Vol.792

FOOD

18 SEP 2026

余韻を楽しむ大人の時間に、日本酒の香りを残した新しい蒸留酒|浄酎

秋の夜長に、いつもとは少し違う特別な時間を過ごしたい――。そんな夜にふさわしいお酒が、「浄酎(じょうちゅう)」だ。日本酒を低温で蒸留してつくる、日本酒でも焼酎でもない、これまでにない和酒。浄酎を手がけるナオライ株式会社は、地域の中小規模の酒蔵や、原料となる米を栽培する農家と連携し、日本酒文化を新しい形で未来へつなぐ取り組みを続けている。今回は、代表取締役の三宅紘一郎さんに、その成り立ちや魅力、おすすめの飲み方を伺った。

日本酒の香りを残した、新しい味わい

グラスに氷を入れ、浄酎を注いで炭酸水で割る。弾ける泡とともに、やわらかな米の香りがふわっと広がり、すっきりとした飲み口の後に、日本酒らしいふくよかな余韻が残る。いつもと違う感覚だが、どこか知っている安心感もあり、じっくり味わいたいという気持ちになる。この一杯があるだけで、家で過ごす夜の時間が少し変わるかもしれない。

自宅でも手軽にできる炭酸割り。新しいお酒に期待が膨らむ
浄酎は、日本酒を低温で蒸留してつくる、いわば「第三の和酒」だ。ラインナップは白(White)・金(Gold)・琥珀の3種類がある。

「浄酎 White」は、香りは日本酒なのに飲み口はスピリッツという、これまでにない味わいが持ち味で、日本酒そのものの香りを楽しみたい人にまずおすすめしたい一本だ。

「浄酎 Gold」は、国産のミズナラ樽やアメリカンホワイトオーク樽でじっくり熟成させたもの。半年ほど寝かせたものから2〜3年熟成させたものまであり、年数を重ねるほど角が取れていく。「時間をかけるからこそできる丸み」があり、ウイスキーを思わせる味わいに仕上がっている。

「琥珀浄酎」は、樽で熟成させた浄酎に、農薬を使わず栽培したレモンの皮を漬け込んだもの。皮は12時間ほどかけてじっくり乾燥させ、香りを凝縮させている。レモン、樽、日本酒、3つの香りが調和しているのが特徴だ。

左から、琥珀浄酎、浄酎 White、浄酎 Gold。3本飲み比べセットも販売されている
飲み方はさまざまで、ウイスキーをたしなむように、ストレート、ロック、炭酸割りなど、好みやその日の気分に合わせて楽しめる。まず試してほしい飲み方として、炭酸割りを教わった。

おいしい氷にこだわったり、香りを包み込むようなグラスを選んだりするのもおすすめだそうだ。「山椒を一粒落とす、レモンを少し添える。そんな小さなひと手間で、飲み口はぐっと変わります」と三宅さん。

そのほか、瓶ごと冷凍庫で冷やし、とろみを出してから飲んだり、琥珀浄酎をアイスにかけて食べるなどして楽しむ人もいるという。これまでにないお酒だからこそ、自分なりのアレンジを試したくなるのかもしれない。

樽で熟成すると、ウイスキーのような深みとバニラのような甘い香りが加わる

日本酒の香りを守る、低温浄溜

浄酎が生まれたきっかけは、「多様で豊かな日本酒文化を未来に残したい」という思いを持つ三宅さんが、「低温浄溜(ていおんじょうりゅう)」という技術に出会ったことだった。

創業地の三角島を眺められるナオライの無農薬のレモン畑
その頃、三宅さんは広島県呉市豊町久比にある離島、三角島(みかどしま)でナオライを創業し、瀬戸内海と島々を見渡す高台のレモン畑でレモンを育てていた。そのレモンを日本酒と掛け合わせたスパークリング酒「MIKADO LEMON」の開発など、レモンの皮を用いた加工品づくりに取り組む中で、低温浄溜の技術を持つ人物と知り合ったという。

果肉の酸味と皮の苦みが、もぎたてのレモンを思わせる「MIKADO LEMON」
三宅さんにとって大きな気づきとなったのは、「香りは熱で死んでしまう」ということだった。目に見えない香りや微生物にも、生命が宿っている。その気づきが低温浄溜への興味を強め、共同で浄酎を開発することに繋がった。

低温浄溜では、窯の中の圧力を変化させることで沸点を下げ、低温でお酒を蒸留する。通常、お酒を蒸留する際は高温で熱するため、繊細な香り成分が壊れてしまうことがある。しかし、低温であれば、日本酒に含まれる香りをできるだけ損なわずに取り出すことができる。

浄酎を支える低温浄溜は、特許技術だ
浄酎は、35〜39℃という低い温度でお酒を蒸留している。そのため、日本酒が持つ華やかな吟醸香や、純米酒ならではの米の香りを、余すことなく閉じ込められるのだ。

日本酒を低温で蒸留するという新しい試みは、設計図もゴールもないまま、すべてが手探りだった。それでも三宅さんは、「大変というよりも、面白くモデルをつくっていく感覚だった」と振り返る。

土地によって味わいが変わる、浄酎の面白さ

浄酎の製造は、2019年、神石高原町にある築150年を超える旧酒蔵を改装して浄溜所を構えたのがはじまりだ。

歴史ある旧酒蔵を引き継ぎ、蔵部分は神石高原最古の建物だという神石浄溜所
その後、創業の地である三角島の対岸の久比にも浄溜所を設け、近年は地域の中小規模の酒蔵と組み、浄酎をつくるという広島発のモデルを他地域にも広げつつある。2025年には石川県中能登町に「能登浄溜所」を、長野県長野市にも浄溜所を準備中で2026年秋の開所を目指している。

同じ浄酎でも、使う酒蔵や熟成させる土地によって、味わいは少しずつ変化する。

広島の浄酎は、県内3つの提携酒蔵で醸造された日本酒を原料としている。仕入れた日本酒はその都度蒸留するため、購入する時期によって味わいが微妙に異なることもあるという。なかでも、Goldと琥珀浄酎は、神石高原町の有機農家、タナベファームとマリモファームが栽培する有機米を使った日本酒を原料としており、標高500メートルの高原に位置する神石高原町で樽熟成される。

神石高原町の熟成倉庫。澄んだ空気の中で、浄酎はゆっくりと熟成していく
一方で、石川の浄酎は、地元酒蔵・鳥屋酒造が醸す純米生酒「池月」を原料にしている。もち米のような米感のある味わいが特徴で、樽熟成は里山豊かな能登の地で行われる。

震災を乗り越えながら受け継がれてきた酒造りの文化を未来へつなぐ、能登の浄酎
どんな土地でつくられたのか。そんな背景に思いを馳せながら、産地ごとの味わいの違いを楽しんでみたい。

歴史ある酒蔵文化を、新しい技術で未来へつなぐ

かつては4,000以上あったといわれる酒蔵も、廃業が続き、現在は1,150蔵ほどに減っているという。「このままいくと、30年後には500蔵ほどになるかもしれない」と三宅さんは危機感を感じている。

三宅さんが日本酒に強い思いを抱くようになったのは、親族に酒蔵関係者が多く、幼い頃から日本酒業界を身近に感じてきたことが大きい。大学時代には上海に留学し、卒業後も20代のほとんどを上海で日本酒の販売やマーケティングに携わった。

そこで直面したのが、日本酒特有の「消費期限問題」だった。水分が多く劣化が早い日本酒は、ウイスキーやワインのように「◯年もの」として長期熟成させることは一般的ではない。こうした経験から、「自分が日本酒業界を変えたい」という決意が芽生え、帰国後のナオライ創業へと結びついていった。

NOSIGNERが手がけたボトルデザインは、自然の水滴をイメージしたボトルに、紙垂(しで)をあしらい、穢れのない神聖なお酒を表現している
経済合理性だけで見れば、地方の小さな酒蔵は割に合わない存在かもしれない。それでも、100年、200年と続いてきた蔵には、数字では測れない文化や歴史がある。ナオライは、そうした酒蔵の営みをスタートアップの技術によって新しい形で未来へつなぐことに挑んでいる。目指すのは、「酒蔵がもっとあった方がいい、存在してよかった」と思ってもらえる未来だと三宅さんは話す。

掲げるビジョンは「時をためて、人と社会を醸す」。背景には、自然ともっと調和した生き方があるのではないか、そんな思いがある。そして、とりわけ創業地の三角島に戻るたびに、自然と人との距離感を感じるという。

三角島は、時代とともに姿を変えてきた。1950年代には薪のために木々が伐採され、島はほとんどハゲ山だった。その後、柑橘栽培が盛んになると、山は一面の柑橘畑に。ところが2000年頃から農業をやめる人が増え、今では森に還った畑も少なくない。

「人がどれくらい手を入れた自然が、一番美しいのか」。そんなことを考えながら、浄酎をつくり続けているという。

自然のまま残った土地は全国でも数少ない。人と自然との関係性を考えさせられる

都市とその地域を行き来する時間に

「究極の美味しいものは待たないとできないし、自然からしか生まれない」と三宅さんは話す。素材のよさを引き出すために、低温で丁寧に蒸留する。その先には、酒蔵や地域にも思いを馳せてもらいたいという思いがある。

ナオライが三角島で営む宿「五心庵(ごしんあん)」では、同じく自社開発の発酵うまみ調味料「UMAMINO」を使った鍋と浄酎を合わせて味わう体験もできる。浄酎は、蒸留酒のため糖質はほぼゼロに近く、それでいて日本酒由来の香りがしっかり立つので、食事との相性も良い。

浄酎の製造過程で生まれたUMAMINO。ひとさじ加えるだけで料理の旨みを引き立てる
近年はさらに展開の幅を広げ、東京や広島、大阪のバーテンダーと連携し、浄酎を使ったカクテルの開発にも力を入れている。また、輸出にも力を入れ、アメリカやスペインなど海外からの反響も増えているという。

浄酎は、常温で保存でき、日持ちする。日頃は棚に飾っておき、ゆったりと過ごしたい夜に、少しずつ味わうのもいい。グラスを片手に、ただゆっくりと過ごす時間をつくってみるのはいかがだろうか。

「飲んでいただく皆さんと一緒に、ブランドを育てていきたい」というのが三宅さんからのメッセージだ

ナオライ

浄酎 Gold(JOCHU Gold AWO JINSEKI 35 300ml)

価格:4,400円(税込)/300ml/アルコール度数35%
産地:広島県神石高原町

https://ec.naorai.co/products/jochu-gold-awo-jinseki-35-300ml

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