Vol.509

KOTO

02 JAN 2024

スモーキーなスコッチを共にアート写真集で70年代アメリカをロードトリップ。

カラー写真のパイオニア。アメリカ写真史の重要な存在でもあり、世界のフォトグラファーの中で常に人気がある巨匠ウィリアム・エグルストン。カラー写真が一般的に普及し始めたのは1970年代頃で、当時は保存性やクオリティの問題があり、カラー写真を作品に使われる事は稀であった。

70s’アメリカ南部ニューカラー写真の始まり。ウィリアム・エグルストンの旅

ウィリアム・エグルストン2 1/4とラガブーリン8年
76年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開かれた、ジョン・シャーコフスキーによってウィリアム・エグルストンの個展が開かれた。これを機にカラー写真がアート作品としての可能性が浸透していった。その後カラー写真を集めた、「ザ・ニュー・カラー・フォトグラフィ」がニューヨークで開催され、現在でもニューカラーとしてジャンル分けされる語源の元となった。

ニューカラーの定義は曖昧になってしまうが、ただカラーで撮影するという区分けではなく、中立的な立場で客観し、記録的に決定的瞬間とは異なる、普遍的な風景を撮影する。また事象よりも空間の色合いなどに着目する。

上記の通りとは限らず、時代として区分する事や、アーティストで区分することもあるため曖昧になるが、ウィリアム・エグルストンのような写真という事で間違いはない。カラー写真という事に関しては、ウィリアム・エグルストンは代名詞的なアーティストであり作品は色彩感覚、構図、当時のアメリカの時代背景が交わり、芸術性が高く、現在でも写真集が出ればすぐに売れるほど人気を維持している。

黄色いトーンが印象に残る。
その他のアーティストでは、わずか14歳にMOMAに作品を所蔵され、17歳の頃にアンデーウォーホールのファクトリーに毎日出入りしていた天才スティーブンショアもニューカラーの代表アーティストだ。

ロバートフランクとの仕事がきっかけで写真の仕事を始めた、ジョエルマイロウィッツ、環境問題に意識を向け客観的な風景を撮影するリチャードミズラック。ニューカラーのフォトグラファーは今でも一線で活躍している人が多く、人気が高い。

最も有名な写真史に残る写真集 William Eggleston’s Guide

William Eggleston’s Guide
MOMAで個展を開催された時の図録、William Eggleston’s Guideは写真史に残る有名な写真集となった。ローアングルから撮影された三輪車の写真は印象に残る写真だ。過去にはオークションに出たときには6,000万円以上で落札されている。

エグルストンのカラープリントはダイトラストファー印刷という特殊な技法でプリントされているため、発色が特徴的だ。

東京でエグルストンの生プリントをお目にかかる機会は少ないが、東京都写真美術館が所蔵している為、数年に一度企画で展示される事もある。本物を見る事があれば、ラッキーな事である。少し遡ると2005年には原美術館で個展も開催され、その時の図録では、パリと京都を撮影した写真も見る事が出来る。

パリの写真だけで構成された写真集にデッサンも見る事ができる。エグルストンに視点がいかに色彩に注目しているかが垣間見える。現在日本で生プリントを見る機会は少ないであろうが、展示される機会があれば足を運ぶ価値はあるだろう。

原美術館と図録左と写真集PARIS右

世界一美しい本を作るゲルハルト・シュタイデルとエグルストン

生プリントではなくても、エグルストンの写真集はこだわった作品が多い。世界一美しい本を作る男として2010年に映画化されたSteidlからの出版も多い。

例えばポラロイドカメラSX-70で撮影された写真のみで構成された本は、写真部分だけ光沢があり、まるで本物のポラロイドか貼ってあるかのような特殊印刷が施されている。他にも8ページのみで構成されたMorals of Visionはプリントが台紙に貼られているという作りになっている。

写真集を作る側の本気のこだわりも強く感じる。全体的に写真集を買った時の満足度は高いと思う。これほどの大物が作る写真集でも初版は1,000部から5,000部程度しか発行されない事が多くある。Polaroid SX-70も含め新書では入手が困難だ。古本でも定価以下で入手することは難しいだろう。ただ新しく出版される物もあるので、気になれば早めに購入をするのが良いだろう。

Steidlから2023年12月頃から販売されているMystery of the Ordinaryはおすすめだ。ベルリンで個展をした時に創刊された最新作の写真集で、エグルストンの過去の有名な作品が多く掲載されている。

Polaroid SX-70 光沢部分は手触りが違う

MYSTERY OF THE ORDINARY / 予約してから1年後に届いたSteidlの新作

美しきアイラ島、アイラの巨人と呼ばれるウイスキー

ウイスキーはアメリカの風景であればバーボンと合わせて飲むのも、もちろん良いのだが、私が合わせて飲みたいのはアイラ島のウイスキー、ラガブーリンだ。ウイスキーの島と呼ばれるスコットランドにあるアイラ島。自然豊かな小さな島に9つの蒸留所がある。どこも個性が強く有名な蒸留所である。その中で巨人と呼ばれるラガブーリン。濃厚でずっしり、余韻に残る正露丸のようなピート。パワフルで力強いのが特徴だ。

スコットランドのアイラ島。美しく小さな島
アイラ島ではウイスキーの原料を燻すためのピートが多く取る事ができる。ピートは植物が数千年かけて蓄積された泥炭で、島の自然がギュッと濃縮された天からの恵みの土だ。

そのピートを使い麦芽を乾燥させるためアイラ島のウイスキーはスモーキーな香りがする物が多い。もちろんピートを使わずに完走させたノンピートと呼ばれるウイスキーもアイラでも作られている。
ラガブーリンはアイラウイスキーの中でも特にピートが強い。好みが分かれるところだが、クセになる可能性は高いだろう。

ラガブーリン16年、グラスに痕が付くのは糖度が高いため
ラガブーリンは8年と16年がオフィシャルのスタンダードとして販売されている。

16年は終売になったとの噂が広まり、2021年頃から品薄となり入手する事が困難だったが、どうやら本当に噂話しだったようで現在は供給が安定してきていて、入手出来るようになっている。ラガブーリンと言えば16年というほど、16年は熟成されただけ芳醇で素晴らしいウイスキーである事は間違いない。

8年はウイスキーブームにより世界的に原酒不足だった事もあり、近年に発売された。16年に慣れていると8年では物足りないのではないかと思っていたが、初めて飲んだ時は、想像を超え美味しくて驚いた。しっかりとラガブーリンらしさはあり、果樹感が心地よくベリーな香りも際立ち、16年と優劣が付けにくい完成度である。

左が8年、右が16年、熟成年数で色が違う

重ねた時間のペアリングで時を旅する

ウィリアムエグルストンとラガブーリン。通称アイラの巨人とアメリカの巨匠、ダンディーな組み合わせだ。

ページをめくりピートの効いたウイスキーの香りに包み込まれる時。仕事のことは忘れ、70年代のアメリカをゆっくりとロードトリップしている感覚は、なんとも言えない幸福な時間である。

写真集を見ながら謎解きをする必要はない。ノスタルジーなのか、色彩の魅力なのか、憧れなのか。感じるままに身を委ねれば、幸福な時間が約束されるだろう。

William egglestons Guide より
ウィリアムエグルストンはカメラを持って出かける時はジャケットを羽織ってスーツ姿で出かけているとの事だ。フォトグラファーとしては珍しいスタイルだろう。その姿勢、品位が作品に出ているのだろう。

Harmony Korine/ Juergen Teller William Eggleston 414より エグルストンの写真
エグルストン本人はウイスキーも煙草も好きなようだ。もちろんスモーキーなラガブーリンにはシガーも合う。

ドミニカのシガー、プリンシペ
たまにはジャケットを羽織ってシガーバーにラガブーリンを飲みに行くのも、リッチな気分がして良いものである。

ウィリアムエグルストンからの影響を受けた筆者作品