予防医学が日常に浸透した香港の人々の食事
オンラインショップで購入できる食材は最小単位で110円から。聞いたことのある食材から、味の想像がまったくつかないものもあるが、まずは気軽に試せる量・価格に設定されている。
薬膳の知識がなくても自分に合った食材が買えるよう、体質別にリコメンドしてくれる機能もある。
「香港のスイーツは、甘さ控えめで、あたたかいお汁粉のようなものが多いです。詳しく調べると、スイーツに限らず、香港では日常的に薬膳・漢方の考え方が根付いている。季節や体調に合わせて食材を選ぶことが当たり前になっているんですよ」
さらに、香港と日本ではスイーツの存在感が異なるという。
「日本人にとってスイーツは、あまりたくさん食べてはいけないものというか、どうしても罪悪感が伴ってしまう人も多いと思うんです。でも香港では、スイーツも体にいいから食べるものだと考えられています。せっかくおいしいものを食べるなら、体にいいものとして食べたいですよね。香港ではそれがごく自然なこととされています」
漢方には、「薬」「苦い」「美味しくない」というイメージもつきまとう。しかし予防医学が発展した香港では、日常的に体に取り入れるものとして漢方が浸透している。日本で言われている漢方とは、中国で発展した中医学のこと。しかし中国は広く地方によって採取される植物は異なる。香港漢方は中医学のひとつのジャンルで、香港ならではの食材を使ったような処方がされることもあるそうだ。例えば暑い気候に合わせ、熱を下げる食材が多く使われている。
「街中を歩くと、ところどころに漢方茶スタンドがあります。今日はちょっと喉が痛いから、悪寒がするから、という気軽な理由で漢方を摂取しています。日本は基本的に西洋医学の考えが浸透していますよね。症状にアプローチする薬を飲んだり塗ったり。香港の人たちはその逆で、大病になる前の予防を中心とした食生活をしています」
薬膳を美味しく試せる、養生スープキット
これらの食材は、ホームページからそれぞれ単体で購入することも可能だ。
一口啜って、その多彩な味わいに驚いた。調味料は塩しか使っていないというのに、甘みとコクが味覚を潤していく。緑がかった透明なスープ。この中に様々な栄養が溶け込んでいると考えると、1滴残らず飲み干したい気持ちになる。
特に驚いたのは紅棗の優しい甘さ。スープに溶け込んだ甘味の正体である。砂糖のような強い甘さではなく、果実のようなふんわりとした甘さで、とても美味しい。こんなに小さな実が、スープの味に大きく影響していることにも驚いた。
「お客様の中には、薬膳を続けることで体が変わっていくことを実感してくださる方がいらっしゃいます。例えば生理前の頭痛やイライラが少し軽くなったとか、体が暖まったとか、便通がいいとか。1回食べればすべてが改善するというものではないので、最低でも3ヶ月間継続して食事に取り入れていくといいと思います。価格も、日常遣いできるくらいの手頃さを意識して設定しました」
自分にあった薬膳を選ぶ
薬膳に対する警戒心が解かれたという大きな一歩を踏み出せたのだろう。さすれば次は、自分に必要な食材をどう選ぶかが課題になる。キットからもう少し踏み込んで、ライフスタイルに沿った薬膳をはじめたい場合は、どのようなことから取り組むべきなのだろう。
「食材をそのまま食べられるものを選び、スナック感覚で取り入れてみるのがおすすめです。クコの実や棗(なつめ)は手軽に始められます。料理に挑戦するなら、まずは旬のものを食べるということが始めやすいですね。自然界にあるものは、その季節に必要なものなんです。例えばトマトとかきゅうりは、夏に体の水分を補ったり体温を下げたりするのに役立ちます。本来食材に備わっている機能をうまく活用してみてはいかがでしょう」
食材を選ぶときには、甜蜜蜜のウェブサイトにある「体質別に探す」というリンクから最近の体調にあった食材を選べる。今回の取材では、舩原さんに直接、筆者に必要な食材を教えてもらった。
「気が不足している状態だと思います。気が不足すると全身に栄養を運ぶ働きが弱ります。気を補う食材が必要ですね。例えば穀物、サツマイモ、山芋などです。また、肝を養って気を巡らせるのが大事。花茶と呼ばれる、お花を使った中国茶がおすすめです。それから、肝と深いつながりを持っている目を養生するのもいいでしょう。目を長時間使う人は、血をたくさん消耗します。それで肝が弱ってしまうんですね。目や肝に効くクコの実を取り入れてはいかがでしょうか」
おすすめされた通り、さっそくクコの実と花茶を取り入れてみた。「PC作業が続いていたから、これを食べよう」と、自分で選択できることが気持ちいい。明確な不調があるわけではないけれど、体にいいことをしているという実感が、自分自身をもっと元気にしてくれるような気がした。
取材から少しの期間、薬膳を取り入れた生活を続けてみた。自宅で作業をしているとちょっとつまみたい気分になることがあるが、それをクコの実や棗に置き換えたり、薬膳スープを作ったりしている。
以前より圧倒的に変わったと感じるのは、体が重たいような日が減ったことだ。薬膳を取り入れるようになってからは、パンよりもご飯を選ぶようになったし、砂糖や小麦粉を使ったお菓子を手に取ることも少なくなった。一言でいえば、なんかすっきりしている気がする。そういう状態が続いている。
体にいいものを食べているという実感が、気持ちを満たしてくれているのかもしれない。薬膳は体を整えると共に、心も整えてくれるのだろう。