Vol.220

KOTO

26 MAR 2021

免疫力を高めるセルフケア。 元サッカー日本代表・鈴木啓太が考える腸活のメリット

コロナ禍によって三密を避ける、手洗いを徹底する、マスクの着用といった感染予防策は我々の生活の一部となった。重症化リスクを低減するための免疫力アップへの関心も高まる中、今注目を集めているのが「腸活」だ。腸は栄養を体内に吸収するのが主な役割だが、最近の研究で免疫力向上にも重要な役割を担っていることが分かってきた。 では、腸活をするには具体的に何から始めれば良いのだろうか。Jリーグの名門・浦和レッズで16年に渡り中心選手として活躍し、現在はアスリートの腸内環境の解析を手掛けるAuB(オーブ)株式会社で代表取締役社長を務める元サッカー日本代表・鈴木啓太氏に話を伺った。

トップアスリートとしての自身の経験から腸活に注目するように

連戦の中で感じたコンディションと腸の関連性

現役時代の鈴木氏は、浦和レッズの中盤を支えるボランチとして活躍した。サッカーの中でも特に走行距離が長く、豊富な運動量が求められるポジションだ。2006年にクラブ史上初のJリーグ制覇に貢献すると、イビチャ・オシム監督率いる日本代表にも初招集。翌2007年にはJリーグ、ACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)、クラブワールドカップ、天皇杯、日本代表戦で計62試合に出場するなど、大車輪の活躍を見せた。

しかし自身の飛躍に伴い出場試合数も大幅に増加。選手として充実の時を迎えていたが、その一方で鈴木氏が痛感したのが「回復の重要性」だ。土曜日にJリーグを戦い、長距離移動を挟んで水曜日に海外アウェイでのACLに臨み、帰国後中2日でJリーグ、すぐに日本代表に合流…。そんな想像を絶するハードスケジュールの中で、コンディションを保つのは容易ではなかった。

「タイトなスケジュールの中でも一定以上のパフォーマンスを保つには、疲労を回復させることがとても重要でした。バランスの良い食事と睡眠はもちろん大前提でしたが、少しでも疲れを取るために他にもあらゆる手を尽くしました。その中で、お腹の調子と体全体のコンディションがリンクしていることに気付いたんです。お腹の調子が悪い時はコンディションも悪いし、逆にお腹の調子が良ければ、多少連戦が続いていてもよく走れました」

免疫力向上に直結する、腸内細菌の“多様性”

その後、鈴木氏は2014年11月に不整脈を発症。コンディションに不安を抱えながらのプレーが続く中、懇意にしていたトレーナーの紹介で腸内細菌の研究者との面会が転機となった。腸内細菌の重要性を知り、フィジカルコンディションと腸の状態が密接に関連していた自らの実体験が重なったことで一念発起。現役中に、アスリートの腸内環境の解析を手掛けるAuB株式会社を設立した。現在までに28競技、実に700名以上のアスリートの便を検体として研究。パフォーマンスとの関連性を調べる中で、健康な腸内環境の傾向も分かってきた。

「腸内細菌の中で指標となるのは“多様性”です。色んな種類の菌がいることが大事なのですが、コンディションの良い健康なアスリートたちの腸内細菌は多様性が特に高かったんです。一般の方のサンプルを見てみても、病気や疾患をお持ちの方と健康な方では、健康な人の方がより多くの腸内細菌を持っている傾向にあります。また、コロナで重篤化してしまった患者さんの腸内環境を調べている研究チームがあるのですが、その研究結果によると、やはり腸内細菌の種類が少ない傾向にあったそうです」

こうしたエビデンスからも、多様な腸内細菌を持つことが免疫力向上に繋がるという傾向がうかがい知れる。

「他にも、腸内細菌にはアナフィラキシーショックやアレルギーを抑える可能性も論文などで発表されています。腸内環境を整えると、例えば花粉症の症状が軽減されたり、食物アレルギーにも腸内細菌が関わっているという発表も出てきています。腸内細菌の多様性を高めることは、免疫力向上を含め、健康面であらゆる効果が期待できるんです」

調理師だった母親の影響で子供のころから食を通じた体調管理への関心は高かった

腸活のカギを握る2つの食品とは?

人がこの世に生を受ける前、母親の胎内にいるときは無菌だ。産道から出る際に初めて菌を取り込み、その後の食生活の中で様々な菌を獲得し、徐々に腸内細菌を増やしていく。従って、どんな食生活を送ってきたのかによって腸内細菌の種類も変わる。

では、今から腸内細菌の種類を増やすにはどのような「腸活」を行えば良いのだろうか。

「基本的にはプロバイオティクス(主に発酵性食品)とプレバイオティクス(水溶性食物繊維やオリゴ糖など)の2つを摂るのが有効です。プロバイオティクスは味噌、漬物、納豆、乳酸菌飲料やヨーグルトといった発酵性食品に、プレバイオティクスはキノコ類や野菜、海藻、こんにゃくなどに多く含まれています。古くから日本は味噌、漬物、醤油、納豆など発酵食や食物繊維を多く食べる食文化だったので、これらを摂る習慣が自然と身に付いていたんです。それが食の欧米化とともに菌を摂りづらい時代となり、病気やアレルギーも増えてきました。現代の日本人は、食事の中でこれらを意識的に摂る必要があると思います」

朝食にヨーグルトを1品加えることから始めてみては

腸活は1日1食からでも始められる

上記の食材は、特に珍しいものでもない。スーパーなどですぐに手に入れられるものばかりだ。だが、これらを毎食のように食べる習慣がついている人は決して多くないだろう。現代人は多忙だ。朝はパンのみ、昼はファーストフードなどでサクッと済ませてしまうという人も多いはずだ。そこで鈴木氏は、「1日1食だけでも意識的に食事を摂ってもらいたい」と提唱する。

「栄養面に気を配るといっても、気を遣いすぎてしまうとそれがストレスになってしまう場合もあると思います。だからまずは1日3食のうちのどこか1回だけでも、プロバイオティクス(主に発酵性食品)とプレバイオティクス(水溶性食物繊維)を含む食品を摂るようにしてみてください。それだけでかなり変わるはずです。食べたいときはジャンクフードやラーメンを食べても良いと思うんです。“じゃあその分、次の食事は気を遣おう”とか、少し気を配るだけでも全然違いますよ」

1日1食からの腸活を始めるにあたり、鈴木氏自身も実践する食習慣を聞いた。

「我が家では、朝のスープですね。野菜やキノコなど様々な食材が摂れますし、朝はあまり食べられないという人も、汁ものなら入っていきやすいのではないでしょうか。夜のうちに作り置きしておけば、翌朝は温めるだけで食べられるので、手軽でおすすめです。朝食に野菜スープとヨーグルトを食べるだけでも、立派な腸活ですよ。ヨーグルトはより多くの菌を取り込むためにも、色々な種類のものを食べるといいです。一般の方もアスリートと同様にコンディション管理は重要だと思います。日々のハイパフォーマンスを維持するためにも、無理のないところから始めてみてください」

野菜たっぷりのスープは栄養バランスの面からもベスト
体調改善や免疫力のアップにも役立ってくれる腸活。日々の食生活を大きく変えるのは難しくても、鈴木氏のように朝のスープを習慣化するなど、できるところから徐々に生活習慣に取り入れていくのが良いかもしれない。体のコンディション向上は、あらゆる面で生活の質を高めてくれるはず。新しい生活様式に加えるセルフケアとして始めてみてはいかがだろうか。

鈴木 啓太

1981年7月8日生まれ。静岡県出身。元サッカー日本代表MF。現役時代は無尽蔵のスタミナを誇るボランチとして活躍。現役中の2015年にアスリートの腸内環境の解析を手掛けるAuB株式会社を設立、代表取締役社長に就任
撮影/難波雄史(人物)、林 紘輝(料理)

AuB株式会社