづくりが好きな人や、部屋を自分好みに変えたい人、カラフルなモノが好きな人などはもちろんのこと、几帳面な性格の人、日常のわずらわしさを忘れて何かに没頭してみたい人、軽い運動をしたい人にもオススメのタフティング。年齢・性別を問わずに楽しめるのも良いところだ。

ぜひ、カルチャーの街・高円寺の空気を楽しみながら、タフティングという新しい趣味を始めてみてはいかが? かなり楽しめるはず!

タフティングスタジオM.A.P.

東京都杉並区高円寺南4-22−1
03-5913-9989
https://map-koenji.com/tufting-studio/