Vol.199

KOTO

12 JAN 2021

プライベートな空間で「ととのう」。フィンランド式「ソロサウナtune」

近年のサウナブームにより、多忙なビジネスパーソンが「ととのい」を求めて頻繁にサウナに通うようになった。人気の施設では、混雑のあまりサウナ室の前に列ができるほどだ。そんな中、周りを気にせず1人でゆっくりとサウナ体験ができる画期的な施設、「ソロサウナtune(チューン)」が2020年12月4日にオープンした。ラグジュアリーな空間で、日々フル回転し続ける脳を休めながら、ひとりで「ととのう」。ソロサウナという新しいサウナスタイルの可能性を探ってみよう。

令和のサウナブーム

フィンランドが本場のサウナ。日本では、1964年の東京オリンピック後から全国的にサウナが普及したと言われている。一般的な銭湯やスポーツクラブにあるサウナといえば、湿度が低く高温のドライサウナが一般的だ。一方蒸気で温度を上げるスチームサウナやミストサウナ、塩を肌に塗って楽しむ低温の塩サウナ、近年はサウナストーブの上の石に水をかけて蒸気を発生させるロウリュサウナなど、さまざまなタイプが広がっている。

ここ数年はサウナ関連の書籍が次々と刊行されているほか、フィンランドまで行き公衆サウナめぐりをする人、サウナテントを購入しアウトドアサウナを楽しむ人、「ととのう」を極めたプロサウナーなどが情報サイトやSNSコミュニティで発信したことにより、若い世代のあいだでサウナブームが起こるようになった。そして令和に入るとその熱はますます高まり、ひと時代前とは異なるサウナカルチャーが発展しているのだ。

別府市鉄輪の「むし湯」
サウナのように高湿度の室内で蒸気浴をする文化は、日本にも古代からあった。じわじわサウナにハマりつつある筆者も、実際に鎌倉時代(1276年)からつづく、別府市鉄輪の「むし湯」に行ったことがある。石菖(せきしょう)という薬草が敷き詰められた石室の中で横たわり、その香りを楽しみながら温まるのだ。「日本人がサウナ好きなのは昔からなのか」と感じながら、いつものサウナとは違う日本特有の蒸気浴体験ができた。

このように、ひとたびサウナカルチャーに足を踏み入れてみると、その世界は奥深くさまざまな楽しみ方ができる。毎日のようにサウナに通い詰めて、サウナ仲間を増やす人もいるだろう。一方で、ブームであるがゆえにサウナが混雑しやすい昨今、誰にも干渉されずにサウナを楽しみたい人もいるはずだ。筆者はどちらかというと後者のタイプ。そこで注目したのが神楽坂にオープンした「ソロサウナtune」である。

神楽坂に登場。「ソロサウナtune」とは

ホステルUNPLAN Kagurazakaの1階に「ソロサウナtune」がオープン
神楽坂にオープンした「ソロサウナtune」は、完全個室のサウナ。プライベートな空間の中で、着替え、サウナ、冷水によるクールダウン、休憩が全て完結するという画期的な施設である。

事前に予約し、当日時間になったら受付へ
事前予約制のため、あらかじめオフィシャルサイトから予約しておこう。1人で入るソロサウナは60分、同性と3人まで入れるグループサウナを利用する場合、70分の利用となっている。またサウナの前後にゆっくり過ごしたい方はUNPLANの宿泊プランや施設1Fにあるカフェを利用するのもいいだろう。

施設の設計は、teamLab Architectsパートナーとしてエンターテイメント空間も手がける、建築家の浜田晶則氏。ロゴマークやサインデザインは、中小企業や教育機関などのビジュアルアイデンティティの構築を得意とする、グラフィックデザイナーのゑ藤隆弘氏が担当した。そして数々のサウナブランドやツアー、サウナ施設をプロデュースしてきたサウナ師匠・秋山大輔氏がサウナ監修を務めている。

様々な分野のプロフェッショナルが集い、誕生した最高の「ととのい」空間。さっそく体験してみよう。

シックな空間のサウナ室へ

ソロサウナが楽しめるシングルルーム
個室の中へ入ると、壁や床はダークグレーで統一され、ライティングも間接照明で明るさが抑えられている。スタイリッシュでありながら、どこか落ち着く空間だ。

3人まで利用できるグループルームは、少し広々とした設計
さらに音響面でも嬉しいサービスがある。通常スピーカーからはアンビエントミュージックが流れているが、Bluetoothを接続すれば自分の好きな音楽をかけることができるのだ。これでより自分の世界に没入しやすくなるだろう。

サウナの前に、まずはシャワールームで身を清めよう
個室の中にあるシャワールームで、まずは髪や体を洗う。サウナーたちはこのことを「身を清める」と言うらしい。水温調節が可能なシャワーヘッドからはミストのお湯が出て、やさしく汚れを落としてくれる。

サウナに入る前に、「ととのい」の状態を知ろう

サウナーたちが求める「ととのい」とはなにか
さてさっそくサウナへ…。とその前に、「ととのい」がいまいちピンとこない方も多いはず。まずはどういった状態でどのように得られる感覚なのかを知っておこう。

サウナ師匠の秋山氏とも交流がある医師で日本サウナ学会代表の加藤容崇氏によると、「ととのい」とは「血中には、興奮状態の時に出るアドレナリンが残っているのに、自律神経はリラックス状態の副交感神経優位になっている稀有な状態」なのだという。

程度の差はあるかもしれないが、リラックスしつつも頭がすっきりしていて、ゾーンに入った時のように気持ちいい感覚が得られれば「ととのっている」と言えるだろう。

受付で渡されるサウナハットも活用しよう
次に「ととのい」を感じるためには、入る順番も重要だ。基本的には「サウナ→クールダウン→休憩」を1セットとして、それを3セットほど繰り返す。その順番の間に別の行為を挟んでしまうと、「ととのい」が得られづらくなるそうだ。

「ととのい」の大枠を理解したところで、さっそく1セット目を開始しよう。ウール素材のサウナハットは、サウナの熱から髪と頭皮を守ってくれる。ダメージが気になる方は被ってからサウナ室に入ろう。

最適な入り方でサウナ効果を高める

サウナ室内
サウナ室のベンチは2段。上へいくほど高温になり、1段上がるたびに10度ほど温度があがるという。初心者は、下段から始めるといいだろう。またムラなく全身を温めるためにも、足を上げてあぐらか体育座りでなるべく体の高低差をなくす座り方がベストだ。しかしここはソロサウナ。足を伸ばし、横になってくつろぎながら入るという、ベストな入り方ができるのが嬉しい。

室内の湿度をあげるロウリュも、自分のペースでできる
「tune」のサウナはフィンランド式で、室温は70℃前後とドライサウナに比べて低温。ドライサウナの乾燥や息苦しい感じが気になる方も、快適に入ることができるだろう。また熱さが足りない場合は、セルフロウリュによって蒸気を発生させることで、体感温度をあげることができる。水をかけるとふわりと香る、白樺のアロマに癒されるはず。

サウナ室を出るタイミングはなかなか掴みづらいものだが、加藤氏によると、「脈を基準に判断するのが最も安全かつ有効」だという。個人差があるので、軽い運動をした程度の脈拍数を自分の目安にするのが良い。脈を数えるのが面倒なら、自分の目安となる脈拍と同程度のBPMの曲を調べておき、脈拍とリズムが同期してきたらサウナ室を出るのが良いだろう。

水風呂の代わりに、水シャワーを頭から浴びる。シャワーの水を首に当てるのもおすすめだ
サウナから出たら、水シャワーを浴びよう。「ソロサウナtune」では水風呂が設置されていない代わりに、400口径のオーバーヘッドシャワーで頭から大量の冷水(15℃)を浴びることができる。冷水が苦手な方は、ミストシャワーの方でぬるい水を浴び、体を慣らしてから浴びるといいだろう。息をゆっくり吐きながら少しの間浴びていると、次第にシャワーの冷たさが気持ちよく感じられる。これは皮膚の表面と水の間に冷たさを和らげる温かい層が発生するからだ。

脈拍が落ち着いたのを感じたら、シャワー室から出て、軽く体を拭いてアームチェアに座る。厳選して選んだという空調機器が非常に優秀で、室内にいながら外気浴のような心地よさを感じさせてくれる。

しばらくしたらサウナに戻り、同じ工程を繰り返す。2セット目にもなると、体の深部がポカポカと暖かく、肌をやわらかく撫でるそよ風がなんとも気持ちがいい。体がリラックスしながらも、頭の中は清々しく、「ととのい」を感じることができた。

本当のラグジュアリーを求めて

1日のうちの60分を、贅沢な時間に
たった60分だが、自分だけの空間で入るサウナは格別だ。人で賑わうサウナでは得られない次元で、心身をリラックスさせてくれた。

脳や身体のコンディションを整えるため、瞑想やマインドフルネス、ヨガなどを取り入れている人も多いだろうが、サウナは比較的容易く心身に「ととのい」をもたらす。忙しいビジネスパーソンこそ取り入れやすく、働き続ける脳をオフモードに切り替え、緊張を開放させられる。贅沢な時間というものは、食事や旅行などでも得られるかもしれないが、五感を呼び覚まし、本来の自分を取り戻した時こそ、本当に贅沢な時間を得られると言えるだろう。

ソロサウナ tune

住所:東京都新宿区天神町23−1(UNPLAN Kagurazaka1F)
営業時間:9:45〜23:00(水曜日のみ8:00〜23:00)
休館日:不定休 公式サイトに随時掲載
料金:ソロサウナ60分3,800 円(税込)、グループサウナ70分11,400 円(税込) 
※2週間前から予約可能

https://www.solosauna-tune.com/

※参考文献「医者が教えるサウナの教科書―ビジネスエリートはなぜ脳と体をサウナでととのえるのか?」加藤容崇著