Vol.257

MONO

03 AUG 2021

東京でできる 風鈴作り体験。吹きガラスで作り出す江戸風鈴の魅力とは

窓辺で風に揺れながら涼やかな音色を奏でる風鈴は、夏の風物詩として人々に親しまれている。日本の伝統工芸として、あらゆる技術を濃縮して制作されている風鈴には、さまざまな種類が存在していることをご存知だろうか。なかでも有名な風鈴の1つである江戸風鈴は、体験教室で自作できることでも人気を集めている。ここでは、風鈴の歴史や種類、江戸風鈴の作り方などに注目したい。まずは、関東で風鈴作りを体験できる工房を紹介しよう。

東京で江戸風鈴作り体験に参加。オリジナル作品を生み出す

炉の灯りを取り入れて輝くガラス。どんな音を奏でるのだろう
夏の窓辺に風鈴があれば、と考えたときに、自分で手作りしたものを飾ってみたいという人も多いだろう。ここでは、江戸風鈴作りの体験ができる老舗の工房、篠原風鈴本舗を紹介する。

篠原風鈴本舗は、大正4年に東京で創業した老舗の風鈴製造工場だ。江戸時代に作られていたガラス風鈴と変わらぬ製法を守り続け、風鈴を制作している。江戸風鈴はもともと「ガラス風鈴」や「ビードロ風鈴」と呼ばれていたが、昭和40年頃、二代目である篠原儀治が「江戸風鈴」と名付けたという。篠原風鈴本舗が現在行っている風鈴作り体験には、絵付けのみの体験とガラス吹きからの体験がある。

絵付けのみの体験は、出来上がったガラスの風鈴に自由に絵を描く。ガラスを膨らませるところを見学し、絵付けの説明を受け、絵付けを体験するという流れだ。ガラス吹きからの体験は、同様にガラスを膨らませているところを見学したあとに、実際に自分でもガラスを膨らませる。そして、ガラスを冷ましている間に絵付けの説明を受け、絵付けを行う。音を鳴らすためには糸付けという作業も必要だという。さまざまな工程を経て作った風鈴は宝物になるだろう。両方とも、作った当日に持ち帰れるというのもうれしい。

【篠原風鈴本舗】
〒133-0065 東京都江戸川区南篠崎町4-22-5
03-3670-2512
https://www.edofurin.com/
※風鈴作り体験は電話にて予約が必要

日本各地で受け継がれる、風鈴の伝統工芸技術

日本には名産品として数多くの種類の風鈴が存在しており、それぞれが見た目や音色などにさまざまな特徴をもっている。ここでは、有名な風鈴の種類の一部を紹介しよう。

風鈴の代表格「江戸風鈴」

透き通るガラスと鮮やかな絵が見た目も美しい、涼を呼ぶ江戸風鈴
風鈴の代表格として知名度が高いのが、江戸風鈴。江戸風鈴は 、先に紹介した篠原儀治が名付けたブランド名であり、その一門だけが名称を使用することができるのだという。現在の東京、すなわち昔の江戸にあたる場所で、今もなお江戸時代の製法で作られている風鈴だ。

江戸風鈴の鳴り口は、刃物でガラスを切り落とす際にあえてギザギザになった部分を残している。こうすることで、「舌(ぜつ)」と呼ばれるおもりの部分が少し触れるだけでも音が鳴り、江戸風鈴特有の「チリン、チリン」というガラスが織りなす涼しげな音色を奏でてくれるのだ。

江戸風鈴は江戸時代に行われていた技法を守り、ガラスを吹いて形を作るところや絵付けなどがすべて手作りで行われる。そのため、同じ風鈴に見えても、それぞれの作品で異なる音色を楽しめる。機会があればぜひ聞き比べてほしい。

澄んだ音色が魅力的な「南部鉄風鈴(南部風鈴)」

遠くまで音色が響く、シンプルながら愛らしいフォルムの南部風鈴
江戸風鈴と並んで知名度が高いのが、南部風鈴である。南部風鈴は岩手県盛岡市と奥州市の伝統工芸品である「南部鉄器」の製品の1つだ。南部鉄器は 良質な鉄 を原料とした密度の高い鋳物(いもの)で、南部風鈴も重厚な見た目をしている。

南部風鈴は、軽やかに鳴るガラスの江戸風鈴とは異なり、高く澄んだ音色が響き渡るのが特徴だ。小さめの作りになっているため、置く場所を選ばず見た目の主張も少ない。そのため、大きい風鈴は使いにくいという人に選ばれている。南部風鈴の高く澄んだ音色は、環境省の「残したい日本の音風景100選」にも選出されている。

映画にも登場した「小田原風鈴 」

知名度はあまり高くないものの、コアなファンが多いのが小田原風鈴だ。小田原風鈴は、室町時代から続く小田原の伝統工芸である「小田原鋳物」の1つで、その歴史は北条時代までさかのぼる。銅と錫(すず)の合金である砂張(さはり)製で、風鈴の音色の余韻が長く残るのが特徴だ。「真鍮(しんちゅう)は年々音が悪くなるが、砂張は『鳴り上がる』といって音がよくなる」というのが、砂張製の風鈴の特徴といわれている。

また、映画監督の黒澤明氏が小田原風鈴の音色に魅せられたことから、映画「赤ひげ」の重要なシーンに登場したことでも知られている。映画好きの人はぜひ注目してほしい。

贈り物としても人気の高い「明珍火箸(みょうちんひばし)風鈴 」

明珍火箸(みょうちんひばし)は、火鉢の炭を取り上げる際に使用する金属製の火箸を4本吊り下げて、音を楽しむために作られた風鈴だ。明珍火箸は兵庫県姫路市で制作されており、兵庫県指定伝統工芸品として親しみをもつ人も多い。明珍火箸風鈴は、平安時代から続く甲冑(かっちゅう)師として名高い明珍家が、鍛冶の技術を活かして制作するようになったのが始まりだといわれている。明珍火箸は「厄をつまみとる」という意味をもっており、近畿地方ではギフトとしてもよく選ばれている。

明珍火箸は高く澄んだ音色と深い余韻が特徴的であり、アメリカのミュージシャンであるスティービー・ワンダーがその音色を「東洋の神秘」と評したことでも有名だ。「音のよさ」によって受け継がれた鍛冶の技術を、耳で楽しむのもよいだろう。

江戸風鈴の作り方とは。ガラス吹きで作り出される逸品

さまざまな歴史と伝統をもつ風鈴。ここまで紹介したように、江戸風鈴もまた独自の伝統をもつ技術の結晶だ。それでは、昔ながらの製法を守り続けている江戸風鈴の作り方とは、どのようなものなのだろうか。ここでは江戸風鈴の作り方のなかでも、特にガラス部分の作り方について詳しく紹介する。

ガラス部分は「宙吹き」という技法で制作

竿に息を吹き込んで成形する宙吹き
江戸風鈴のガラス部分には、空中でガラスを膨らませる「宙吹き(ちゅうぶき)」という技法が用いられる。炉の中で1,320℃前後に熱せられ、どろどろに溶けたガラスを長い竿で巻き取って塊にし、型を使わず竿に息を吹き込むことで成形するのだ。

ガラス部分は、「口玉」と呼ばれる小さなガラス玉の部分と、その上にさらに溶けたガラスを巻いて膨らませた風鈴本体に分けられる。口玉と本体を吹いたあと、糸を通すための穴をあけ、さらに一息で丸みを帯びた形に膨らませる工程にかけられる時間は、ガラスが冷めてしまうまでのたった1~2分。まさに職人技といえる技術だ。

そうして成形したガラスを冷やしたあと、口玉を刃物で切り落としてギザギザの鳴り口を作る。江戸風鈴の涼しげな音色は、職人の技と工夫が合わさって現代まで受け継がれているのだ。

ひとつひとつ手作業で絵付けを施す

ガラス部分が完成したら、手作業で絵付けを行う。江戸風鈴の絵は、絵の具が剥がれないように風鈴の内側に描かれるのが特徴だ。すぼまった鳴り口から細い筆を入れて絵を付けていく作業は、とても難しいものだという。また、先に付けた色が乾くまで上から他の色を乗せられないため、色の重なる部分がある場合は仕上がりに時間を要する。

絵付けは長年の経験や絵のセンス、そして手先の器用さが問われる作業だろう。風鈴作り体験に参加し、初めて絵付けを行おうという人であれば、少々芸術的な作品になってしまうのはご愛嬌、と思っておこう。

風鈴の涼しい音色がもたらす効果

夏の窓辺を涼やかに飾り、美しい音色を楽しませてくれる風鈴。風鈴はかつてどこで作られ、どのように広まったのか。ここでは、風鈴の歴史や風鈴がもたらす効果について紹介する。

本来は魔除けとして用いられた

神社につるされている風鐸(ふうたく)
風鈴は、およそ2,000年前の中国で、「占風鐸(せんふうたく)」と呼ばれる占いの道具として用いられた青銅製の鈴がもととされている。それが仏教とともに日本へ伝わり、当時は「風鐸(ふうたく)」と呼ばれて寺の四隅にかけられていた。風鐸の音色には浄化作用があるとされ、邪気を払うと信じられていたのだ。

平安時代には、疫病が広まりやすい夏に自宅につるすことで、無病息災を願う風習として広く浸透した風鈴。その後、江戸時代にオランダ経由でガラス技術が伝わり、日本でもガラス工芸が盛んになると、夏の涼を感じる道具としての役割ももつようになっていった。現在では夏の風物詩として、風鈴は多くの人に親しまれている。

体感温度を下げる「清涼効果」があるとされる

風鈴には心地よさを感じる以上の効果がある
風鈴の音を聞くと涼やかな気分になることがあるが、これは思い込みではない。風鈴の音を聞くと風をイメージすることから、涼感と結び付けて体温が下がると脳が判断するという。そして、末梢神経に命令を出すため、実際に体感温度が2〜3℃下がるといわれているのだ。ただし、「風鈴の音」と「涼」がイコールではない海外の人には、このような反応は起こらない。風鈴が揺れることで風が吹いたと瞬時にイメージできるのは、長く風鈴の文化に親しんできた日本人特有のセンスといってもよいだろう。

江戸風鈴作り体験が楽しめるのは東京だけ。格別な音色に癒やされる夏を

窓辺に風鈴があるだけで、ちょっとだけ涼しい夏を過ごせるかもしれない
夏の風景にぴったりな風鈴は、見た目の美しさを楽しむことはもちろん、澄んだ音色を聞くだけでも涼を感じることができる優れもの。湿気が肌にまとわりつくような蒸し暑い日本の夏に、ぜひとも取り入れたいアイテムだ。それが自分で作ったものであればなおさら、格別な音色に感じられ、暑い夏を過ごすのも楽しみになるだろう。東京近郊には江戸風鈴作りを体験できる工房はもちろん、風鈴の取り扱いがあるガラス工房も多数存在している。世界にただ一つの、自分だけの風鈴を自宅に飾るために、ぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。