Vol.295

KOTO

14 DEC 2021

完全食だけで生活可能な未来がくるのだろうか。生きるための栄養と食べる楽しみを考える

飲むだけで、食べるだけで手軽に1食あたりの必要栄養素を摂取できる「完全食」をご存知だろうか。時間短縮やダイエット、健康のため、動物性たんぱく質を避けるため――目的はさまざまだが、完全食を取り入れる人が増えている。手軽に栄養を補給できる完全食は、現代人の未来を支える食品となるのだろうか。その可能性を探っていきたい。

完全食だけで生活可能か。完全食という言葉の意味とは

雑穀や種を生地に練り込んだ、栄養豊富なシリアルパン
完全食は、その食品を摂取するだけで1食あたりに必要な栄養素を摂取できるとされている。玄米や卵などを栄養バランスに優れた食品として「完全食」と称することがあるが、ここは厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」に示された必須栄養素を含有した食品について解説する。

完全食とは

完全食とは、「健康を維持するために必要な栄養素をすべて含んだ食品あるいは食事」を指す。もともとは医学博士・二木謙三氏が昭和初期の著書にて使用しはじめたともいわれる言葉で、当時は玄米や卵のような栄養豊富な食品のことを完全食と呼んでいた。

現在では、厚生労働省が「日本人の食事摂取基準」に定める必須栄養素を含有したパンやパスタ、ドリンクなどの食品を完全食と呼ぶことが多い。また、かつて完全食と呼ばれていた玄米や卵などの食品は、現在では「準完全食」と呼ばれる場合もある。

完全食を取り入れる目的はさまざま

完全食を取り入れる人の目的はさまざまだ。ダイエット、栄養補給、忙しいときの食事の代用などはもちろんのこと、宗教や思想の理由で食事制限のある人、食物アレルギーのある人の食事としても完全食が取り入れられている。

現代人の食事は脂質が多く、ビタミンやミネラルが不足しがちだ。完全食は単純なカロリー制限や食事の時間短縮だけではなく、栄養摂取に悩む人が手軽にバランスのよい食事を得られる食品としても注目されている。

わたしたちが生きるために必要なエネルギーとは

健康的な生活を送るためには栄養バランスが大切
わたしたちが健康的な生活を送るためには、一定量のエネルギーと栄養素を体内に取り込むことが必要になる。それらを摂取できるのであれば、完全食だけで生活することも可能なのだろうか。詳しく見ていこう。

厚生労働省が定めた日本人の食事摂取基準

厚生労働省は、日本人に必要な食事摂取基準を定めている。このデータは日本人全体の体重や疾病の状況、死亡率などを分析して5年に一度改定されているもので、最新データは2020年版だ。
参照
現代人の食生活は、塩分や脂質、糖質が多くなりがちだ。また、極端な糖質制限やカロリー制限を行っていたり、忙しさに追われて食事の時間をとれなかったりする人々にとって、理想的な食事摂取基準を満たすことは非常に難しい。不足した栄養素は健康食品やサプリメントで補給が可能だが、自分に今どんな栄養素が不足しているのかを把握している人は少ないだろう。

生きるために必要な食事とは

食事摂取基準を満たすため、健康食品やサプリメントのみで健康を維持できるだろうか。たしかに、必要な栄養素をカラダに取り込んでいれば生きることは可能かもしれない。しかし、わたしたちが食事をするのは栄養を補給するためだけではない。毎日サプリメントを摂取し、日本人の食事摂取基準を満たせたとして、はたして健康といえるだろうか。

食事には生命維持のためだけではなく、生きる楽しみや喜びを実感するという目的もあるはずだ。おいしいと感じること。見た目で楽しむこと。誰かと食事の時間を共有すること。そういった楽しみを含めた食事もまた、「バランスのよい」食事と呼べるのではないだろうか。

完全食だけではない、バランスのよい食生活の考え方

完全食は多数の企業が開発に力を入れている
完全食は今、多数の企業が力を入れて開発をしている。パンやパスタ、ドリンクなど、味も見た目もよいものが次々と登場し、SNSでも口コミが投稿されている。

これまでの健康食品やサプリメントは味気ない商品が多く、空腹を満たせないため、継続して摂取するにはやや苦痛を伴うものだった。しかし最近の完全食はおいしくてお腹も満たされるため継続しやすい。毎日のパンやパスタなどの炭水化物を完全食に置き換えるだけで手軽に栄養素を取り入れることができるだろう。ここでは完全食の上手な取り入れ方を紹介する。

食事の補助として取り入れる

手軽に栄養バランスをととのえられる完全食だが、1日3回の食事をすべて完全食にすることはおすすめしない。完全食の中には、1日3回摂取すると、かえって栄養素の摂取上限を超えてしまう食品もあるためだ。

また、完全食は1食あたりのカロリーを400kcal以下におさえた商品が多い。つまり、完全食だけを1日3食摂取しても1,200kcal程度しかエネルギーを摂取できないのだ。たとえば一般的な成人男性(18歳から49歳で活動量が少ない人)に必要なカロリーは2,300kcalなので、完全食だけでは圧倒的にエネルギーが不足してしまう。女性の場合でも18歳から29歳で1,750kcal、30歳から49歳で1,700kcalが必要だ。さらに、活動的な仕事をしている人にはもっと多くのエネルギーが必要になる。完全食だけでは生活のための活力が不足してしまうだろう。

完全食は、メインの食事の補助として、または食事の一部と置き換えるかたちで取り入れることをおすすめする。朝食だけ、忙しいときだけにするのも有効な活用方法だ。

現代人の栄養不足を手軽に補う

忙しい日々のなかで、1日3食ゆっくり食事をとる時間を確保できない人もいるだろう
完全食として販売されているパンやパスタを上手に活用すれば、手軽に栄養バランスのよい食事がととのえられる。たとえば朝食を完全食のパンやパスタに置き換えるだけで、1日に必要な栄養素の一部を摂取できる。また、ドリンクや粉末タイプなら、朝食をとる習慣のない人も手軽に取り入れられるのではないだろうか。

パンを中心とした献立で栄養バランスをととのえようとすると、サラダとスープを合わせ、たんぱく質としてチキンやソーセージを添えて……と、意外に手間がかかるもの。完全食のパンがメインであれば、あとはコーヒーを添えるだけでも朝食として成り立つだろう。お好みのジャムやチーズで味の変化を楽しむこともおすすめしたい。

パスタも同様に、通常のパスタにパスタソースをかけるレシピでつくったものであれば、脂質が多く栄養バランスが偏りがちだ。そのうえ家でつくるパスタには副菜を添えないことも多く、バランスの悪い食事になってしまう可能性もある。その点、完全食のパスタにはあらかじめ栄養素が含有されているため、ワンプレートで栄養バランスのととのったパスタを楽しめるのが魅力だ。付け合わせの野菜やたんぱく質などを気にしなくてよいので、調理がぐっと楽になるだろう。

食べることによる楽しみや機能を損なわないようにする

料理をしたり食べたりすることは生きる楽しみの1つになることも
完全食を生活に取り入れるときには、食べる楽しみを忘れないようにしたい。パンの場合は付け合わせを変えてみたり、ハムやチーズをはさんでみたりと、少し手間を加えることでより楽しく味わえるだろう。

また、ドリンクタイプの完全食を取り入れる場合は、咀嚼力の低下に注意しよう。咀嚼には胃腸のはたらきをととのえたり、脳のはたらきを活発にしたりする効果が期待できる。また、しっかりと咀嚼して食事をとることで、満腹感や食事の満足感を得やすくなるという研究結果もあるという。1日1回は固形物の食事を取り入れたり、ドリンクタイプの完全食と一緒に軽食をとったりするとよいだろう。

完全食をうまく取り入れて、栄養だけにこだわらない豊かな食生活を

栄養と食の楽しみは、生活するうえでどちらも大切な要素
完全食だけで生活することが可能かどうかは人によるのだろう。たしかに完全食だけでも栄養バランスはととのえられるかもしれないが、選び方によってはエネルギーが不足したり、食べる楽しみを損なったりするおそれもあると筆者は考える。

しかし、手軽に栄養バランスをととのえられる完全食は、忙しい現代人の強い味方となってくれる。完全食を活用した生活に興味がある人は、まずは朝食の代用としてうまく取り入れて、楽しい食生活のサポート役にしてみてはいかがだろうか。