Vol.559

KOTO

25 JUN 2024

華やかなイタリアの風土を感じる。グラッパとルイジギッリの写真集。

Luigi Ghirri (1943-1992)20世紀の現代写真を代表する写真家のひとり。私がルイジ・ギッリの名前を初めて知ったのは、みすず書房から出版された『ルイジ・ギッリ 写真講義』を読んだ時だった。2004年に出版されたこちらの本は、6,000円弱という高価格だったが、装丁から美しく紙は上質でページを捲っただけで気持ちが上がるようなとても美しい本である。

ルイジギッリの写真集と葡萄の蒸留酒グラッパ

イタリアを代表する偉大な写真家ルイジギッリ

帯にあるヴィム・ヴェンダースのコメントも良い
1989年から約一年半に渡りルイジギッリが大学で講義をした内容を元に作られた本である。写真の仕事に携わる私は、写真哲学や、教本をそれなりに読んできたのだが、これが読んでいて一番楽しく、心地よく、ルイジギッリの声が聞こえてくるような感覚を抱いた。

写真を撮影するという事は世界をどのように捉えるかである。写真の持つ力を知り、被写体にどう向かい合うべきか。彼の話と、洗礼された優しい写真を見ていると、また写真が撮りたくなる。この本は写真を続けている以上、ずっと持っていようと思った一冊だった。

20年経った現在においてもアート写真が好きな方、写真のプロを目指す方には必見の一冊という位置付けである。

製本の美しさ。みすず書房のこだわりと本気さを感じる
ルイジギッリの写真集はとても人気なのだが、アート写真集を買い集めるコレクターは実は世界でもあまり多く無い。そのため、写真集は数万冊も発行される事はほとんどない。重版される事も多く無いため、発行から3年も経てば入手困難となってしまう。

入手困難な写真集を紹介する事は本意ではないが、1年に一度くらいルイジギッリの写真集は発刊されているので、見つけた時が買い時である。悩んでいる間にマーケットからなくなっていたと言うのは写真集では良くあることなのだ。

今回紹介するのは、すでに入手が困難ではあるが、2017年にタカイシイギャラリーで個展を開催された時に刊行されたカタログになる。このカタログへのこだわりが凄すぎて、タカイシイさんが、いかにルイジギッリをリスペクトしているかが伝わってくる。

表紙に無駄なデザインはなく、写真作品でもない。ストーン柄のようなテクスト模様になっているため、パッとみただけでは何の本か判断が付かないだろう。ルイジギッリという名前だけが、この本のインフォメーションとなる。

日本のタカイシイギャラリーで個展を行った際に刊行された写真集
本の中は一枚一枚、右面のページに写真プリントが貼られている。この本は本物のプリントを見ているような体験が出来るのである。実はルイジギッリの作品は小さい物が多いと言われている。2L版ほどの小さなプリントが多く、あまり大きく作品を引き伸ばさなかったようだ。

小さいプリントには小さい良さがあるもので、作品を見ている者はより凝視する。パッと見ただけのインパクトは大きく無い分、ごまかしの効かない作品を出すしかない。そして凝視して心にスッと落ちた時には、忘れられない作品となり、大きな感動が生まれるはずだ。このあたりがルイジギッリの作品の上品さにも繋がっているのだと思う。

タカイシイの写真集はルイジギッリの意向を継ぎ実際にギャラリーで見ているのと同じような経験をできるような仕掛けをしているのだ。コレクターをも唸らせる素晴らしい仕事をされた一冊である。

1972-74頃にイタリアで撮られた作品

プリントが本に一枚ずつ貼られているような仕掛けがされている

ルイジギッリの集大成。この一冊を見たら写真が好きになる。

2019年にドイツの出版社MACKから発売されたThe Map and the Territoryはルイジギッリの集大成と言える、363ページで綴じられた読み応えある写真集だ。

それぞれのコンセプトに分類され、まとめられている。この一冊には一人の写真家が人生を賭けて写真という行為に真剣に向かい合い、愛し、そして悩み、生きたという事を感じる事ができる。

だから写真は良い。絵画でも映像でもなく、写真には他には変えられない魅力がある。コンセプトは言葉であるが、言葉だけでは表現できない魅力が写真にはまとわりつくのである。

The Map and the Territory表紙

街中の広告を複写したシリーズ

2024年MACKから新刊が発売

今年はドイツの有名な出版社MACKから新書が出版されている。まだ入手するのは難しくないが、いつ入手困難になってもおかしくない。本屋で見かけたら是非購入されることをお勧めしたい。

内容はイタリアの街をミニチュアで再現したテーマパークを撮影した作品である。ルイジギッリの視点と作られた街の違和感が混じり、不思議な世界にトリップしていく。

観光客を比喩している印象はなく、やはり心地よく温かい気持ちで眺めることができる。本の後半はテーマパークを創設したデザイナー、イヴォ・ランバルディの公園設立のための計画やメモが掲載されている。開園から50年以上経つ現在でもイタリアではインスタ映えスポットとして人気のあるテーマパークだ。

2024 MACK 新刊 ITALIA IN MINIATURA

ITALIA IN MINIATURAより

イタリアの写真に合わせてグラッパを頂く。

ルイジギッリの写真集とグラッパが合わないはずがない。今回はグラッパを飲んだ時に、ルイジギッリを読みたくなった。

グラッパはワインを作る際に生じる葡萄の搾りかすから作られるイタリアの蒸留酒で、食後酒として飲まれる事がある。透明のグラッパは若く、琥珀色のグラッパは樽熟成されたものである。

グラッパとルイジギッリの写真
琥珀色のボトルはグラッパの有名ブランド、ベルタのエリージ 3種類の葡萄を3年から10年熟成させブレンドされている。さすがベルタ。バランスが良く、優雅で華やかな葡萄の香りがする。飲んだ時は上品な優しい甘みと食用菊のようなビターさがある。

天気の良い休日、あかるいうちから飲みたくなるようなお酒だ。

熟成感のある琥珀色も綺麗

INVECCHIATA は熟成タイプという意味にあたる。アルコール度数は43%
透明な色をしたグラッパは品質の良い赤ワインが作られる事で有名なバローロで作られたグラッパだ。バローロはネッグローネ種を使い醸造されるので、グラッパもネッグローネが使用される。今回紹介したのはロレンツォ インガのマイ・グラッパ・ディ・バローロだ。

このグラッパは、何といってもコスパが良い。二千円台で購入をする事が出来るため、手にとりやすいだろう。熟成グラッパに比べて、アルコール臭も感じるが、ベリーっぽい香りもある。ベリー系のドルチェやティラミスなどと一緒に飲むのはオススメだ。またソーダ割りやロック、エスプレッソに入れて飲む、カフェコレットという飲み方もある。安価なグラッパだけに、色々な飲み方を楽しむのも良いだろう。

2千円台で買えるバローロのグラッパ
やはり素晴らしい写真集を開きながら、その土地を感じるようなお酒を飲むというのは、心地が良く、贅沢な気持ちになるものだ。

何も考えず、ただ眺めるだけで気持ちが良いルイジギッリの作品

イタリア、フィレンチェでの風景。筆者撮影。
ルイジギッリの気持ちを想像しながら、写真に写っている風景の風や匂いを想像する。音楽が好きで、多くのレコード撮影もしてきたルイジギッリ。写真講義にも記載がある、ルーチョダッラや、ボブディランを聴きながら楽しむのも良いだろう。