Vol.337

KOTO

10 MAY 2022

自由に生きるために大切な視点は?ニューヨークで見つけたヒント

日々の暮らしにおいて、閉塞感や不自由さを感じることはあるだろうか?「すべてを自分で決めたい」「ある程度制限がある方がいい」など、人によって求める自由の度合いはそれぞれだが、日本では一般的に後者の自由を求める人が多いかもしれない。しかし、もし今の自由さがもの足りないと思うのなら、「自分にとって最適な自由」を探りなおすことも大切だ。それが、自分らしさを体現することにもつながるはずだから。
そのヒントを得るために筆者がコンタクトを取ったのが、2020年からニューヨークに暮らすMiki Yamatoさん。フォトグラファーでありスタジオ経営者というバックグラウンドを持つ彼女に、現地で撮影した作品を紹介してもらいながら、ニューヨークらしいライフスタイルや、軽やかに生きるための考え方を語ってもらった。

チャンスを掴みに、ニューヨークへ

Miki Yamato
ファッションフォトグラファーとしての活動を軸に、日本ではスタジオオーナーとしても活動してきたMiki Yamatoさん。初めてニューヨークへ行ったのは18年前。それ以来毎年のようにこの街を訪れ、2020年の12月にはついにニューヨークのブルックリンへ拠点を移したそう。

ラグジュアリーブランド「O91O」(instagram @0910)2019年のLOOK BOOK写真。Mikiさんは、大手ファッションブランドだけでなく、エシカルな取り組みをしているブランドに共感し、積極的に関わるようにしている

街中で撮影するときは、持ち運びやすいミラーレスカメラ。レンズは、Mikiさんの祖父が40〜50年前に購入した、形見のCanonフィルムレンズを愛用
現在彼女は、ニューヨークで撮影した街や暮らしの様子、アートやイベントなどをInstagramで発信中。ニューヨークの街やそこに暮らす人々の価値観、感じたことを写真と文章で伝えている。今回は、Instagram未発表の写真を中心にピックアップ。Mikiさんが捉えた、リアルな街の様子を教えてもらった。

ニューヨーカーらしい「自由なマインド」

長年旅行でニューヨークを訪れていたMikiさん。住みはじめてから、ニューヨーカーたちが持つ自由の感覚が、より高い解像度でわかるようになったという。

「ニューヨークでは2021年7月1日にロックダウンや制限措置が全面解除されたけれど、これまでの自由が許されない状況下でも誰にも何にも縛られない感覚を持っている人が多いなと思って。だからこそ順応性も高くて、制限された暮らしの中でも『じゃあこうすればいいよね』って、その時にベストな楽しみ方を上手に見つけていくの」とMikiさんは語る。

さらに、「みんなすごく真面目で、公共の場でマスクルールをちゃんと守る人が大多数。ワクチン接種が始まった時も、『みんなで自由を得るために頑張ろう』って協力的だったのが印象的だった」と、意外な一面も発見したそうだ。このように、自由を大切にする一方で、社会や自己に対しての責任感を強く持つことも大切なのだ。
※以下、キャプションはMikiさんのコメント。

「この写真は『ホームアローン2』の舞台にもなったロックフェラーセンター。ニューヨークの冬はとても寒いけれど、それぞれの楽しみ方で過ごすの。スケートリンクはニューヨークの冬の風物詩で、ブライアントパークも有名。日本と違って子どもよりも大人たちの方が多くて、みんな楽しそうに滑っていたよ」

CHANNEL FLEXが開催しているダンスコンテスト。(@channel_flex_)
「ストリートカルチャーからも自由なマインドを感じる。たとえばダンスコンテストも、賞金めがけて頑張るというより、新しく習得したトリックを披露したり、仲間同士で交流したり、楽しむことの方が大切にされていて。写真を撮っていても、『何をしているの?』って気さくに声をかけてくれるの」


自分らしさを全開にできる。アーティストにとっては最高の街

「コーヒー屋にいる人に片っ端から声をかけたら、みんなアーティストだったってこともある」というほどアーティストが多いニューヨーク。実際に、Mikiさんが住むブルックリンのブッシュウィックも、若いアーティストが集まるエリアだという。

「ニューヨークでは、アートは日常の一部。美術館だけでなくギャラリーもたくさんあって、時間さえあれば見に行っているし、グラフィティも街中にあたり前にあるから、自然とアートに触れているという感じ」と、だいぶアートのハードルが低い様子。アーティストは活動するエリアによって作品のジャンルや人種、年代まで違うそうで、Mikiさん自身、少しずつ交流の範囲を広げているそうだ。

「街中のアドバタイズメントも、ポスターだけでなく壁に描いているものが多い。一見写真に見えるほど、クオリティが高いんだよね。昔は『グラフィティがあるところは治安が悪い』と言われていたりして、地下鉄もグラフィティだらけだったりたけれど、今は綺麗に整備されていて。街のグラフィティはアートとして認められる様になったと思う」

「ニューヨークといえばメトロポリタン美術館やMoMAが有名だけど、私のお気に入りはグッゲンハイム美術館とブルックリンミュージアム。小さなギャラリーは会期が短いから、頻繁に足を運ぶよ。ニューヨークに住むようになってからは、アブストラクト(抽象)作品に興味を持つようになった。制作の経緯や作品の意図が面白いの」

「ここは近所にあるお気に入りのギャラリー。ここはすごくローカルに根付いていて、近くのお花屋のお花を展示販売していることもあるの。私はここのオーナーがすごく好きで、行くたびにおしゃべりするんだよね」

「ニューヨークで一番ギャラリーが多いエリアはチェルシー。私はよくギャラリーオープニングで撮影するんだけど、アーティスト本人に会えるから作品のことを色々と聞けて楽しい。アートラバーはもちろん、タダ酒を飲みにくる人、ボロボロの服を着た大物のアーティストもいたりしておもしろいよ」

頑張るぶん、心地いい場所をつくることも大事

チャンスを求めて、世界中から若者たちが訪れるニューヨーク。ハッタリでもいいから「できる」と言わないと仕事が得られないほど、競争も激しい。Mikiさん自身も、ニューヨークに来てから今まで以上にアグレッシブになったという。

「ここでは、年齢、性別、国籍よりも作品の良し悪しが物をいう。待っていてもチャンスは来ないから、オンの時はすごくテンションを上げて人と接する必要があるんだよね」と、公の場では攻めの姿勢が欠かせないと語るMikiさん。一方でオフの時はすごく静かに感じてしまうほど、ギャップが激しいのだとか。そんな中で自分らしさを保つためにも、作品制作に打ち込んだり、友だちや近所の人たちと心温まる交流をしたりしているそう。

「これは写真に撮った何気ない瞬間を線でなぞった『絵写真』シリーズで、ロックダウン中の友達となかなか会えない時にはじめたものなんだけど、描いていると日常で見たものを自分自身とシェアするような感覚があるんだよね。ここはリトルイタリーっていう地区の光景」

「ニューヨークは別の国から移り住んできた人が多いぶん、みんな理解があって優しいんだよね。困ったときはお互いに助け合おうっていう精神があるから、孤独感はあんまりなくて。アパート内にもコミュニティがあって、同じアパートの人たちで飲みにいくこともある。11月は家族で集まるサンクスギビングデーがあるけれど、その日だってひとり身の人たちで集まって食事会をしたよ」

世界中からユニークな人が集まるこの街で、しなやかに自分の殻を破る

コロナ禍以降にスタートした移動サーカス。ベッドスタイというローカルなエリアで、参加者は椅子持参だったそう
実際に住むと、社会生活の根本的な考え方がとても真面目だったり、自己主張しないと開花できないシビアな一面もあったりするニューヨーク。より多くの自由を求めるならば、自分や社会に責任を果たせるだけの自立心も必要なのだと思い知らされる。一方で、誰よりも頑張らなければいけないぶん、ニューヨークの人々はあたたかな交流やユーモアも大切にしている。そんな強さと柔軟さを混ぜ合わせたマインドがあるから、アーティストも自由に生き生きと過ごせるのだろう。日本で暮らす私たちも、生き方における剛柔のバランスを今一度見直してみるといいのかもしれない。

Miki Yamato

フォトグラファー。1996年より写真を撮り始める。2011からは東京都内にスタジオをオープンし、スタジオオーナーとしても活動。2020年末よりニューヨークに拠点を移し活動の幅を広げている。

https://www.instagram.com/miki.yamato

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