Vol.253

MONO

20 JUL 2021

「房州うちわ」の歴史や特徴。現代まで涼を運び続ける伝統的工芸品の魅力とは

暑い夏に涼やかな風を運んでくれる、うちわ。うちわには「日本三大うちわ」と呼ばれるものがあり、その一つが房州うちわだ。房州うちわは千葉県 南部(館山市・南房総市)で生産されており、すべてが手作業の伝統的工芸品として人々に愛されている。ここでは、房州うちわの特徴や歴史について、詳しく紹介していきたい。

房州うちわとは?京うちわや丸亀うちわとの違い

日本の夏にぴったりな金魚柄
房州うちわを知るためには、まずは日本三大うちわについて知っておきたい。ここでは、日本三大うちわのそれぞれの特徴について解説する。

日本三大うちわの一つが「房州うちわ」

「房州(ぼうしゅう)うちわ」は、千葉県を代表する伝統的工芸品として千葉県 南部(館山市・南房総市)で作られている。京都府の「京うちわ」、香川県丸亀市の「丸亀うちわ」とともに日本三大うちわと呼ばれる品だ。房州うちわは平成15年に、経済産業大臣指定伝統的工芸品として認められており、これは千葉県内では初の指定となる。

京うちわと丸亀うちわについても、少し触れておこう。

京うちわの起源は朝鮮うちわといわれており、南北朝時代に倭寇(わこう)によってもたらされた。 京うちわの特徴である、柄を後から取りつける「挿し柄(さしえ)」の構造になったのは江戸時代以降のこと。
宮廷御用の狩野派といった絵師が描いた「御所うちわ」が定着し、その後庶民の夏の涼をとる道具として広まった。京うちわの多くは漆や金などのきらびやかな装飾や優雅な絵が施されており、その繊細な作りに魅了される人は多い。

丸亀うちわは、江戸時代以前に丸亀の旅僧が九州でうちわの作り方を伝授したのが始まりだといわれている。丸亀うちわは涼をとる以外にも、炊事や起火、日差し避け、虫をはらうなど、多くの場面で使われてきた。そのため用途に合わせた形や図柄のバリエーションが豊富に存在しているのが特徴だ。

房州うちわの歴史は明治時代に始まる

話を房州うちわに戻そう。関東地方では江戸時代の1781〜1788年にうちわの生産が始まったといわれている。しかし、そのときの房州ではまだ、うちわ作りはおこなわれていなかった。諸説あるが、明治から大正時代には房州ではうちわ骨の工程までをおこない、その後は東京で「江戸うちわ」として仕上げていたのだという。

1921年(大正10年)に東京日本橋のうちわ問屋が房州に工場を建て、うちわ骨の製造から仕上げまでを試みたのが、現在の房州うちわにつながったと考えられている。さらに、1923年(大正12年)に関東大震災で東京のうちわ工場が被災したことで、房州で本格的にうちわが生産されるようになったという背景もある。

房州うちわ最大の特徴は、職人が作り出す「丸柄」と「窓」

持ち手部分が特徴的な「丸柄(まるえ)」は、持ちやすさが抜群

竹の丸みを活かした形が房州うちわの特徴

房州うちわの特徴の一つである「丸柄(まるえ)」は、女竹(めだけ)とも呼ばれる細い篠竹(しのだけ)から作り出されており、房州地域の山に自生しているものを原料としている。丸柄は太さ1.5cmの篠竹を64等分に割いて骨を作り、それを糸で交互に編むことで扇型を作ったもの。編み上がると「窓」と呼ばれる半円部分に魅力的な格子模様が現れ、房州うちわの美しさが引き立つ。

房州うちわには、伝統的な浮世絵や美人画などが描かれた時代もあったが、現在では大衆に好まれる素朴な絵柄も増えている。また、和紙ではなく浴衣の布地が使われることもある。

房州うちわは製造過程も特徴的

房州うちわは21もの工程から作られている。ここでは房州うちわ作りの一部を紹介しよう。

まず「割竹(さきだけ)」と呼ばれる工程では、竹を細かく割いて骨を作る。最初に8等分、次に48等分にし、最後には64等分になるように竹を割いてゆく。次に、作った骨を糸で交互に編んでいく「編竹(あみだけ)」をおこなう。その後の「窓作り(まどづくり)」と呼ばれる工程では、骨が動かないように糸を引き締め、骨の両端と骨に通した「弓」と呼ばれる竹串を糸で結びつける。1本1本焼き入れを行って扇面の部分を平らにする「焼き」の工程を経たのち、うちわ骨に和紙や布を貼りつける「貼り(はり)」という工程をおこない、乾燥した屋内で乾燥させる。最後の仕上げには、うちわの縁に細いへり紙をぐるりと貼り付ける「へり」という工程もあるそうだ。

これらの作業はすべて熟練した職人によるものだ。房州うちわは、匠の技が詰め込まれた伝統的工芸品としてふさわしいことがおわかりいただけるだろう。

贈り物にも喜ばれる房州うちわの魅力

飾っておくだけでも粋な雰囲気を醸し出す

うちわの基本型は4種類

うちわといえば、一般的な「丸型」を思い浮かべる人が多いだろう。房州うちわには「丸型」はもちろん、卵のような曲線の「卵型」、柄が長く扇面の部分がコンパクトな「柄長」、直径約30cmにもなる「大型」の4種類の形が存在している。房州うちわは絵柄にあわせて形状を変えられる特徴があるが、それは機械生産ではなく、すべてが手仕事であるからこそ実現できる技といえるだろう。また、篠竹を細く割いた骨と一体となっている丸柄は手に馴染みやすく、しなやかに動くのが魅力だ。

実用品としてだけでなくインテリアとしても人気が高い

うちわは日本の夏の風物詩といっても過言ではない。房州うちわはあおぐだけではなく、浴衣の帯に差してファッションとして楽しむこともできる。さらに、現在では舞踊の小道具やインテリアとして用いられることが増え、贈答品としても多くの人に選ばれている。房州うちわが贈答品として選ばれるようになったのは、千葉県で初めての経済産業大臣指定伝統的工芸品に認定され、千葉県の特産品として知名度が上がった点も大きく作用している。

以前は和紙のみが貼られていた房州うちわだが、最近では和紙以外に布地を使用したうちわも生産され、デザインのバリエーションが増えている。国の伝統的工芸品として認められた今もなお、房州うちわは進化を続けているのだ。

房州うちわを制作するおすすめ工房を紹介

ここでは、現在も昔ながらの工程で房州うちわを作っている工房を3つ紹介する。

うちわの太田屋

太田屋 房州うちわ
うちわの太田屋は、もともと東京で江戸うちわを作っていた工房だ。戦争後に房州に移住し、現在も竹作りから制作まで、房州うちわの生産を続けている。太田屋ではうちわ作りの体験教室(予約制)を開催しており、世界でたった一つの自分だけのうちわを作ることができる。ぜひ挑戦してみてはいかがだろうか。

うちわの太田屋
住所:千葉県南房総市富浦町多田良1193
TEL:0470-33-2792
HP:http://ota-ya.net/

うやま工房

うやま工房 房州うちわ(卵型)萩 |画像提供:和雑貨 翠
房州うちわが伝統的工芸品に指定された際、審査に持ち込まれたのはうやま工房の先代が制作した、房州女竹を使ったうちわだったそう。現在は二代目の娘さんが、先代から房州うちわ作りの技術を引き継いでいる。うやま工房も、現在も竹の採取から仕上げまで、すべての工程を自社工房でまかなっているという。また、うちわ制作の体験ができるようになっており、出張ワークショップをおこなうこともある。

うやま工房
住所:千葉県南房総市本織2040
TEL:04-7036-2130
うやま工房の房州うちわは、日本の伝統工芸品・和風雑貨を取り扱う「和雑貨 翠」にて販売されている。
和雑貨 翠HP:https://wazakkasui.com/

うちわ工房 和

うちわ工房 和 房州うちわ
うちわ工房 和は、おばあちゃんたちが中心となってうちわ制作をしている小さな工房。昭和7年生まれの主の実家であった老舗の閉店を機に、新たに立ち上げた工房だ。うちわは浴衣反物や和柄綿生地、友禅紙などで作られている。シンプルなものから色鮮やかなものまでバリエーションが豊富にあるなか、特にたくさん制作されている昔ながらの和風の柄が目を惹く。

うちわ工房 和
住所:千葉県館山市船形222-8
TEL:0470-27-2331
HP:http://uchiwakoubou-kazu.com/

歴史深い房州うちわが涼しい風を運んでくれる

房州うちわは浴衣によく似合う
あらゆるものが大量生産でまかなわれるようになった現代では、うちわも手作業ではなく「ポリうちわ」と呼ばれるものが国外で機械によって生産されることが増え、安価で販売されていることが多い。手作業で作る房州うちわは作業工程が複雑なため、現在は工房の数が5軒のみになってしまった。また、職人の高齢化により、後継者の不足にも頭を悩ませているという。しかし、そんな房州うちわの繊細さや美しさは、出会った人々を今もなお魅了し続けている。房州うちわ作りの技術こそ、人々に受け継がれるべきものであり、後世に残ってほしい伝統工芸の技術ではないだろうか。