全国各地で盛り上がっているクラフトビール。一過性のブームでは終わらず、もはや文化として定着しつつある。クラフトビール好きの方におすすめのビールを尋ねると、よく名前に挙がるのがBlack Tide Brewing(ブラックタイドブリューイング、以下BTB)だ。BTBは東日本大震災の被害が大きかった街、宮城県気仙沼市で震災後に設立された。「Brewed with pride in Kesennuma(気仙沼の誇りが込められた醸造)」はBTBが掲げるミッションである。このミッションには、気仙沼でのビールづくりに誇りを持つとともに、「気仙沼市民が誇れるビールを作りたい」というシビックプライドが込められている。地域と共にあり続けるBTB。その魅力を肌で感じたくなり、気仙沼へ向かった。
クラフトビールで気仙沼を盛り上げたい
気仙沼は海と山に囲まれた自然豊かな場所である。日本一の水揚げ量を誇る漁港を有するなど、水産の街としても有名だ。
水産業が盛んな理由は、この地域が寒流の親潮と暖流の黒潮がぶつかり合い、世界的にも有名な漁場となっているからである。Black Tide Brewingという名称はこの黒潮に由来しており、ここからも地域に根ざしたビールづくりへの思いが伝わってくる。
クラフトビールにはさまざまな楽しみ方がある。味わいや香りはもちろんだが、ブリュワー(ビールの作り手)の思いや、産地の特長や製造に至るまでのストーリーを知ることも一つの楽しみ方だ。また、その土地を実際に訪れ、醸造所を見学し、ビールを味わえば、かけがえのない思い出づくりになるだろう。BTBにも港の景色とクラフトビールを目当てにたくさんの人が訪れている。
今回私を出迎えてくれたのは、営業部長・ブリュワーの丹治 和也さん。東日本大震災の時にボランティアとして岩手県釜石市を訪れたのをきっかけに三陸との関わりを持つようになったそう。その後、三陸を南下して宮城県の南三陸町に移動、最終的に気仙沼市でボランディア活動に参加した経験がある。SNSでBTBのプロジェクトを見つけ、また気仙沼へ戻り、ビールづくりに取り組むようになった。
丹治さんは気仙沼を盛り上げるために、地域のイベントにも積極的に関わっている。今年の春と夏には気仙沼でビアフェスを開催。海のすぐそばで開催されるビアフェスは非常に珍しく、5月のフェスには約3,000人が来場したとのこと。中には九州からはるばる参加した猛者もいたらしい。「地域がイベントで盛り上がったら嬉しい」と丹治さんは話してくれた。
次々とアップデートされる多種多様なスタイルのビール
BTBの主力ビールは、ヘッドブリュワーのジェームズ・ワトニーさんによる、ホップを多用したアメリカンスタイルのクラフトビールだ。日本で多く飲まれている、キレ・のどごし・ほろ苦さを前面に押し出したラガービールとは異なり、トロピカルな柑橘系の香りを感じることができるのが特徴だ。
新商品開発にも力を注ぐ。驚くことに、BTBではこれまで約200種類以上のビールを開発してきたという。中にはラガーやセゾン、フルーツを使った期間限定のビールもある。これからも新しい商品が続々と登場するとのこと。地域のビール醸造所だからこそ出せるこのスピード感もまたBTBの魅力である。
小規模ながらも工夫を重ねた醸造所
クラフトビールというと、瓶ビールのイメージを持つ人もいるかもしれないが、BTBでは2020年3月の立ち上げ当初から容器に缶を採用している。当時、缶ビールを製造する小規模の醸造所は珍しかったそうだが、軽さやデザイン性、品質の面で缶の方が優れていると判断したという。
他社とのコラボレーションも積極的に行う。国内にとどまらず、アメリカやオーストラリアのブリュワリーとも共同で商品を開発した実績があり、現在は韓国のブリュワリーとのコラボ企画が進行中だという。日本だけでなく、世界中にBTBが浸透し始めていることが分かるエピソードだ。
ラベルデザインも気仙沼で 地域のデザイナーがストーリーを紡ぐ
ビールのラベルはどれも東北や気仙沼、BTBをイメージしたデザインになっている。クールでかっこいいものもあれば、気仙沼市の観光キャラクター「ホヤぼーや」や仙台市の観光キャラクター「むすび丸」を用いた可愛らしいものもある。ジェームズさんや丹治さんなど、ブリュワーをイメージしたデザインもあるので、ラベルを見比べながら選んでみてほしい。
全てのラベルデザインは気仙沼在住のデザイナーが手がけており(ホヤぼーや、むすび丸のキャラクターは除く)、缶を並べてじっくり眺めてみると強い地元愛が伝わってくる。
BTBに来たらコレを飲んで! おすすめビール2つをご紹介
200種類以上の商品を生み出してきたBTB。その中でも特に私がおすすめしたいクラフトビールを2つ紹介したい。
一つ目は「KESENNUMA PRIDE」。ホップの華やかな香りを感じるIPAは、すっきりとしながらも程よい苦味で飲み応えがある。「気仙沼の誇り」の名のとおり、力強さと気高さが感じられるビールだ。透明感があるゴールドの色合いも綺麗で、ヒゲのようなラベルデザインがかっこいい。
二つ目は「Hoya Boya」。苦味が少なく、マンゴーやパイナップルのような味わいが特徴だ。気仙沼といえばホヤが有名だが、そのホヤは「海のパイナップル」と呼ばれ、ラベルの「ホヤぼーや」ともマッチしている。にごりのある爽やかな黄色のビールで、ビールを普段飲まない方にもおすすめしたい。
クラフトビールを知ることで、地域の良さを体感する
今回の取材では、丹治さんをはじめBTBの方々がとても丁寧に説明をしてくださったおかげで、作り手、地域、商品の魅力を存分に感じることができた。そして気仙沼への愛着もより一層深まった。
そこで暮らす人の日常は私にとっての非日常だ。次に旅行に行く際には、旅先のブリュワリーをまわって、クラフトビールを片手に地元の方との会話を楽しむ、そんな贅沢な過ごし方をしてみたい。きっと、ガイドブックには載っていない、街や人の魅力を発見できるに違いない。
Black Tide Brewing
CURATION BY
宮城県仙台市。中学受験の受付事務を退職後、仙台にて行政関係の事務職や、東京・仙台を拠点とするWeb系の広告制作会社を経て、現在はフリーランス。行政でのWebメディア企画運営やWeb制作会社での経験を基に活動中。Webメディアで執筆、Web制作、SNSの運用、PR業務など。