渋谷に通い慣れた感度の高い大人たちを中心に、人気を集める奥渋谷。2018年12月8日、同エリアにオープンした「WAGAMAMA TOKYO(ワガママ トウキョウ)」は、 “我儘を表現する”というユニークなコンセプトを掲げるセレクトショップだ。
一般的に多くの人々は、社会生活を円滑に営むために、“我儘”に振る舞わないよう心がけているはずだ。一方、“我”を通すことで身を立てているのが、「WAGAMAMA TOKYO」オーナーの中村勇貴(なかむら・ゆうき)氏だ。そこには、彼ならではのエゴに対する美学があるのではないか? 話を聞くために店舗へ足を運んだ。
厳選のアイテムが並ぶ静謐(せいひつ)な空間
これまでに、「RAINMAKER(レインメーカー)」や「SUN/kakke(サンカッケー)」、「KUON(クオン)」などといったブランドとコラボレーションし、ここでしか買えない別注アイテムを展開してきた「WAGAMAMA TOKYO」。衣服だけに留まらず、「The Fabulous Sounds Outfitters(ザ・ファビュラス・サウンズ・アウトフィッターズ)」から買い付けたというヴィンテージジュエリーや、家具なども販売している。
筆者が店舗の存在を知ったのは、アパレル広報やファッション雑誌のエディターから、オープンの話を聞いたことがきっかけだった。オーナーである中村氏の審美眼と商品ラインナップは、いわゆる業界関係者からの注目度も高い。
半地下物件を利用した「WAGAMAMA TOKYO」。静謐な雰囲気漂う店内は天井が高く、外から見た印象以上に広々とした空間だ。むき出しの鉄骨にハンガーラックを吊り下げるディスプレイ方法は、手軽に配置を変えられる上に、清潔に保ちやすいという。
ステンレス製の医療用什器と「HERMÈS(エルメス)」のヴィンテージジュエリー。文字の組み合わせだけを見ると奇妙に感じられるかもしれない。しかし、それをディスプレイとして見事に成立させられるのは、彼の美意識が成せる業だろう。
点描画家・bananayamamoto氏によるイラストや、スケートボードデッキと一体化した、「dajac(ダジャック)」のスピーカーユニットも目を引く存在だ。店内ディスプレイかもしれないが、ついつい「これは売り物ですか?」と尋ねたくなるような魅力を放っていた。
“買い物文化”存続を目指してオープン
前述の通り、“我儘を表現する”というコンセプトのもと商品をセレクトし、店舗を作り上げた中村氏。店舗作りの原点や、我儘を貫くことで世の中に伝えたいことなどについて尋ねた。
店舗オープン以前の話を聞かせてください。
僕がファッション好きになったところから話すと、中学1年生の頃に女の子に着ている服をバカにされたのが原点です(笑)。その悔しさをバネにファッション誌を読み漁って学ぶようになり、高校3年生の頃に自分の店を持つことを志しました。その経験もあって、大学ではミクロの観点でショップ運営について学べる経営学を専攻。卒業後は、とあるアパレル関連企業に就職し、5年間勤めました。センスだけに頼らずロジカルに損益計算ができる会社での経験が、今の店の経営に活きていると思います。
店舗をオープンした理由は?
この店を立ち上げたのは、僕が大の“買い物好き”で、お客様にも買い物を楽しんでもらいたかったから。本来買う予定がなかったものを、購入しようか悩むことこそ買い物の真髄だと思うんです。それが起こり得るのは実店舗だけです。
インターネットで服を買うことについてどう思いますか?
現在アパレル業界全体でECサイト(※)の売り上げが多くを占めるようになり、お客様は自宅でくつろぎながら、インターネットで際限なく服を見られるようになっている。その結果として、実店舗では服が売れなくなり、生産する服のクオリティを下げざるを得ない状況が生まれていると、アパレル関連の企業で働いていた時に実感しました。そんな負のスパイラルが続けば、アパレル業界に限らず“買い物文化”が終わってしまうのではないでしょうか。
僕の考えでは、お客様にとってECサイトにおける買い物は、予定調和でしかない。買い物で大切なのは、「予想していなかったモノを買っちゃった!」という、予定調和ではない感動です。そんな“買い物文化“が好きだからこそ、ECサイトではなく実店舗を立ち上げることにしました。
我儘を貫くことでブランドの力を高める
お店のコンセプトについて聞かせてください。
僕が行きたいと考えるのは、“そこでしか買えないアイテム”を売っている場所です。それがお客様を動かす、最大の原動力だと考えています。だから当店で販売しているのは、別注商品からヴィンテージジュエリーまで全て1点モノ。その上で僕は、「やれたらやる」とか「検討します」みたいに曖昧な言葉を信用しません。 “0か100か”という目線で共に仕事をしていただける方々とだけ、関わりを持つようにしています。
別注商品を含め、アイテムをセレクトする際の観点は?
純粋に「僕が欲しいか欲しくないか」で選びます。自分が着たい商品と、販売したい商品の境目もありません。加えて他のバイヤーとの違いは、仕入れの際に値段を見ないことでしょう。
なぜ値段を見ないのですか?
世の中の99%のアパレル企業は、“ビジネスtoファッション”にしようとしているんですよ。例を挙げるなら、「この値段だったら売れそう」っていう観点がそう。自分が売りやすい服かどうか、お客様が買いやすいかどうかで仕入れた服って、ファッションじゃないですよね。本来はカッコ良いかカッコ悪いか、着たいか着たくないかの方が重要なはずなのに。
僕がやりたいのはファッションなので、値段というビジネスのフィルターは通しません。その上で、商品をどう売るかを考えるのが、ファッションビジネスだと信じています。そうして「僕が欲しいか欲しくないか」で選んだ服は、シーズンが変わったからといって価値が下がるものでは無い。だから不良在庫は抱えないし、セールも絶対にしない。福袋だって作りません。
ファッションへの投資を今より一般的に
服の販売を通じて、世の中に伝えたいことはなんですか?
世の中の人々が、ファッションに投資することを良しとする世界を作りたいと考えています。例えば、たくさん働いて稼いで、老舗ブランドの時計や高級車を購入したら、多くの人に努力の証として称賛されるでしょう。でも服ではそれがなかなか起こらない。
ファッションへの投資とは?
当店の洋服を購入してみてください。袖を通した瞬間に世界が少し変わるし、日々を楽しむモチベーションにもつながることがわかるはず。それって、老舗ブランドの時計や高級車を購入して感じられることと同じですよね。お金をかけて好きな立地の好きな物件に住むのとも同じ。ファッションに投資をすることで、長い目で見て今より高いところを目指すことができる。
ファッションに投資するという価値観が広まることで、アパレル業界全体の立ち位置の改善にも繋がると思います。そのために僕ができることは、洋服に投資したことがないお客様に、当店で服を購入してみてもらうこと。だからこそ、これから先もずっと店を続けていきたいです。
中村氏に聞く、我儘な店作りの真髄
中村氏の印象は、 “我儘を表現する”という店舗のコンセプト通り。歯に衣着せぬ物言いの裏に、一重にユニークだとまとめることができないほど、ファッションに対するひたむきな熱意が感じられた。今後は家具メーカーやレジャー施設など、さまざまな分野とコラボレーションし、さまざまなアイテムを展開していくそうだ。
下記リンク先のInstagramアカウントには中村氏の美意識が。そして、「我儘随筆」と名付けられたブログでは、画一化が進むアパレル業界への想いが表現されている。彼に共感し、「ここでしか手に入らないアイテムを手に入れたい」と感じたら、ぜひ店舗にも足を運んでいただきたい。
WAGAMAMA TOKYO
CURATION BY
犬とカレーと音楽が好きな三十路のライター。創作系スパイスカレーにハマってから、試作したカレーを冷凍庫内に余らせがち。音楽イベント「SHAKE HANDS(シェイクハンズ)」の運営メンバーとしても活動中。