Vol.586

KOTO

27 SEP 2024

世界中のファンを魅了する日本が誇るウイスキーと写真家

20世紀の日本人で有名な写真家といえば、荒木経惟、森山大道、中平卓馬、東松照明などが代表的で、海外から見るジャパニーズフォトグラフィとは、彼らの作風のことをイメージされる事が多いだろう。1960年以降から現在に至るまでも、彼らの影響は強く、今でも日本写真の代表格と言えるだろう。日本の写真界を背負う巨匠たちの写真は実験的で、ビジュアルがカッコよく、コンセプチュアルで哲学的でもある。そんな日本写真の世界のトレンドも変化している。2000年以降、海外において、最も注目されている写真家の一人が山本昌夫氏である。

イチローズモルトWine Wood Reserveと山本昌夫氏SON ALBUM

21世紀に日本を代表する写真家の一人、山本昌夫氏

山本は1954年生まれで、絵画を学んだあと写真家への道へ進んでいる。写真家になってからはアメリカから活躍の場を広げていった。つまり日本の写真業界とは違い、現代美術などを扱うサンフランシスコのギャラリーShapiro Galleryでの展示をきっかけに評価を受け、他の日本人作家とは違い独自に写真家への道を切り開いていったと言えるだろう。山本の作品は、一言で言えば「静」。プリントは小さく、派手な事象や演出はなく、ゆっくり静かな時間が写真の中で流れている。

主にモノクローム、セピア調のゼラチンシルバーでプリントは行われている、何年も時が止まっているようで、少しノスタルジーな思いになる事がある。きっと日本人のアイディンティティに共感する作品なのだ。

それは侘び寂びの美学に通ずるものがあり、海外の写真好きな人たちを魅了するのは納得だ。海外から見た日本の良さ、日本人の良さ、イメージは、山本昌夫氏の写真から見出せることだろう。

山本昌夫氏の写真集
山本氏の写真は特に海外からの評価が高く、入手が困難な写真集が多い。ただ日本の出版社から発刊されている本も多く、日本に住んでいたら、まだ入手しやすいところが嬉しい。発刊されてから1年以内には入手が困難になる可能性が高いので、気になった本は早めに入手しておくのが良い。

山本昌夫氏の集大成、「小さきもの、沈黙のなかで」の1ページ

2014年に出版された山本氏を代表する一冊「小さきもの、沈黙のなかで」は、山本氏がそれまで制作してきた作品をまとめた集大成のような一冊で。ゼラチンシルバーでプリントされたモノクロ、セピアの写真が本の余白を多くとり印刷されている。山本氏のプリントは実際に小さなサイズで制作されているのが、ほとんどだという。

余白、素朴、静寂、自然。本来持つ日本の美学がここにある。人気の写真集は2021年に新装版として発行され、今も人気のある写真集だ。山本氏の代名詞とも言える、定番の写真集となる。

とても心地の良い、写真集だ。

T&M Projectsでは、日本人作家を中心に展示や出版を行なっている。良い写真集が出版されているので、目が離せない出版社だ。こちらから山本氏は「手中一滴」と「Son album」を出版されている。「手中一滴」は表紙には和紙が使われ、盆栽の写真を中心に構成されている。まさに日本のアイディンティティを表現されたような作品集である。

日本の美学とフランスの美学が共通する精神性が作品に反映する

日本の出版社T&MProjectsから発刊された「SON ALBUM」
「Son album」のアプローチは「手中一滴」のようなストレートに日本のアイディンティティにぶつかっていく事とは変わってくる。

山梨県の自然豊かな環境で暮らす山本氏はフランスの小さな村へ行き、日本の自然や精神性に共通点を見出し、そこから何年も通うようにある。場所や伝統とは離れたところで見出した美学。フランスで制作されたSON ALBUMは場所や時間を感じさせない、山本氏の世界、また日本人の精神世界が表現されている。自然の中で生活する村人と山本氏の深い繋がりは我々日本人のアイデンティティとの繋がりでもあるのであろう。

生きていくために必要な本質的な精神とは何か。ページをめくりながら、そのような事を考えていた。

山本昌夫氏の集大成、「小さきもの、沈黙のなかで」の1ページ
2014年に出版された山本氏を代表する一冊「小さきもの、沈黙のなかで」は、山本氏がそれまで制作してきた作品をまとめた集大成のような一冊で。ゼラチンシルバーでプリントされたモノクロ、セピアの写真が本の余白を多くとり印刷されている。山本氏のプリントは実際に小さなサイズで制作されているのが、ほとんどだという。

余白、素朴、静寂、自然。本来持つ日本の美学がここにある。人気の写真集は2021年に新装版として発行され、今も人気のある写真集だ。

音楽家、内田輝氏とのコラボレーション、音楽が付いた写真集

フランス出版社IKKIより出版されている写真集「kurayami」には音楽家・内田輝氏の音楽がダウンロードすることができる。内田輝氏が奏でる静かなアンビエントミュージックは、もちろん山本氏の作品をとの相性は非常に良く、日本の大自然の中に身を委ねるような感覚になってくる。普段の生活では、忘れがちな良き日本の情景を思い浮かべることができる。

もちろん無音で、鳥のさえずりや、木々の揺れる音などの自然環境音と一緒に作品を鑑賞するのも贅沢な楽しみだ。

フランスの出版社から出版された 「kurayami」表紙

ダウンロード音楽が付属している「kurayami」の1ページ

日本を代表するウイスキー蒸留所イチローズモルト

やはり写真集に合わせて美味しいお酒があると、より至福な時間を過ごすことが出来るはずだ。山本氏の写真集に合わせて飲みたいのは、イチローズモルト。単純明快な組み合わせではあるが、合わないはずがない。

言わずと知れた日本を代表するウイスキー。秩父の大自然を思い切り凝縮したお酒だ。イチローズモルトは、世界の名だたるコンペディションで数々の金賞を受賞し、世界中に愛好家を増やしている、日本を代表するウイスキーだ。世界の愛好家が欲しているので、定価で入手には苦労するが、国内ではまだ入手のチャンスはある。

赤みを帯びたイチローズモルト ワインウッドリザーブ
まだまだ入手困難なシングルモルトだが、今回は運良く入手する事が出来たワインウッドリザー
ブを合わせる事にした。シェリー樽で熟成されたモルトは赤みがあり、ストレートで飲むとフルーティーさの中にビターさがり後味には柑橘の味わいが口に残り複雑な味わいだ。

香りから口に含んだ時と、後味で印象が変わる。一口で春夏秋冬のストーリーが流れていくようだ。
日本の四季を感じられる。

イチローズモルトと山本昌夫氏の写真集
写真集もウイスキーも日本の自然美学を取り込んだ、大変贅沢な組み合わせである。
言葉では簡単に表現できない自然そのもの。シンプルで奥が深く、それぞれの感じ方があるだろうが、自身の感性に向かい合う事が出来る時間が、また贅沢なひと時ではないだろうか。

山本昌夫氏の写真集、イチローズモルトは、タイミングが合わないと入手するのが簡単ではいが、出会った時には是非、手に取ってもらっても後悔はないだろう。

改めて、日本の良い部分に目を向けていただくきっかけになってほしい。

侘び寂びをテーマにした写真作品「CRACK」筆者撮影

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